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9. うん。まあそれなりに……?

うん。まあそれなりに……? ④

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お持たせ致しました (;´Д`A ```

すっかり間が空いてしまい済みません m(__)m
今回、二話更新です。
*************************************

 
 ***


 あまりの事に声も出ない。
 挙式の時はいなかったのに、何故、平然とそこに居るのだろうか。
 高砂で隣に座る怜の顔を横目に見て、その表情に梓が戦慄を覚えた。

 ケーキ入刀の時に気が付いてからずっと、怜の顔から表情と言うものが消え失せ、一点を注視する能面のような美貌が、彼女の恐怖を煽る。
 決して梓のせいではないのに、この居た堪れなさは何だろう?
 今日の主役でありながら、一も二もなく逃げ出したい心境に駆られる。

(……だよね。あたしだって、びっくりしてるんだから、怜くんが何とも思わないワケないよね)

 招待客の多さとかを考えたら、妥当なのかも知れない。
 慎太郎一人に任せるのは、結構骨だと思う。
 でもそれなら他のアシスタントか、美空を連れ来て欲しかった。

(Cooさんが無理なのは、重々承知なんだけどねっ)

 何しろ本職で忙しい時期だ。
 慎太郎のアシスタントが彼女の仕事ではない。時間がある時に、師匠の手伝いをしているだけであって、美空はプロだ。
 十玖のバンド、Angel Dustのサマーツアーに同行している美空を思い、梓は知らず溜息を吐いた。

(だからって……)

 慎太郎だって気まずい事を知っている筈なのに、来るなんて一言もなかった。
 自然と問題の人物に目を遣る。
 歓談の時間になり、淡々と披露宴が進行していく中で、シャッターを切っていく姿が不意にこちらを振り返った。
 梓は思わず身体を震わせ、硬直する。
 きっと顔色が悪いだろう、そんな自覚をしている彼女の手をぎゅっと握り締めて来る感触に、ハッとして怜を振り返った。

「あからさまに動揺されると、ムカつく」

 先刻まで能面だった怜が、不機嫌に顔を歪めている。
 これはヤバいやつだ、と冷や汗がダラダラ流れ、近付いて来る気配を感じつつ、嫉妬を隠しもしない目の前の夫から目を逸らせない。

「や、やだなぁ。そりゃ、ビックリはしたけど」

 微かに上擦った声で、動揺しているのが怜にはバレていると分かりつつ、必死に笑みを作る。  
 近付いてくれるなと言う願いも虚しく、二人の前に立ってお辞儀をして来た。

「本日は、おめでとうございます」

 そう言って、城田が少し切なげな目で梓を見、微笑んだ。

(う……うわーっうわーっうわぁぁぁぁあ!)

 目をひん剥いて頭の中で絶叫してた。幸せな花嫁に有るまじき形相だったに違いない。
 怜は一瞬むっと半眼になり、彼の指が彼女の指に絡んで、キュッと握り直してくる。

「結構、面の皮が厚いんですね」
「これも仕事なので」

 怜が厭味ったらしく微笑めば、城田も負けじと微笑んで大人な返しをしてくる。怜の額に青筋を発見したけれど、緊迫した状況に喉が張り付いて声が出ない。
 梓が蒼白になって二人を見守る中、静かな攻防が続く。

「その節は、妻がお世話になりまして」
「とんでもない。こちらこそ、梓さんのお陰で仕事のオファーが増え、感謝したりないくらいですよ。お礼に今度お食事でも如何ですか?」

 城田が視線を梓に向け、ニッコリと微笑む。完全に、怜に対する挑発だ。  
 梓が目を剥いてブンブン首を横に振ると、城田は残念そうに肩を竦めて苦笑する。

「収益金も全部寄付してしまうし、ちゃんとお礼したかったんだけどな。実は、アズちゃんで第二弾の話も来ていてね」
「お断りします」

 電光石火で怜が断った。
 その速さに梓が唖然としている隣で、怜が言を継ぐ。

「梓は一般人なんで、今後一切そういう話は受け付けられませんね。そもそも前の写真だって、肖像権の侵害だ。梓が大事にしたくないって言うから、大人しくしてましたけど」

 と怜は言うが、裁判にしなかっただけで、城田が持っていたデータを始め、ネット上に拡散された写真データを、南条の持つセキュリティチームに悉く抹消させている。ただし紙面になって既に個人の所有になった物まではどうしようもなく、彼は歯噛みをしていたけれど。

 ストーカー張りの過保護を夫に持った時点で、なんか色んな事を諦めている。
 いや。もっと前から。梓として生を受けた時から、これが自分の宿命なんだと達観した。
 利用できるものは手段を選ばず利用する独占欲も、ここまでくるといっそ清々しい。
 因みにパネルは全部引き取り、実家の怜の部屋に収納されている。気にくわない男が撮った物でも、梓の写真を処分することは怜に出来ないらしい。そのうちの数点が、凛子のエステサロンに飾られて、嫁自慢に使われていると義姉の彩織が言っていた。
 恥ずかしいから止めて欲しいのだけど。

「大体何であんたがここに居るんだ?」

 怜の尤もな疑問の言葉に頷きながら、梓は視線を城田に向けた。
 人様に勘繰られる様なことはなかったとは言え、どうしたってお互い気まずいし、上手いことはぐらかしてお断りしそうなものだ。梓だったら間違いなくそうしている。
 城田は怜の親族席を振り返った。
 一瞬だけれど、城田の顔が複雑そうな表情を見せた気がして、梓は小さく首を傾げる。彼は溜息混じりに言葉を吐き出した。

「南条彩織さんの指名だからですよ。そこにどんな意図があるのかは、知りませんけどね」

 感情の読み取れない面持ちで二人を見、城田は「仕事があるので」と会釈して、その場を離れて行った。
 なんだろう。釈然としない思いが残る。
 彩織が指名したという言葉も気になり、城田の背中を追っていた視線を彩織に移す。彼女はこれと言って変わった所もなく、志織と談笑していた。

 司会進行役のスタッフが、お色直しで退場する旨をアナウンスすると、介添人がそっと声を掛けてきた。
 ケーキ入刀から僅か十分やそこいらの時間が、途方もなく長く感じた時間だった。

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