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6. 梓、ビビッて逃走する
梓、ビビッて逃走する ⑤
しおりを挟む元旦早々から梓はバイトなので正直面白くない。
面白くないが、不満を口にしてここでまた彼女を怒らせると厄介だと、必死に堪えている。喧嘩をするために来ている訳じゃないし。
出来ればこの機に距離を縮めたいと思っているが、彼女の反応を見る限りまだまだ無理そうだ。
年が明けてすぐ、二人は近所の神社を詣でた。
思えば二人きりで初詣に行くのは初めてで、お互いちょっと照れながらお参りし、いやにテンションが高くなっていた梓に失笑すると、ちょっと拗ねられた。
戻った頃にはすっかり冷えた身体を風呂で温め、新年の特番を見ながら談笑していたのだが、不意に梓が静かになり、怜の腕の中でうつらうつらと舟を漕ぎ出した。
日中、梓が働いている所を店の外から覗いてみたら、忙しなく動き回っていたから限界だったのだろう。
起こしてロフトに行かせようかとも思ったが、疲れている彼女を起こすのも可哀想で、怜は下に布団を敷くと梓をそこに寝かせ、自身も隣に横になる。自分で自分の首を絞める行為に、自虐的な笑みを浮かべるも、梓の眠りを妨げることはしなかった。
お陰でなかなか寝付けず、明け方いよいよヤバいと悟ると、安心しきって寝ている彼女を思いながら、浴室に篭って自分を慰めた。その虚しさと言ったらないが、何もしないと誓った手前、前科者は死ぬ気で耐えるしかない。
漸くうつらうつらし始めた朝、梓は目が覚めると隣に怜を見留めて、布団から転がり出るほど驚いていたが、ちゃんとパジャマを着ている自分を確認して、落ち着きを取り戻した。
そして元旦の早朝から懇々と梓をお説教をし、
「今度迂闊に僕の前で寝たら、同意と見なす」
「……誠に以て申し訳ございません。今後この様なことがないように気をつけます」
そう言って平謝りだった彼女が、元日の晩(泊まり三日目)も同じ失敗を繰り返した。怜が首筋にキスを落とすと怒るくせに、気が抜けると途端、怜の腕の中で居眠りする。そんな彼女に憤りをぶつけることも叶わず、自制心と闘いながら昨日と同じように寝かせた。
でも二日の晩(泊まり四日目)はさすがにキレた。
これでキレなかったら健康な男じゃない。
疲れているのは、分かる。分かるけど、ただでさえ生殺しの状態を耐えているのに、余りに酷い仕打ちだろう。怜の忍耐力を試すために、わざとやっているんじゃないかと疑ってしまう。
あれだけ人を水際ブロックしておいて、いざ手の届く範疇に来たら笊の警戒心では、怜の自制心と身が保たない。
怜は肩を掴んでガクガクと梓を揺らし、「アズ起きてッ!!」悲鳴に近い怒声を上げた。
「仮にも一度僕に襲われてるんでしょ!? また襲われたいのッ!?」
漸く半目を開けた梓は頭の重さに耐えられないとばかりに、首をぐにゃぐにゃさせて揺れている。
「……ねむ…ぃ」
「眠いのは分かってる。疲れてるのも。けどお願いだから、僕の自制心が言うことを利くうちにロフト上がって。じゃなきゃ今日こそホントに襲う」
寝ぼけ眼の梓を突き放すと彼女はくにゃりと力なくうずくまり、溜息と共に怜はすくっと立ち上がった。気配を察知した梓がのろのろと顔を上げる。
「れいくぅん…どこ行くの?」
「トイレ!戻ってきた時にまだそうしてたら、本気で襲うからね。いいねッ!?」
怜が睨み下ろすと、梓もやっと少し頭が回りだしたようで、這って梯子まで行くと怜を振り返り「ごめんなさい。おやすみなさい」とよじ登っていった。
その後ろ姿に、取っ捕まえて引きずり降ろし、思い切り抱いてしまいたいと思ったのは、梓には内緒だ。
ホント勘弁して下さいと叫びたくなる。
子供の頃から、一度懐に入れてしまうと警戒心が無くなってしまうのは、梓の良い所と言ってやりたいが、翔と怜には気が気じゃないほどの大きな欠点だ。
しかも今は自分から梓を守るためにとか、どんな苦行だと思う。
身体の熱が冷めやらず、怜は温めのシャワーを頭から被って溜息を吐く。
「なんで毎晩抜いてんだろ……」
流れていく白濁を眺めながら呟いた。
手を伸ばせば直ぐにでも抱ける所に梓がいる。
初めて彼女を抱いたあの日から、何度梓の乱れる肢体を思い出しては頭の中で犯して、自慰に耽ったろう。
そんな男の腕の中で居眠りをする梓が可愛いと思う反面、安心されていることに無性に腹が立つ。ついこの間までの警戒心を思い出せよと、彼女に言いたい。
三日続けて手を出さなかったから、だろうか?
こんな時にお兄ちゃんポジションが復活したなんて、絶対にお断りだ。
苛立ちながらも梓を思い出せば、身体の中心に血液が集中し、硬さを取り戻し始める。怜は「くそっ」と吐き捨て、瞬く間に滾った肉杭を扱き始めた。
眉を寄せ、固く目を瞑って梓を思う。
熱い吐息が漏れる。
コンコン。
ノックする音に手が止まる。怜はぎょっとして扉の方を見た。
「怜くん。大丈夫? お腹痛い?」
トイレ行くと言ったからだろうか、向こうで心配そうに声を掛けて来る。
けど今はそこに居たらダメだ。
「平気だからっ、早く寝てっ」
「でも……お薬いる?」
「あずさッ!! 頼むからッ。向こう行って!」
切羽詰まった声で言う。梓は「でもでも」と言い募って言うことを利いてくれそうになく、怜は舌打ちをしてシャワーを止めると、一度大きく扉を叩いてから一気に押し開けた。
梓の安心した顔が見る間に真っ赤になって「ごめん」と身を翻したのを怜は抱き寄せる。腕の中で梓が硬直するのが分かった。
「何で直ぐに言うこと利いてくれないの?」
梓の腰に硬く張り詰めたモノを押し付ける。
「アズちゃん煽るくせに抱かせてくれないから……。こっちは傷付けないように一杯一杯なのに。ダメでしょ。アズちゃんを思って慰めてる時に近付いたら」
真っ赤になって震えている項にキスをする。すると梓はピクリと小さく震えた。怜は唇を首筋に這わせ、耳朶を軽く食んだ。
「ま……待って待って、怜くん」
「いや?」
一応聞いてみたが、嫌と言われても素直に利いてあげる自信がない。
腰に回した手をゆっくりと体のラインに沿って這わせ、耳元で囁く。
「アズちゃんが誓いを破らせようとばかりするから、僕はどうしたらいい?」
「ど、どう…したらって」
耳殻を舌でなぞると梓は首を竦める。梓の身体を撫で弄っているうちに、手が自然とパジャマの中に滑り込んだ。掌に感じる梓の吸い付くような肌に、理性が焼き切れる寸前まで追い詰められていく。
無理やり抱かないと約束した。
それを反故にしてしまいそうなほど、屹立が激しい昂りを見せている。彼女にぐりぐりと押し付け「抱いてもいい?」と懇願した。
お願いだから頷いてと、願いながら彼女の肌に触れ歓喜で身体が震える。
あの日からずっと夢にまで見た梓の感触。
「梓、愛してる」
言うともなしに零れた言葉に、梓は小さく頷いた。
一瞬信じられない物でも見たかのように梓を見下ろし、顔がだんだん緩んでくる。
「それって、OKってこと? 抱いてもいいの?」
「……訊き返さないで」
消え入りそうな声だった。
けど間違いなく彼女は許してくれて、俯いた項は先刻よりも真っ赤だ。そこに口付けると彼女は微かに震え「ありがと」と漏らした言葉に、また小さく頷いた。
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