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4. 怜、不測の事態に困惑し、結果突っ走ることにした
怜、不測の事態に困惑し、結果突っ走ることにした ④ 【R18】
しおりを挟む床に直置きされた背の低い間接照明の光は天井を射し、柔らかな光となって降り注ぎ辺りを照らす室内に、淫猥な水音と抗って呻く声が響く。
怜の舌先が巧みに梓の口中を弄び、何度も意識を飛ばしかけながら、それでも必死に抗っていた。
翔の名前が出た途端、怜が素になったから畳みこんで良心に訴え、逃げられると思ったのに完全に墓穴だった。
(言葉を遮るようにキスをして来たのは、良心の呵責? 少しでも、お兄ちゃんに悪いと思ってる…?)
これは梓の希望かも知れない。
けどそうあって欲しい。
キスしちゃったウフフ的なものはサクッと取っ払われ、いきなりヘヴィーなキスから始まった梓に息継ぎの仕方など分かる訳もなく、と思っていたら呻いているうちに息継ぎを体得していた。
お陰で呼吸困難を理由に怜を遠避ける事は叶わなく、ぼんやりとする頭の片隅で、冷静に順応性と対応能力の高さを客観視している己が憎らしくなった。尤もこの能力が高かったから、翔と怜のこともあっさり認められたのだけど、今はそれどころではない。その片割れが可笑しなことになっているのだから。
もうずっと、怜はキスしかしてこない。
くちゅ…っと厭らしい水音に耳を何度も犯されているうちに、梓は身体の中心から湧き起こる、苛立ちにも似た違和感を感じ始めていた。それは後頭部から首筋にかけて飛び火し、耐えがたいものとなっていく。妙な感覚を訴えて来る身体から逃れたい一心で、梓は癇癪を起して暴れた。
しかし梓の暴走は、直ぐに鎮静化することとなる。
怜にいとも簡単に頭上で手首を交差して掴まれ、足は怜の長い脚に絡め取られて動けなくなり、背中を反らして暴れれば、彼が梓の上に伸し掛かって、逃げるどころか状況は彼女の望まない方向に流れた。
完全に動きを封じられた。
蠢く感じは次第にゾクゾクする震えに取って代わり、時々下腹に疼きを齎すようになってくる。何とか意識を保って怜に抗い、拒否の呻きを上げて来たけれど、本当はそれももうしんどい。
だけどこのまま怜に委ねてしまう訳にはいかない。その思いだけで梓は崖っぷちギリギリで踏み留まっているのに、それまで顎を掴んでいた怜の手指が梓の耳殻を辿り、耳朶に軽く爪を立てて抓まれると、思い掛けない微かな痛みに小さく震える。梓の鼻から甘い声が漏れて、漸く唇が解放された。
二人の間を銀糸がツーっと引いて切れ、怜がちろっと唇を舐めて薄く笑みを浮かべる。梓は身体に篭った熱を逃すように吐息を漏らした。
怜は上半身をゆっくり起こして片肘を着くと、空いた手で梓の柔らかな髪を掻き上げ、流れるように耳殻に触れた。梓の肩がピクッと震え、怜は少し困ったような笑顔で見下ろすと、「アズちゃんごめんね」と呟いた。
謝るくらいならと言い掛けた梓の唇を、怜の人差し指が制する。
「キスしているうちに萎えたら、勘違いって事で逃がしてあげようと思ってた。けど、無理だったみたいだ」
「……ぇ?」
「アズちゃんを壊したくないから出来るだけ優しくしたいんだけど、女性を抱くのは初めてだし、色々加減できないかもしれない。だから呉々も、暴れたり逃げようとか思わないでね?」
「……ひ…っ」
さらっと怖い事を宣って、妖艶な微笑みを湛えた怜の手が優しく胸に触れた。梓がビクッと体を震わせると、怜は驚いたように手を引っ込め掛け、すぐにサマーニット越しから触れる手の中の乳房を、ぎこちない指先で確かめる。
暫くの間、怜が指先のふわふわとした感触を楽しんでいるのを、梓は不思議な気持ちで見ていた。それはまるで赤ちゃんが母親の乳房に触れている時の感じに似ていて、怜がそんなあどけなさを見せるものだから、気を許しそうになってしまう。
(だ…ダメダメ。絆されちゃ。可愛くない。今の怜くん、可愛くないからねッ!)
しっかりしろと自分に喝を入れる。
今は可愛く見えても、目下一番の危険人物だ。
怜は梓の顔色を伺いながら、壊れ物でも扱うように力の加減を見ている。
「…怜くん、やめて。こんなこと」
今だって大事に扱ってくれる優しさがあるなら、一縷の望みで言ってみた。けれど怜は「やめない」と小さく首を振る。
「だってアズちゃん。僕は本当にアズちゃんを、女性を抱けるのか、知りたい」
「そ……それって、あたしに失礼じゃない!?」
「うん。ごめんね。でもやっぱりアズちゃんが欲しくて、昂りが治まらない」
キャミソールの裾から怜の手が忍び込む。梓のじっとりと汗ばんだ肌を彼の手が這い上がって行くのを感じ、咄嗟に手を掴んで止めていた。
「アズちゃん?」
「あ…や、だって、汗かいて…る」
動きを制した梓を咎める眼差しに口を噤んだ。怜はすっと目を細め、怯えた目をする彼女の瞼にキスを落とす。
「気にしなくていい」
「気にするでしょ、そこはぁ」
「どうせ汗を掻くんだし。後でいいよ」
「そーゆー問題じゃ……あっ!」
抱き起されたかと思いきや、するりとサマーニットをキャミソールごと脱がされて、梓は唖然とした。そこを空かさず怜の指が動き、胸元が緩んだ次にはブラが取り払われていた。
「ちょっと待て。何、この手際の良さ!?」
「構造は知ってるからね。一応。外したのはアズちゃんのが初めてだよ」
「嘘くさッ」
「じゃあ誰のブラを外すって言うの? 翔はしてないよ?」
「知ってるわよ、そんな事ッ!」
昨今、男性用のブラもあるらしいけど、翔は間違ってもしていない。梓的に、兄のそんな姿は見たくないと思う。
くだらない事を言い争っているうちに梓はショーツ一枚にされ、怜はカッターシャツのボタンを外しながら寝転がした彼女の姿態を眺め下ろすと、しみじみと言った口調で口を開いた。
「随分育ったねぇ。会った頃はツルペタだったのに」
「!? 一体何年前の話ッ!!」
無意識に頭の上に在った枕に手を伸ばし、抱き抱えて前を隠した。怜は眉を顰めて枕を取り上げようとしたが、がっちり掴んだうえに「いやーっ」と梓が泣きべそを掻き始めたので、一旦諦めて服を脱ぎ始める。するとまた「いやーっ」と声が上がり、怜は少々苛立った面持ちで彼女を見た。
「今度は何?」
「なんで裸になるのぉ」
「……アズ」
「怖い! 怖過ぎる! お願いします! 家に帰らせてぇ」
「あ~ず」
怜は一気に枕を引き剥がし、ベッドの下に落とした。
梓の手がもう一つの枕に伸び、怜は寸での所で捕まえると、手首をベッドに縫い付けて彼女の上に跨った。
「諦めて。アズの処女を散らすのが僕で悪いと思うけど、あの男には絶対にアズを渡さない。だから諦めて僕のモノになって」
あの男と言われて、城田の顔が浮かんだ。
気さくでとても優しい人。梓の気持ちが追いつくまで、待ってくれると笑顔で言ってくれた。やっと梓を一人の女性として見つめてくれる人に出会えたのに、答えを出せないまま終わろうとしている。
鼻の奥がジンとした。追って目頭が熱くなってくると、それが溢れるまであっという間だった。
「やだ。こんなの…こんなのヤだよ、怜くん」
一度溢れ出したものは止まりそうにない。
見下ろしてくる戸惑った怜の顔は、相変わらず見惚れてしまうほど綺麗なのに、今は憎らしくて切ない。
怜が覆い被さってくる。彼を睨んだ双眸にそっと口付けをし、唇が涙を吸い取っていく。
「アズちゃんを思ったら、こんな強引なことしたら駄目だって解ってる。けど、この機会を逃したら、アズちゃんはきっと僕をもう絶対に近付けてはくれないでしょ?」
当たり前だと心中で罵声を浴びせる。そんな彼女を分かり切っていると、怜が寂しげな笑みを浮かべた。
「凄く自分勝手なことをしてる。アズちゃんにも翔にも、とんでもない裏切り行為だ。その自覚もある。けど黙ってアズちゃんが他の男の所に行くのを見過ごせない。翔を裏切ってでも、アズちゃんがどんなに泣こうが暴れようが、僕は君を抱くよ? なかったことに出来ない様に…ね」
瞠目して震える梓にキスをしようとして、彼女にそっぽを向かれた怜は「ごめんね」と呟いて頬にキスを落とす。唇を這わせ、舌先が涙を舐めとり、徐々に彼女の項へと唇を滑らせた。
怜の熱い舌が蠢く度に、背筋にザワザワとしたものが走り上がる。その感覚が怖くて、嫌と呟く声と共に涙も溢れてきた。
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