64 / 65
9. ずっと一緒だよ。
ずっと一緒だよ。⑪
しおりを挟む
ノロノロ更新で、本当に申し訳ありません (ノД`)・゜・。
************************************
***
ふと、気が付いた。
いつだって、煩いくらい視界に入って来るのに。
沙和が篤志と居たら、絶対と言うほど離れたりなんかしないのに。
椥の姿が見えない。
披露宴の途中で、急に何かが欠けてしまった心許なさを感じ、無意識に椥の姿を探していた。
最初は、結婚するはずだった碧のことを思い出して、 “会いに行ったのかな?” くらいにしか思っていなくて、大して深く考えては居なかったのだけれど。
ひしひしと募っていく正体の分からない喪失感に、沙和の焦りはいや増すばかりで。
意識を集中して椥の気配を探す。けれど、この身に馴染んだ兄の存在を掴むことが出来なかった。
(お兄ちゃんが……いない?)
まさかと不安に駆られながら、何度も兄の名を呼んだ。
しかし、何処にも兄の存在を感じることが出来ない。
椥がふらふらとほっつき歩いていても、 “存在する” と確信できる繋がりが沙和と椥にはいつだって有った。それがまったく感じられない。
(また? また置いて行かれた……?)
二度と、沙和に黙って居なくなったりしないと約束したのに。
沙和との約束は簡単に反故にできるほど、椥には軽いものだったのだろうか?
花嫁の瞳に涙が見る見る浮かんでも、みんな沙和が感極まっているとしか思わないから、彼女にとって頓珍漢な声を掛けてくる。
(そうじゃない! そうじゃないのに……っ)
心の中の否定を声に出したら、きっと篤志を酷く傷つけてしまう。
この結婚を望んでいない訳ではないし、感情に振り回される程まだ冷静さを欠いてはいない。
だけど。
椥のことがなかったら、幸せを願って声を掛けてくれる人たちに、心から喜んで微笑んでいたはず。けど、そこまで気を配れない自分が、途轍もなく矮小に感じてしまう。
ドレスのスカートに涙がぽたぽた落ちて浸み込んでいく。
「……沙和」
不意に隣から声を掛けられて、がばっと顔を上げた。
「あ…あつ……おにぃちゃ……」
「うん」
そう言って静かに頷いて、篤志は沙和の涙をそっと拭く。
「まっ、またっ!」
「…うん」
「ふ………ぇええええ」
「よしよし。もうちょっと我慢な。二人になったら、好きなだけ聞いてあげるから。な? 沙和?」
篤志からハンカチを取り上げ、化粧が崩れるのもお構いなしに涙を拭う沙和を優しく抱き寄せて、困ったように眉を下げた篤志が背中をポンポンする。
事情を知らない招待客に揶揄われながらも、篤志は何とも言えない笑みを浮かべるのだった。
***
椥が去ってしまう少し前。彼は微かな苦みを含んだ笑みを浮かべ、篤志の隣に並んだ。招待客の余興にケラケラ笑っている沙和に視線を送り、溜息混じりに呟いた。
『とうとう沙和も篤志の嫁さんかぁ』
「何か?」
散々邪魔してきた椥をじろりと見る。すると彼はふっと笑いを漏らし、目を細めて妹を見た後、篤志に視線を戻した。
目が合って、篤志は息を呑んだ。
『沙和を、妹を頼むな』
小馬鹿にしたようでも、意地悪げでもない、真摯な眼差しがそこに在った。
やっと認めて貰えた、そんな感慨と共に篤志が大きく頷くと、途端に椥の顔が緩んでいつもの何処か飄々とした笑みが浮かぶ。その所為で “何かの罠か!?” と瞬時に考えてしまったのは、虐げられてきた年数の為せるわざだろう。
けれど、身構えた篤志に『何もしないって』と苦笑しただけで、愛おし気に妹に目を戻して椥は言を継いだ。
『そろそろお暇しなきゃならないからさ』
事も無げにさらりと言った椥を、信じられないものでも見る目で見てしまった。そんな篤志をまったく気にも留めず、椥の言葉が続く。
『沙和には、内緒な? 泣かれたら、ホント俺ダメだからさ』
「すぐ気が付くでしょうに」
『それでも、だよ。そして、お前の夫としての最初の仕事は、初夜ではない』
「ッ!?」
『ギャンギャン泣き喚き、俺の悪態を吐く沙和を宥めることだ』
「っ……それが狙いかっ」
『ふん。俺の置き土産にしては、生温いと思うけどな? 有難く頂戴しろ』
「嬉しくないわ」
『沙和を宥めるのはお前の力量次第だろ。……どれ。そろそろ逝くかな』
名残惜しそうに沙和を見るくらいなら、そう言いそうになった篤志に椥が不敵な笑みを刷くと、唐突にデコピンをされて一瞬面食らった。が、直ぐに気を取り直し、掴めないと解っていながら、椥に手を伸ばしていた。
椥の躰をすり抜け、篤志の手が空を掻く。
椥の唇が “ば~か” と動いたのを見て、篤志の眉間に皺が寄る。
「逃げるのか?」
篤志に負けるのを良しとしない、椥を挑発する言葉だった。
うぬぬと睨む篤志に束の間呆気に取られた顔をし、椥は唇の片端を上げる。
『I'll be back. 首を洗って待っておけ』
「ふ……不吉な」
『精々、胆を冷やしておくんだな。戻ったら今度こそ容赦しない』
「くっ……返り討ちにしてくれるわ」
『それは楽しみだ』
そう言って、どこまでも腹の立つ艶然とした笑みを浮かべた椥は、『またな』と直ぐにでも会えると言いたげな言葉を残し、掻き消すように姿を消してしまった。
************************************
***
ふと、気が付いた。
いつだって、煩いくらい視界に入って来るのに。
沙和が篤志と居たら、絶対と言うほど離れたりなんかしないのに。
椥の姿が見えない。
披露宴の途中で、急に何かが欠けてしまった心許なさを感じ、無意識に椥の姿を探していた。
最初は、結婚するはずだった碧のことを思い出して、 “会いに行ったのかな?” くらいにしか思っていなくて、大して深く考えては居なかったのだけれど。
ひしひしと募っていく正体の分からない喪失感に、沙和の焦りはいや増すばかりで。
意識を集中して椥の気配を探す。けれど、この身に馴染んだ兄の存在を掴むことが出来なかった。
(お兄ちゃんが……いない?)
まさかと不安に駆られながら、何度も兄の名を呼んだ。
しかし、何処にも兄の存在を感じることが出来ない。
椥がふらふらとほっつき歩いていても、 “存在する” と確信できる繋がりが沙和と椥にはいつだって有った。それがまったく感じられない。
(また? また置いて行かれた……?)
二度と、沙和に黙って居なくなったりしないと約束したのに。
沙和との約束は簡単に反故にできるほど、椥には軽いものだったのだろうか?
花嫁の瞳に涙が見る見る浮かんでも、みんな沙和が感極まっているとしか思わないから、彼女にとって頓珍漢な声を掛けてくる。
(そうじゃない! そうじゃないのに……っ)
心の中の否定を声に出したら、きっと篤志を酷く傷つけてしまう。
この結婚を望んでいない訳ではないし、感情に振り回される程まだ冷静さを欠いてはいない。
だけど。
椥のことがなかったら、幸せを願って声を掛けてくれる人たちに、心から喜んで微笑んでいたはず。けど、そこまで気を配れない自分が、途轍もなく矮小に感じてしまう。
ドレスのスカートに涙がぽたぽた落ちて浸み込んでいく。
「……沙和」
不意に隣から声を掛けられて、がばっと顔を上げた。
「あ…あつ……おにぃちゃ……」
「うん」
そう言って静かに頷いて、篤志は沙和の涙をそっと拭く。
「まっ、またっ!」
「…うん」
「ふ………ぇええええ」
「よしよし。もうちょっと我慢な。二人になったら、好きなだけ聞いてあげるから。な? 沙和?」
篤志からハンカチを取り上げ、化粧が崩れるのもお構いなしに涙を拭う沙和を優しく抱き寄せて、困ったように眉を下げた篤志が背中をポンポンする。
事情を知らない招待客に揶揄われながらも、篤志は何とも言えない笑みを浮かべるのだった。
***
椥が去ってしまう少し前。彼は微かな苦みを含んだ笑みを浮かべ、篤志の隣に並んだ。招待客の余興にケラケラ笑っている沙和に視線を送り、溜息混じりに呟いた。
『とうとう沙和も篤志の嫁さんかぁ』
「何か?」
散々邪魔してきた椥をじろりと見る。すると彼はふっと笑いを漏らし、目を細めて妹を見た後、篤志に視線を戻した。
目が合って、篤志は息を呑んだ。
『沙和を、妹を頼むな』
小馬鹿にしたようでも、意地悪げでもない、真摯な眼差しがそこに在った。
やっと認めて貰えた、そんな感慨と共に篤志が大きく頷くと、途端に椥の顔が緩んでいつもの何処か飄々とした笑みが浮かぶ。その所為で “何かの罠か!?” と瞬時に考えてしまったのは、虐げられてきた年数の為せるわざだろう。
けれど、身構えた篤志に『何もしないって』と苦笑しただけで、愛おし気に妹に目を戻して椥は言を継いだ。
『そろそろお暇しなきゃならないからさ』
事も無げにさらりと言った椥を、信じられないものでも見る目で見てしまった。そんな篤志をまったく気にも留めず、椥の言葉が続く。
『沙和には、内緒な? 泣かれたら、ホント俺ダメだからさ』
「すぐ気が付くでしょうに」
『それでも、だよ。そして、お前の夫としての最初の仕事は、初夜ではない』
「ッ!?」
『ギャンギャン泣き喚き、俺の悪態を吐く沙和を宥めることだ』
「っ……それが狙いかっ」
『ふん。俺の置き土産にしては、生温いと思うけどな? 有難く頂戴しろ』
「嬉しくないわ」
『沙和を宥めるのはお前の力量次第だろ。……どれ。そろそろ逝くかな』
名残惜しそうに沙和を見るくらいなら、そう言いそうになった篤志に椥が不敵な笑みを刷くと、唐突にデコピンをされて一瞬面食らった。が、直ぐに気を取り直し、掴めないと解っていながら、椥に手を伸ばしていた。
椥の躰をすり抜け、篤志の手が空を掻く。
椥の唇が “ば~か” と動いたのを見て、篤志の眉間に皺が寄る。
「逃げるのか?」
篤志に負けるのを良しとしない、椥を挑発する言葉だった。
うぬぬと睨む篤志に束の間呆気に取られた顔をし、椥は唇の片端を上げる。
『I'll be back. 首を洗って待っておけ』
「ふ……不吉な」
『精々、胆を冷やしておくんだな。戻ったら今度こそ容赦しない』
「くっ……返り討ちにしてくれるわ」
『それは楽しみだ』
そう言って、どこまでも腹の立つ艶然とした笑みを浮かべた椥は、『またな』と直ぐにでも会えると言いたげな言葉を残し、掻き消すように姿を消してしまった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。
その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっております。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる