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9. ずっと一緒だよ。
ずっと一緒だよ。③
しおりを挟む胸はないより有るに越したことはない、と美鈴の胸をフニフニと堪能した後で、沙和は溜息を吐きながらテーブルに頬杖を付き、眉尻を下げた何とも情けない顔をしている篤志を見た。
一月、篤志と会えなかった時は何もする気が起きなくて、完全な引き篭もりだったものの、いざこうして以前通りに会えるようになると、本当にこれでいいのかと思ってしまう。
篤志が好きなのは本当だけど、それが彼と同じ感情なのかどうしても分からない。
他の誰かに篤志を取られたくないと思うのは、小さな子が大事なものを取られたくないと思う気持ちと一緒なのではないかと、つい引いた目線で自己観察してしまう。だとしたら、悪戯に時間を引き延ばすことは罪だ。
篤志が離れて行ったら、物凄く寂しいと思うけど。
ストローでコーラを吸い上げる篤志をじっと見ていたら、沙和の目線に合わせて目を覗き込んで来た。
「どした?」
「あぁ……あのさ」
「ん?」
少年っぽさが残る面に笑みを浮かべ、篤志が小さく首を傾げる。
ずっと沙和が好きだったと言ってくれる篤志に、こんな事を言うべきだろうかと躊躇いつつ、それでもいつかは言わないと、思い直して沙和は口を開いた。
「い…池上さんの事に限らず、だけど…あたしの事は気にしないで、良い子がいたら、そっちに行っても良いからね?」
篤志は何を言われたのか分からないような顔をして、それからすぐに「はあっ!?」と店内に響く声を上げた。
周囲の視線が集まると、「やば」と漏らした後で篤志が睨んでくる。
「フザケたこと言うなよ」
「フザケてない」
「あのなぁ、沙和が好きだって、何度も言ってるよな?」
「聞いてるけど……」
「聞いてるけど何?」
目を細めた篤志がじっと沙和を見ている。
沙和を取り合って格闘していた椥と美鈴も一時休戦し、椥がすーっと篤志の横に並んだ。二人は黙って沙和と篤志に注目している。
「あたしなんかより、可愛い子いっぱいいるよ? それに……」
「それに?」
言い淀んだ沙和を促す篤志の怒った顔を見て、沙和は言葉を呑み込み俯いた。
(やばい。本気で怒ってるよぉ。でもでもでもっ)
篤志の気持ちを無視した発言だってことは承知している。けどこのまま沙和に付き合わせるなんて、更に申し訳ない。
こんな事は言いたくないけどと、胸元をギュッと握り締める。
覚悟を決めて言葉を繰り出そうとした沙和より早く、篤志が口を開く。
「本当に、他の女好きになっても良いの?」
「い………ぃよ」
「あっそ。そしたら俺、今度こそもう沙和と会わないけど?」
背凭れに寄りかかった篤志の冷たい眼差しを正面から受けて、胸がジクリと痛んだ。
「しょうが…ないよね」
「ホントに? 本当にそう思ってる? もしそうなっても、沙和から言いだした事なんだから、今度は引き篭もるなよな」
「ひき、篭んないもん」
「どうだか。俺がいなくて辛かったんだろ? 寂しかったんだろ?」
「どうして、そんな意地悪言うのよ」
決死の覚悟で言ったのに、腹が立って睨みつける。すると篤志は丸めたストローの外袋を沙和に投げつけて来た。それが額に当たってテーブルに転がる。
「沙和が馬鹿なこと言うからじゃん。逃げるなって俺言ったよね? ずっとでも待つって言ったよね? 俺の “好き” を甘く見るなよ」
「だってぇ」
「だってもへったくれもあるか」
ムスッと瞬がない双眸に射竦められて、沙和は身を縮こませた。篤志は頭をガシガシと掻くと溜息を吐く。
もう泣きそうだった。
彼女が出来たら友達でも居られなくなる。突き付けられた言葉に胸がジクジクした。
目を真っ赤にして俯く沙和の頭を美鈴が撫でてくれて、うるっとする。けれど自分から言いだした事だからと、沙和は泣くのを必死に堪えた。
「篤志の癖に何そんなに偉そうなのよ。沙和が泣きそうじゃない!」
「泣きそうなのはコッチだし。いま瀬戸際に立たされてるの俺だからな? 思い直させるのに形振り構ってらんねえの」
「遠回しに振られたの分かんないの?」
「まだ振られてない」
「似たようなものじゃない」
「煩いから美鈴は黙ってて。――――なあ沙和。何でそこに思い至ったのか、教えてくんない?」
ほとほと困った表情の篤志。沙和は上目遣いで彼を見、ぷるぷると震える唇で話し出した。
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