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8. そーゆーわけで…ってどーゆーわけですか!?
そーゆーわけで…ってどーゆーわけですか!? ⑥
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篤志を締め出してから、あれだけ煩く連絡を寄越していたのにピタッと止まった。
それに胸を撫で下ろしていたのは最初のうちだけで、二日経ち、三日経ち、一週間を過ぎると、篤志の事を考えただけで涙が出て来るようになった。
完全に嫌われた。見限られた。
いつも拗れる前に篤志から謝って来た。
明らかに沙和が悪くても、篤志が先に謝ってくれるから、素直に “ごめんなさい” が言えた。そんな自分本位の我儘な態度も、相手が篤志だったから許されていた。それが当たり前のことになっていて、今更のように甘やかされていた事に気付く。
今度ばかりは、篤志から謝って来ることはない。
絶対にない。
はっきりしない沙和の態度が、篤志を酷く傷つけた。
ちゃんと篤志に向き合っていたら、直ぐには無理だったとしても、友達には戻れたかも知れないのに、そう思ったら後悔で涙が出て来る。
毎日、考えても変わらない事を考えて、ぼんやり過ごしているうちに、一ヶ月があっという間に過ぎ去っていた。
日に日に元気を失くしていく沙和を初めのうちは椥も心配し、何だかんだと気を紛らわせてくれようとしていた。けれど、沙和の薄い反応に傍観することを決めたらしい。時折彼女の頭を撫でて、優しく微笑んでくれるに止まっている。
美鈴は相変わらずだ。
心ここに在らずの沙和を相手に、休みのたびに家にやって来ては、「光合成に出るわよ」と生っ白い彼女を外に連れ出し、引っ張り回してくれる。漏れなく付いてくる椥に文句を言いながら、それでも沙和を初夏の太陽の下に引き摺り出すのだ。
そうでもしなければ、家から一歩も出ない沙和なんてお見通しだと言わんばかりに。
本当にダメ人間へまっしぐらだ。
声を掛けられなければ、日常生活すらうっかり忘れそうになるのだから。
家族にも迷惑を掛けているのが分かっていて、なのに元気な振りも出来ない。
そう言えば、こんな事が前にもあったと何の気なしに思い、沙和の眉間に皺が寄る。
椥と会えなくなった頃だ。
あの時はどうやって元気を取り戻したっけ? と考えて、直ぐに面倒臭くなって考えるのを止める。
退廃的な自分に、何度自嘲の笑みを浮かべたろう。
***
二人が兄妹だと聞いて胸を撫で下したのも束の間、椥に宣戦布告され、隼人に牽制されたのに、沙和が全く疑問に思っていなくて、どこかのネジが飛んだ。
気が付けば、勢いで沙和にプロポーズしていた。
本当は “結婚を前提に付き合って欲しい” と言う心算だったのに、椥の攻撃を躱していたら、いろいろ端折った言葉が口を吐いて出た。それが後々、死地への最短ルートだなんて思わずに。
篤志にだって、長年温めて、温め過ぎて腐る手前の状態だからこそ、プロポーズにはそれなりに夢があった。
出来ればちゃんとお膳立てして、それなりに格好よく決めたかった。けどそれは、椥のような邪魔者がいなければの話である。何としても椥の妨害を躱して本気を伝えるには、インパクトを狙わないと伝わらないと学習した結果、その衝撃波が沙和へじんわりと届き、まさかの気絶。
想定外の拒絶反応に、篤志はしばらく声も出なかった。
すぐにでも結婚したいとかではなかった。何分まだ学生の身だ。追々そうなってくれたら何も言うことはないけど、兎に角、沙和に自分を男として見て貰いたいと、意識して貰いたいと、その時はそれしか考えていなかった。
沙和が篤志を友達としてしか見てくれないのを嫌というほど痛感し、下手を打ったら取り返しがつかなくなると、何度も危惧してきたことだったのに。
沙和と椥の仲が良いのを見せつけられ、ずっと焦っていた。
椥は “所詮幽霊だから、成就しない” とどんなに思っても、焦燥感は失くならなかった。寧ろ沙和が椥を気に掛ける度酷くなる。どれだけ嫉妬に駆られた事だろう。
椥の存在がなかったら、理由をつけてまだ告白も出来ていなかったに違いない。
それが良かったのか悪かったのか、胸中は複雑に乱れている。
分かっているのは、もう友達には戻れないこと。
こんな篤志の隣に並ぶなんて、きっと沙和も居た堪れない思いをする。
もっと早いうちに告白していたら、傷は浅かった。もしかしたら友達に戻れたかも知れない。
けどもう無理だ。
何喰わない振りをして友達に戻るには、この想いは爛れている。
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