上 下
21 / 65
5. ニブイにもほどがある!!

ニブイにもほどがある!! ②

しおりを挟む
 
 ***


 一週間がこんなに長く感じたのは、人生で初めての事だったと思う。
 このままでは干からびると、いっそ脱走しようかと、正直何度も思っては止まった。
 生半可な気持ちで舞子に縋った訳じゃないだろうと。

 早朝の電車に始まり、各種交通機関を使いまくって二時間。
 ようやく辿り着いたそこは、緑豊かな山の中腹に佇んでいた。
 舞子の居る寺では、宿坊ステイと言うものをやっており、ここに来るまでの道中、一人寂しくといった事にはならず、誰かしらと話しながら辿り着いた。特に年配の夫婦やおばちゃんグループに声を掛けられたのには、少しばかり “何故だ!?” との思いもある。お姉さま方も居たはずなのに。

 別に浮気心とかではない。少し疑問に感じただけだ……断じて、ない。
 しかし。
 一週間が楽しくなりそうだと、ほんのちょっとでも思った自分が馬鹿だったと、このあと嫌でも思い知らされることとなった。



 通された部屋は三畳ほどの板張りで、文机と畳まれた布団があるだけの簡素な部屋だった。如何にも寝るためだけの場所。
 この時の感想は、“独房か?” である。
 実際、それに近い状態だった。

 他の修行体験に来た面々は、それ専用の宿泊施設に泊まっていたようだ。なのに篤志だけは、この寺に立ち寄った僧侶のための部屋だった。
 舞子に言わせれば『篤志くんはお客様じゃないでしょ』と素気無いもので、食事は他の泊り客と一緒だったが、根本的にお遊び気分の修行体験とはかなり違うものだった。

 先ず着いてすぐ、篤志だけ滝行に連れて行かれた。
 この最近少し暖かくなってきたとは言え、春先の滝行は凍え死ぬかと思うくらい水が肌を刺す。
 唇を真っ青にしガタガタ震える篤志を見て、一緒に滝行をしていた住職に『最近の若い奴は軟弱な』と小馬鹿にした台詞と共に溜息を吐かれた。

 この時篤志は滝行衣たきぎょうえと言う白装束を纏っていて、肌に張り付き余計に寒さを感じた。因みに住職はふんどし一丁だ。篤志も褌を勧められたのだが、ビジュアル的に抵抗を感じて、丁重にお断りした。
 座禅に写経に写仏(手本の上に薄い紙を敷き、仏様をなぞり描くもの)を黙々とやらされ、夜が明けきらない時間に叩き起こされると、朝のお勤めと作務をこなす。

 チラッとでも余計なことを考えれば、すかさず説教を食らう。住職の有難い言葉が地獄に感じる時間だった。それと言うのも最初は全く出来なかった結跏趺坐けっかふざのせいだ。股関節が外れるんじゃないかと本当に冷や冷やした。
 修行に来たわけではないのに、小坊主になった気分である。
 頭を丸めろと言われなくて、良かったと尽々思う。

 そして篤志を悩ませたもう一つ。食事だ。
 日々の糧は精進料理の一日二回だけ。最初の二日は空腹で仕様がなかったが、山を下りて買い物に行くわけにもいかず、下りたところでコンビニなどない。篤志はひたすら耐え忍んだ。
 肉を貪る夢を見なかった日はなかったと、一週間を振り返ると涙が出てくる。

 遊んでいる暇などなかった。
 毎日疲れ果て、布団に倒れ込むように寝た。
 頑張った自分を褒めてやりたい。

 最終日、本堂へ呼ばれた。篤志が行くと、そこには白装束に水色の袴を穿いた舞子がピンと背筋を伸ばし、正座をして待っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

罰ゲームから始まる恋

アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。 しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。 それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する 罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。 ドリーム大賞12位になりました。 皆さんのおかげですありがとうございます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。 その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。 コラボ作品はコチラとなっております。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

処理中です...