18 / 65
4. ポルターガイストって普通の事でしたっけ?
ポルターガイストって普通の事でしたっけ? ⑥
しおりを挟む幽さんはそれはもう涙ぐましいと感じるくらい、奈々美と搗ち合わないように、気配を感じると雲隠れする。とはいっても半径五十メートル以内に居るのは分かっているので、沙和も心配することはなかったが、そんな彼に申し訳なさが募っていく。
それでもやっぱりポルターガイストは困る。
そんな生活が数日も続くと、幽さんがどこで何をしているのか、沙和は物凄く気になって来て彼に尋ねてみた。
すると、
『屋根の上で日向ぼっことか、隣近所の庭先で飼い犬や猫と遊んだり? アイツらは俺の存在に気付いてくれるからね』
楽しそうに言われれば、沙和の唇にも笑みが浮かぶ。
幽霊に日向ぼっこは必要か? と思わなくもないけど、動物と戯れる幽さんを脳裡に思い描くのは難しい事じゃない。
そんなに気に病む必要もなかったのだろうかと、勘違いしそうになる沙和は自分を窘める。
幽さんの楽しそうな心理状態が沙和の中に流れ込んできて、姿が見えなくてもほっこりした。
それと同様に、時々微かではあるけど、寂しそうな気配が心を掠めるのに気付いてしまったら、目を瞑ってしまうほど薄情にもなれない。
幽さんを締め出しておいて、こんなこと言える立場ではないだろうけど、だからこそどうにかしたいと思う。
訊いたところで何も出来ないかも知れないし、ただの自己満足かも知れない。
なのに。
幽さんほど巧みに感情を読み取ることは出来ないし、沙和が真剣に訊いても彼は笑って誤魔化して、幼子をあやすように頭を撫でて来る。答えてはくれないから、幽さんの心が置き去りになったまま、ずっと平行線だ。
沙和がもどかしく思っている事だって、幽さんには届いている筈なのに。
草木も眠る丑三つ時、沙和は喉の渇きに目が覚めた。
むくりと躰を起こした沙和に、眉を寄せた幽さんが声をかけてくる。
最初は “眠り姫” とお姫様扱いしていた幽さんだったが、今では揶揄いも含んで “寝太郎” と呼ぶくらい、一度寝たら朝まで起きない筈の彼女が起きれば、何事かと思うのは仕方ない。
『どうした?』
「喉乾いた」
寝ぼけ眼で面倒くさそうに沙和が言う。すると幽さんは呆れた声を発した。
『漬物を一皿も食べるからだろ』
「だって、柚子が利いてて美味しかったんだもん」
『だからって食べ過ぎだ。隼人が呆れて報告してきたぞ?』
身近な裏切り者に沙和がムッとする。
隼人はすっかり幽さんに取り込まれ、下の階には行かない幽さんの密偵と化していた。ちょっと前までは何かと沙和に甘えて来る弟だったのに、横取りされた感が否めない。幽さんが強制しているわけではなく、隼人の自発行動だと分かっているのに悔しい。
(最近よく男同士でなんかコソコソして笑ってるしさ)
沙和が踏み込めない境界線みたいなものを感じる。
同性だから言い辛いことも言えるのかも知れないけど、仲間外れにされているようで、要は寂しいのだ。
だからつい、我儘が口を突いて出た。
「幽さん。お水飲みたい。持って来てよ」
『……はいはい』
仕方ないと表情に浮かべて苦笑した幽さんが、床に沈んで消えて行くのを見送って、時間が時間だから大丈夫だよねと、うっかり口にしたことを後悔した。
流石にもう寝静まっている。
幽さんが奈々美に遭遇する確率は低いだろうと思うのに、焦燥感が込み上げてくる。
そんな時、階下から女性の悲鳴が聞こえ、沙和は咄嗟に部屋から飛び出していた。
部屋から出るなと言うくせに、水を持ってこいと、ちょっと不機嫌そうに言った沙和に、幽さんが堪らず笑いを漏らしながらグラスに水を注ぐ。
絶対に怒られるから口にしないが、実は沙和がやきもちを妬いているのは知っていた。尤も、隼人になのか幽さんになのか、はたまたどちらにもなのか、ひた隠しにする沙和の行動が可愛いよねと、隼人との会話はもっぱら彼女の話をしているとは思っていないだろう。
知らぬは沙和ばかり、とクスクス笑っていて、だから気付くのに遅れた。
グラスを持ってふらふらキッチンから出てくると不意に照明が点き、油断をしきっていた幽さんが固まった目の前で、目を瞠って一点を凝視したまま動かない中年女性。
ヤバいと思った瞬間、幽さんは無意識のまま上に向かった。手に持ったグラスは当然通り抜けることが出来ず、天井にぶつかって床に落下したガラスが砕ける。そして女性の悲鳴が響き渡った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。
その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっております。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる