17 / 65
4. ポルターガイストって普通の事でしたっけ?
ポルターガイストって普通の事でしたっけ? ⑤
しおりを挟む***
心臓の具合はすこぶる快調で、医師のお墨付きを貰った沙和はようやく退院するに至った。
七ヶ月ぶりの我が家。
自室のベッドに俯せて寝転がり、お天道様と洗い立ての香りを鼻腔にいっぱい吸い込んだ。
帰って来られたんだと実感する。
一時期は、もう二度とこの部屋には戻れないと、諦めていたのが嘘みたいだ。
『これが沙和の部屋かぁ』
ナチュラルな家具にパステルトーンで纏まった女の子らしい部屋を、幽さんが興味深そうに眺め回し、沙和はそんな彼を眺めている。
身長は並んだ時の差が三十センチはあるから、凡そ百八十センチ。ほとんど地面に足が着いている事がないから、目測だけど。
ウェーブがかかったミルクティー色の髪は柔らかそうで、やや眦が下がった二重の双眸は、沙和が親近感を持つ理由の一つだと最近気付いた。
瞳は色素の薄い茶色。癪に障るくらい睫毛が長く豊かで、生身だったらバサバサ音を立てそうな睫毛をカットしてやりたくてムズムズするけど、妄想に留めるしかないのが残念だ。
(どっちも垂れ目なのに、幽さんばっかりズルいよね)
鼻筋はスッとして高過ぎず低過ぎず、唇は自然と笑みを作る。
好き嫌いは迷惑なくらいはっきりしているものの、基本はとても優しい人だし、世話好きだ。じっとして黙っていてくれたら、間違いなくいい男の分類に入るだろう彼は、恐らくモテたに違いない。
女子の部屋に入ることだってあったはずだ。
そんな彼が沙和の部屋に興味を持っていることが、どうもしっくりこない。
(記憶がないんだから、って解ってるんだけどね)
幽さんが徐に振り返り、沙和に微笑む。
沙和の思考に口を挟んでくることはなくなったけど、きっと彼女の考えは筒抜けなんだろう。いちいち気にしていたら身が持たないけど、こればかりは慣れたくない。
羞恥から顔を背けたのに、ノック音がしてドアが開かれる気配に、幽さん越しからそちらを見た。
「沙和。荷ほどき終わった?」
中を覗き込んできたのは、自覚がないまま幽さんの標的認定されている奈々美だった。
肩越しにドアを振り返った幽さんから、イラっとした感情が伝わってくる。
奈々美と沙和の間にいる幽さんから不穏なものを感じ取り、沙和は素早く起き上がった。
久方ぶりの自室をぐちゃぐちゃにされるなんて、冗談じゃない。
『幽さん。ハウス!』
咄嗟に心の中で叫んで、自分の隣に座れとばかりに目で促す。幽さんは不満を顕わに、それでも黙って沙和の隣に来ると、奈々美に背を向けベッドの上に正座した。幽霊にはあまり意味ないと思うが、幽さんなりに反省の意思表明なのだろう。
『俺は犬かよ』
不貞腐れている幽さんにチラと視線を遣ってから、奈々美を見た。
「ま~だ。どうしたの?」
「もう。のんびり屋ねぇ。お昼ご飯できたわよ」
「わかった。今行く」
「早く来てね」
ドアがぱたんと音を立てて閉まるのと、沙和が幽さんに視線を向けたのはほぼ同時。拗ねた幽さんに溜息が零れた。
「お願いだから、帰って早々、部屋を荒らさないでね?」
『……わかってる。だから理性を総動員して我慢しただろ』
「そう、だね」
非常に危うかったけれども。
退院するにあたって、幽さんと決め事を作った。
奈々美に対する過剰反応防止策として、彼女がいる時は沙和の部屋から絶対に出ないで大人しくしていること―――そう約束した。
うっかり奈々美と遭遇しようものなら、家の中は荒れ狂うことになる。これは是非とも回避したい案件だ。
ただ同じ屋根の下に住んでいれば、先刻みたいなイレギュラーも発生する。これはもう、腹を括って幽さんを止めるしかないけど。
それから奈々美が留守中でも、女子として最小限の矜持を守るべく、極めて限られた空間でのプライバシー保護を提案した。
幽さんだとて、宿主の沙和のご機嫌を悪くしたくない。
分かったと頷けば、沙和に胡乱な目で見られてたじろいだ。入院中についうっかりを繰り返した結果と言えよう。
家の中だったら沙和との直線距離が五十メートル以上になる事がないので、幽さんが引っ張り戻されることはないし、以上を守ってくれるなら、何をするにも彼は自由だ。
(守れるなら……だけど)
一抹の不安が沙和の胸を過った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】最愛の人 〜三年後、君が蘇るその日まで〜
雪則
恋愛
〜はじめに〜
この作品は、私が10年ほど前に「魔法のiらんど」という小説投稿サイトで執筆した作品です。
既に完結している作品ですが、アルファポリスのCMを見て、当時はあまり陽の目を見なかったこの作品にもう一度チャンスを与えたいと思い、投稿することにしました。
完結作品の掲載なので、毎日4回コンスタントにアップしていくので、出来ればアルファポリス上での更新をお持ちして頂き、ゆっくりと読んでいって頂ければと思います。
〜あらすじ〜
彼女にふりかかった悲劇。
そして命を救うために彼が悪魔と交わした契約。
残りの寿命の半分を捧げることで彼女を蘇らせる。
だが彼女がこの世に戻ってくるのは3年後。
彼は誓う。
彼女が戻ってくるその日まで、
変わらぬ自分で居続けることを。
人を想う気持ちの強さ、
そして無情なほどの儚さを描いた長編恋愛小説。
3年という途方もなく長い時のなかで、
彼の誰よりも深い愛情はどのように変化していってしまうのだろうか。
衝撃のラストを見たとき、貴方はなにを感じますか?
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる