11 / 65
3. 相性悪いです…?
相性悪いです…? ⑤
しおりを挟む***
「あの不成仏男、ホント最悪だわ」
舞子と別れた見舞いの帰り道、憎らしさに躰をわなわなと震わせた美鈴が毒吐く。篤志はやれやれと首を振って溜息を吐いた。
「いつも美鈴の思い通りになんていかないさ」
「なによ。あの悪霊の肩を持つ気? 殴られたくせに」
「うるさいなぁ。誰も肩なんて持ってないだろ」
怒りの矛先をこちらに向けて来る美鈴を往なして、篤志はムッとしながら続ける。
「いくら死人だって言っても、沙和の傍に男が張り付いてるのは、俺だってむかっ腹が収まらないよ。舞子さんに祓って貰えると期待してただけ、がっくりだし。けど、沙和が死んだら元も子もないだろ?」
沙和と一緒に居られる幽さんが羨ましいよ、とつい本音をぼそぼそ独り言ちる。それをまたご丁寧にも美鈴が拾い上げた。切れ長な目を細めて冷ややかに篤志を見、
「不埒者」
「うっさいわ! 美鈴だけには言われたくないぞ」
「あんた霊視力よりも先ず、煩悩を浄化して貰いなさい?」
「まんま返すわっ」
美鈴の煩悩の凄まじさに、沙和と交友を持とうとした者がどれほど慄いて去ったことか。傍から見ていて、それはもう沙和が気の毒でしようがなかった。
尤も男を蹴散らしてくれる分には、大いに美鈴を応援したが。
(他力本願だけどな)
小学校時代の友人まで遠のいて行ったのは、流石にやり過ぎだろうと思う。
ぼっちだった美鈴が可愛そうだと、その優しい人柄で声をかけたのが沙和最大の失敗だった。
(俺だってこんな風になるとは思わなかったし)
事の発端は三人が中学生の頃まで遡る。
篤志は中学の入学式で沙和に恋をした。
教室から体育館へ移動していた時、渡り廊下で突風が吹き、風から身を守るようにみんなが一様に立ち止まって躰を竦め、目を開けると隣を並んで歩いていた沙和がくすくす笑って『凄かったねぇ』と篤志の頭に手を伸ばす。ぼけっと彼女を眺める篤志に『桜の花びら』と嬉しそうに抓んで見せ、真新しい生徒手帳に挟んだ。
その瞬間、落ちた。
急に恥ずかしくなって目を逸らし、『髪ぐしゃぐしゃだぞ』と言ったら、真っ赤になって『やだもお』と慌てて撫でつける姿に、また落ちた。
お陰で中学の入学式は気も漫ろで、沙和の事ばかり見ていた記憶しかない。
一週間も過ぎると、五十音に並んだ席から席替えがあった。真ん中の一番前の席にげんなりしていたのも束の間、隣に来た沙和に『よろしくね』と言われた時は、鼻血が噴き出そうになるくらい嬉しかった。
人懐っこい沙和にどんどん惹かれていく。
初めこそ女と仲良くするなんてと、僻み混じりに揶揄われたりもしたけど、沙和が『仲良くしたい人と仲良くして何が悪いの? 揶揄ってばかりいないで、仲良くなりたい子と仲良くなればいいじゃない』と揶揄う男子に詰め寄ってからと言うもの、学年でも仲が良いクラスになった。余談だが。
ぱやぱや~とした沙和の意外な男気に、更に惚れた瞬間でもあった。
一緒に居るのが当たり前になり、クラスのチビツートップでお似合いと言われると、ちょっと居心地が悪くても篤志は嬉しかったのに、肝心の沙和が言葉の意味を全く理解しておらず、『友達なんだから当たり前じゃない』と篤志を奈落に叩き落してくれるのが定番だった。級友たちの憐憫かつ、生温かい眼差しは今でもムカつく。
そうこうしているうちに季節は五月になり、野外活動のグループ分けをすることになった。
沙和が美鈴に初めて声をかけた。
だいぶ前から一人でいる美鈴を気に留めていたのは知っている。けど彼女の持つ近寄り難い雰囲気に、流石の沙和も若干尻込みしていた。
篤志は、沙和が勇気を奮い立たせて声をかけ、美鈴と友達になろうとするのを黙って見ていただけだ。
正直沙和の時間が他に分散するのは嫌だったけれど、それを言って彼女に嫌われる方がもっと嫌だったから、言葉を呑んだ。止めとけと言えば良かったと、いまは激しく後悔している。
篤志の美鈴の第一印象は、日本人形のような整った相貌をピクリともさせない、得体の知れなさが怖い女だった。
沙和が居なかったら、クラスメート以上の接点は、絶対かつ永久になかったと断言できる。
それくらい近寄り難い雰囲気を、中学生の少女が纏っていた。その理由が、美鈴の視えている世界のせいだと知った時に、ほんのちょっとでも同情した自分を殴りつけ、正気に戻れと、彼の同情など歯牙にもかけず、嘲笑って災難を齎す女だから、絶対に近付くなと、声を大にして訴えたい。
ぱやぱや~とした陽だまりみたいな沙和に、能面女の美鈴が陥落したのは篤志が思ってた以上に早かった。
幽さんのことに限らず、とにかく沙和は浮遊霊に好まれて、ずらずらと引き連れて歩いていたらしく、沙和がちょっと『怠くて』と零したら、仕方ないなと言いたげに溜息を吐いた美鈴が、沙和の背中を埃でも払うかのように手のひらで祓う。すると途端に彼女の顔色が明るくなった。
嘘だろ? と思う反面、沙和がそんな嘘をいう子じゃないのも解っている。
沙和と篤志にはない特異な能力で、沙和からの感謝と羨望を集める美鈴が憎らしくも羨ましいと、何度思ったか。
美鈴に頼り切る沙和が可愛いくて、庇護欲をそそられた気持ちはわかる。篤志が美鈴の立場だったら、同じように独占欲を掻き立てられた。
けど、自分以外の人間との交流を奪うのは、常識的にやらない。
相手が大事ならば尚更。
自分の元から離れていく友に、悲し気な沙和が胸に痛かった。
美鈴は『大丈夫。あたしは何があっても離れないわ』と、自分が原因であるにも拘らず太々しく言い退け、ひたすら甘やかす。困惑し異議を唱えながらも、『友達は沙和しかいないもの。見捨てないで』と涙を浮かべて訴える美鈴を、沙和は突き放すことが出来なかった。
だからどんな仕打ちを受けたって、自分だけは絶対に沙和から離れて行かないと、篤志は固く心に誓った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
罰ゲームから始まる恋
アマチュア作家
ライト文芸
ある日俺は放課後の教室に呼び出された。そこで瑠璃に告白されカップルになる。
しかしその告白には秘密があって罰ゲームだったのだ。
それ知った俺は別れようとするも今までの思い出が頭を駆け巡るように浮かび、俺は瑠璃を好きになってしまたことに気づく
そして俺は罰ゲームの期間内に惚れさせると決意する
罰ゲームで告られた男が罰ゲームで告白した女子を惚れさせるまでのラブコメディである。
ドリーム大賞12位になりました。
皆さんのおかげですありがとうございます
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。
その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっております。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる