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第3章 苦労と、新たなる星に

第6話

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♢♦︎♢

 ティファさんから話を聞き、早速クロムから北に馬車を二時間程走らせた先に山岳地帯へとやって来た。
 クエストは発注されたばかりで、ちょうど貼り出される時だったらしく、ティファさんがわざわざ持って来てくれて紹介してくれた仕事。

 仕事内容は【モンキーゴーレムの討伐】、オスがだいたい3メートルあるかないかの体長で、メスが4メートル近い巨体のつがいモンスターである。
見た目はゴーレムと言われても、シンプルに灰色のゴリラをイメージすれば良い。
 ただ毛皮に覆われながらも露出した胸元足、手などの皮膚は岩石の様な岩肌が特徴であり、下半身は短足、上半身はズッシリとした体格である。

 なんでも繁殖期になると子沢山に産み続け、一度の繁殖で30センチばかりの赤ちゃんモンキーゴーレムを10匹以上は産むとの事である。
 受精してから赤子に形成されるまでが早く、僅か一週間もしないで出産の為、この時期になると盛りの付いたモンキーゴーレムの夫婦が手頃な山1つを夫婦のナワバリ+愛の巣へと変貌させ、子作りに励む習性がある為。
 この時期にモンキーゴーレムは比較的に討伐依頼が増える。

「えー、折角の赤ちゃん…可哀想」

 イリスが人の説明聞きながら、あろう事かモンキーゴーレムに対して同情する。

「あのね……一度の繁殖期に1匹2匹ならまだしも10匹以上だぞ。 メスが満足するまで増やす習性なんだよ。 こんな街近くに子作りされたら、街の人達が大変でしょ?」

 呆れながらいつも通り優しい口調で、如何にモンキーゴーレムを討伐する必要があるかイリスにレクチャーする。

「アンタ気持ち悪……」

 アスティアが後ろからそんな言葉を投げかける。
 ……バカにされているが、この分からず屋のイリスに討伐するモンスターの説明は地味に大変である。
 理解力が乏しいイリスにわかりやすく説明する為に、幼稚園児でも解る言葉使いが1番良いのだ。
 そう思うが、先程こっそりアスティアを見たが「へぇー」と頷いていたのも知っている。

「どうして、俺の周りは冒険者の癖に無知が多いんだ」

 2人に聞こえない声量で思わず口に出してしまった。

「あー、足痛い!」

「あたしもー、ヴァイス疲れたー」

 山岳地帯を歩いて30分、馬車から降りて僅か30分で疲れたと騒ぐ2人を尻目に立ち止まらずに歩く。
 冒険者になっておりながら、この体たらくぶりは酷い。普段読書で引きこもる俺ですら、数時間は余裕なのだ。

「まだ歩き始めたばかりだろ。今日中に帰った方が良いんでしょ?」

 報酬も文句無く、オスのモンキーゴーレムで15万、メスで25万と価格的にも2人の家賃を賄える程だ。
 このクエストを受ける際に、2人に同情して取り分は家賃額分を2人に、残りは俺がという話で決めた。
 2人は15万ずつ、俺は十万の優しさに溢れた配慮を褒めて欲しいのだが、そんな恩はどこへやらと言わんばかりに山岳地帯についてから愚痴ばかりをたった30分でイライラする程聞かされた。

「でも疲れたんだもんー」

「そうよ、もうクタクタ」

 イリスがしゃがみ込みながらそう吐き捨て、アスティアもそれに習って手頃な岩を椅子にして座り込む。

「あたしがリーダーなんだから、休憩と言ったらきゅーけー!」

 この子、本当どうしたら良いんだろう。
 普段からあまり役に立たない無知な子なのに、リーダーという事がバレた途端、リーダー特権を行使するとはパーティ内で1番の苦労人である俺に亀裂を生ませる気か。

「…はぁ、仕方ないな。少しだけだよ?」

 2人の既に休んでる顔を見ながら、ため息を溢しながら自分も座る。
 無理に行かせて、戦闘の際に疲れ果ててしまっていたら、それこそ俺の苦労が倍以上に増える。
 そうなれば10万の報酬は足りず、割りに合わないと計算する。

「一応『感知』スキルは発動してあるが、引っかからないからまだ先だろうしな」

「ヴァイスの感知それって、盗賊専用スキルだっけ? 便利よね」

 アスティアが羨ましそうに言うが。
 確かに、便利なスキルが多い盗賊だが、コソコソしてる様で俺としてはやっぱり攻撃特化のスキルが欲しいとは思う。
 「まあね」と笑うが、心の中では夢、憧れの勇者、英雄譚がチラつきなんとも言えない複雑な心境を思い浮かべる。

「何かと便利だからソロである程度は通用したんだよ。隙を付いての奇襲だったり、モンスター図鑑を読めばある程度は低レベルでも簡単にやれるんだ」

 だから本を読め。そう告げる様に言うが、2人は感心した表情で頷きながら。

「ヴァイスがパーティで良かったわ」

「だよね、だよね! モンスターの知識が1人いるだけで便利だよね!」

 と、アスティアの言葉にイリスが同調し、自ら知識を蓄える事を回避する。
 わかっていたが、おんぶに抱っこのパーティは俺がいつか反抗期を迎えて脱退しない事を祈ってろと思いながら、腰にぶら下げた皮袋の水筒を取って水分補給する。

「ーーーっ!?」

 水を口に含んだ瞬間、『感知』スキルに微弱な気配を察知する。
 レベルが上がった事で、広範囲にレーダーの様に魔力電磁波を少しながら感じ取れる事になった俺は、ギリギリの範囲にそれを感じ取れた。

「休憩は終わりだ。二人共行くよ」

「えぇーまだ休もうよ」

「そーよ、休んだばかりじゃない?」

「モンスターを感知した……一体、ジグザグに移動しているけど。ーこれは、多分モンキーゴーレムのどっちかだな。…習性的に、オスが定期的に縄張りを巡回している。ーよって、現在こっちに近寄りつつあるのはモンキーゴーレムのオスと見て間違いないだろうな」

 俺の言葉に、嫌々ながらも二人を立ち上がらせ歩かせる。
 『感知』スキルから感じ取れるのは遠い距離程おぼろげで、方角がある程度は解るという事だけである。
 近付けは大体の場所はわかるが、モンキーゴーレムの動きからして注意しなくれば見失いかねない。

スキル感知を集中するから、その間何かあった時はイリスを前衛に、俺が真ん中、アスティアが後衛で行くよ?」

「わ、わかった!」

「任せて!」

 緊張した面持ちでアスティアが答え、イリスがヤル気に満ちた表情で拳を握り見せながら奮起する。
 多少心配しながらも、時折『感知』から追えずに消え入る微弱な気配を集中しながらその方向へと進む。

「アスティアは魔法は極力使わずに、良いね?」

「え?」

「え?じゃない、日に2発か1発限度の不器用魔法はここぞとばかりにしか使って欲しくない。初っ端から使われたら、倒せなかった時を考えて俺かイリスが庇いながらつがいのモンキーゴーレムを退治するのはリスクがデカイんだ」

「うーわかった。ナイフで頑張る」

 正直ステータス上、イリスの持っていた両手剣は彼女にぴったりの武器だと思うが、アスティアは何を誇りに思っているのか、魔法使いはそんなゴツい武器はいらないのだと断られた。
 アスティアは杖を持たない魔法使い、指輪を杖の代わりの魔力媒体とし、その身軽な所でナイフを持って戦うスタイル。

 本来の魔法使いならば、近接戦闘よりも魔法メインで戦うのだが、彼女のステータス上近接戦闘が魔法使いとしての才能を超えている皮肉さがそれを成せてしまっている。
 それも、魔法を扱うセンスよりも群を抜き、中々のナイフ捌きでもある。
 魔法使いとしての才能が凡才であれば、とても強力な魔法使いとして名を馳せたと思いながら、アスティアへの視線を外してイリスを見やる。

「イリスは……頑張れ」

「うえっ!? ちょっと酷い、なんか他にないの!? ガンガン行けとか命大事にとか!」

「無いよ、強いて言うなら……迷子になるな。俺達のそばにいろ、かな?」

「酷いよー!」
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