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第3章 苦労と、新たなる星に

第4話

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♢♦︎♢

 二日後、昨日は珍しく一ヶ月ぶりに1人でのオフを満喫した。
 日課のイリスアラームで目を覚まし、昨日の内に代替えで借りた刃渡り50センチの両刃剣バゼラードと30センチの短い短刀を腰後ろに装備し、いつもの服装に着替え終わると、欠伸をしながら部屋を出る。
 待ちくたびれたと膨れっ面なピンクの髪にサイドポニーを揺らしながら怒るアスティアをなだめ、今日も日差しに照らされ白銀が青白く輝くイリスの頭をポンポンとしながらギルドへと向かう。

「今日だよね?」

 イリスの言葉に、一昨日の件を思い出しながら頷く。
 ウエスタン風の格好をしながら、ハットを被らず黒髪に目鼻くっきりとしている美形俺様キャラなローウェル・ヴァルサスと出会い、3人はある事を頼まれる事となった。
 それは………。

「いやー、ティファちゃん……いつ見ても素敵だぜ。可愛い、付き合いたい」

「あはは、やだローウェル君。色んな子にそんな事言ってるの知ってるよ」

 ギルド入口からかなり殺伐とした空気が淀んでいた事から薄々気付いたが、まさかクロム一天使のティファさんを口説いているローウェルに俺自身まで多少殺気が出そうになるが、ここは堪える事で冷静なヴァイス・リンスリードを保ちながら、ローウェルの首元を掴みとりあえず離れさせる。

「やめろよ、ティファさん嫌がってるだろ」

「お、おはようさん」

「キザったい奴なのか、おちゃらけてる奴なのかはっきりしてから生まれてきて欲しい」

「ハッハー!辛辣な言葉だなオイ、ま……ティファちゃんとはいっつもこんな感じだぜ?」

 掴み所ないローウェルは、気分によって日々髪型を変えているのか、昨日とは違い前髪を後ろに結っており、団子結びという器用にオシャレしている。

「それより、約束通り来たんですけど?」

 アスティアは初対面から生理的に嫌悪しているようで、イライラしながらローウェルに早くしろと言わんばかりに腕組みしながら言う。

「ああ、悪かったね」

 ローウェルは懐から紙を取り出して、こちらに見せると片目を瞑りながらやれやれといった表情で手短な椅子に腰を落とした。
 渡された用紙には【特令】と書かれており、俺の両サイドから覗き込む2人とティファさんまでもが顔を近付かせて覗き込んだ。
 ティファさんはそれを見てすぐに理解したのか、「なるほどねー」と言って内容までは見ないで顔を離れる。

「なるほど?」

「まあ中身を見てみろよ。アンタにも関係してくる事だからよ」

 ローウェルがそう言い捨てながら、自分で説明するのが面倒だと言う態度でティファさんから離れて次の受付嬢へ、口説きに回り始めた。
 一昨日は色々とローウェル自身が仕事から帰って来たばかりにより、やる事が溜まっているからと今日まで話をせずに約束だけ済ました流れなのだが、アスティアがそんな態度に憤慨しながらも、なんとか宥めて内容を読み上げる。
 中身は【特令】とあって、読み進めると納得した。
 確かに俺にとっては、大きく関係している。…と、言うよりも俺にも“これ”が来るのだと知っている。

迷宮ダンジョン攻略………」

「ちょっと待ってよ、それってギルドランクA以上に対して出されるクエストでしょ? じゃあ、なに……あいつそんなに強いの?」

 俺の読み上げた単語に、アスティアが異議ありとばかりに声を荒げる。
 ギルドランクA以上からギルド本部直々に発令される“迷宮ダンジョン攻略クエスト”。
 俺としては実態がよくわからない上に、どうやって来るかもどうすれば良いかも謎だった。

「なるほどね。こんな感じで来るのか」

「ローウェル君もこの間Aに昇格したのよ?」

 ティファさんが書類の束を持ちながら歩み寄る。
 彼女曰く、口説き叩かれ紅葉コレクションを増やしているローウェルを横目にティファさんは教えてくれた。

 ローウェル・ヴァルサス、年齢は21歳。職業ジョブは狩人との事で、俺と同じシーフ系統の1つであり、弓使いでありソロでもあるとの事。ローウェルはずっと俺と同じ様にソロで仕事を受け、俺とは正反対の考えで仕事を選んでいた。
 高額よりも遠くへ、決して近場を受けずに1番離れた土地のクエストを選んではソロで終わらせてフラッと帰って来る。旅を好む冒険者であった。

「確かこの間……エンシェントパウルを討伐したんだって。 その功績がAになったって、報告書で読んだよ?」

「エンシェントパウル?」

 イリスは勿論知らないと言った顔で俺を見る。
 エンシェントパウル、古くから長寿を誇る体調五メートル程で姿形はまさに巨象の如く。
 長い鼻と圧倒的なパワーで敵を薙ぎ倒すとされるモンスターである。ーと、彼女に説明するも。

「怖そう……」

「感想それだけ…?」

「うん?」

 そんな単純な感想とイメージが微妙な表情のイリスを置いとき、もう一度手に持つ【特令】をじっくりと読む事にする。

「でも、俺にこれ見せてなんの意味が……」

「さあ?」

「ふふ、多分ー」

「ああ、俺と一緒に迷宮ダンジョン攻略に行ってくれ」

 俺の疑問点をアスティアは肩を透かして答え、答えを知っているティファさんが口を開いた時に、ローウェルは遮る様に会話に戻って来た。
 顔中紅葉コレクションにより、整った顔立ちが酷い有様で真っ赤なトマトへと変貌したローウェルにイリスが「うわ、痛そう…」と引き気味な表情で呟いた。

「そう、アンタのメリットになるぜ?」

「メリット?」

 首を傾げると、その様子にティファさんが人差し指を見せながら説明し始めてくれた。

「えっと、同じAランク同士でパーティ組めば迷宮ダンジョン攻略は一回しか来ないの。 パーティ内に何人Aランクがあろうと定期的に来るけどそれぞれに対してって訳じゃないから、頻繁に来なくて済むのよ」

「そーそー、流石ティファちゃん。俺は基本旅が好きなソロなもんでね。急なパーティ参加も迷宮ダンジョン攻略が邪魔して作れやしねぇ。それに、Aランクがいるパーティなんかじゃ既に定員割れよ。だから、これから攻略クエストが来るであろうお前達パーティに声をかけたってわけだ」

 なるほどな、ローウェルと組む事でAランク2人に難易度も下がるし何かと都合が良さそうだ。

「アタシも旅好き、良いじゃん組もうよ!」

「簡単に言ってもな……。言っとくけど、この2人は酷いぞ」

「「ちょっ!?」」

 イリスの気楽な発言に軽い口調で返事しながら、所々跳ねた赤髪を掻きながらローウェルに伝える。
 日に最高二発の怪力魔法使いと、知力乏しく不安抱える新米冒険者をパーティにしているデメリットを伝える。
 俺としては、強力な戦力になり得るローウェルと組むのは願っても無いとは思うが、この2人のお守りを一緒に引き受ける事が条件だと思っている。

「女の子を守るのも狩人の役目だぜ? なんだろうと気にしないさ」

 またカッコいいセリフを吐き捨てながらウインクするローウェルに、こいつもまともじゃないんじゃないかと不安に駆られる。

「まあ、そう言うなら……」

 「よろしく」と言いかけようとしたが、アスティアが嫌がっていた反応を思い出して言葉を止めると、彼女に視線を移して了解を取ろうとする。
 パーティ円満は意見が割れることなく満場一致と、俺は考えているのでお気楽イリスは良いとしても、融通のきかないアスティアにはちゃんと意見を取り入れようと思う。

「別に良いわよ。なんか私達の扱いに納得行かないけど……」

 ………紹介文がどうやらお気に召さないだけで、別にローウェル加入は反対しない様だ。

「そうか? それじゃあよろしく頼むよローウェルさん」

 今更ながら歳上だと言う事で、さん付けで呼んで見ると、パーティ加入を受け入れてくれた事に若干だが嬉しそうな表情を見せながら「呼び捨てにしろ」と言ってくれた。

「よろしくローウェル! アタシ、イリス!」

「足引っ張んないでよ……アスティア・メリンよ」

「俺は……」

「ヴァイス・リンスリード。一度聞けばわかるって、よろしくなお嬢さん達? ローウェル・ヴァルサス、旅好きの狩人だ」

 こうして俺達は4人パーティが結成された。
 【特令】の紙には、迷宮ダンジョン攻略は来月から行う様にと通達があり、時間もあるとの事でイリスが「祭りに行けるー!」とはしゃいだ。

「そうか、もう都市入祭か……」

「ヴァイスは去年行ったの?」

 イリスの発言に首を横に振る。

「いや、本読んでた」

「だと思ったわ……」

 アスティアは何と無く察してたのか、マジかこいつと言う様な目で見られる。
 ローウェルはその様子に無邪気に笑いながら、「祭りの醍醐味は……」とイリスとアスティアを呼んで耳打ちしている。

 …ちょっとパーティ内で内緒話は傷付く。
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