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第2章 幻影と覚醒、又は神の贈り物

第8話

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 ー『速度強化』発動。

 地面を力強く蹴り上げ、一気に化物の胸を捉える。
 超高速怒涛の斬撃ラッシュを繰り広げ、下ではガイアスが自身の身長を優に超え重量あるハルバードを振りかざす。だが、全くと言って良いほど手応えが無い。遂には屍の巨人兵が動き出した。

「マズイ………あんちゃん、避けろ!!」

 ガイアスが兜を抑えながら物陰へとダッシュする。俺は空中にて身動きが取れない中、動き出した。
 ー最初はゆらりと、影が揺れ動きロクなスピードも無いと思ったが、一瞬にして俺の視界が揺らぐ………。

 ー想像絶する敏捷に、またもや遠くへ吹き飛ばされる。

「ーーーーー~~~~~~~ッ!!!?」

 岩壁に打ち付けられ、バランスも取れることなく地面へと着地する。
 絶する背中の痛みに悶絶し、息が若干止まりかける程の痛みに仰け反りながら声にならない声を上げる。

「お、おいあんちゃん!?」

 ガイアスが慌てて駆け寄り回復液ポーションを口に運ぶ。
 無理矢理流し込まれ回復液ポーションが喉を通り、身体全体の痛みと傷を見る見る内に回復する。

「ーーーーーカハッ!?ゴホゴホ…けほっ……ありがとうございます。ガイアスさん……」

 咳き込みながら、お礼を言い化物の方へ向き直す。

 ーーーターゲットとして認めたのか。真っ黒な闇の怪物は……不気味に光る赤い瞳を此方に向けていた。

「やる気になっちまった様だな……」

「次は油断しませんよ…」

 口元から垂れる血を親指で弾きながら身構える。

♢♦︎♢

 屍の巨人兵が咆哮して一瞬、状況は一変してしまった。

 …………な、なにが起きたんだろう。ゆっくりと瞼を開けたいが、腕に多少痛みが伴って一度は開きかけた瞼を閉じる。
 ぴちゃんと水の滴ったのか、頬を撫でた事でようやく目を開けられた。

「………あ、目が…覚めた?」

 誰…………?
 ヴァイス……?

「ちょっと待ってて。俺も目が覚めたばかりで、少し我慢しててくれよ」

 瞳を開けても、視界は真っ暗で顔が見えない。

「くっ。…よっ………と」

 なにか力んでもぞもぞと動か出し、その行動と伴って光が入り込む。
 その際にさわっと、くすぐったいような気持ちの良い物があたしの足を撫でた。

 …尻尾?

「えっ、レ…レノアさん!?」

「あはは……ごめん、俺で」

 光の差し込みにくっきりと見えるのは、犬耳を弱々しくピクピク動かしながら、獣人族ビーストの戦士レノアがイリスに覆いかぶさっていた。
 瓦礫の山に埋もれ、ゆっくりと崩れない様に這い出るレノア。
 彼は屍の巨人兵が咆哮するのを持前の種族特有の察知で感じ取り、近くにいたイリスを庇って咆哮の突風を受けたのだった。

 ようやくレノアが先に瓦礫から出ると、取り残されたイリスへと手を差し伸べながら助け起こす。
 ようやく外の状況が理解でき、彼女は言葉を失う。
 既にスズレンは崩壊されていたが、それでも名残や残骸があった。
 だが、あの咆哮によって完璧にオアシスは無くなり更地……いや、荒れ果てた荒野に変貌していた。

「ヴァイス………」

 心配そうに呟いた時、レノアが立っているであろう背後で瓦礫の崩れる音と共に倒れこむ音に気付き振り向くとレノアが力無く崩れ落ちていた。

「レノアさんーーーーーっ!?」

「ハハ、ドジった」

 駆け寄り抱きかかえると背中から酷い流血を手に取り気づく。レノアはそれを気恥ずかしそうに笑いながら、「気にしないで?」という様に目配せを送る。
 回復液ポーションが無いか、腰元のポーチを弄るがチクリと痛みが走り手を引く。

「ポーションが割れちゃってる…そんな、ごめんなさいレノアさん…」

 ヴァイスが口酸っぱくポーションポーチを買えと言っていた事が、此処で理解するイリスは泣きそうな表情で謝るもレノアは問題ないと言って汗を垂らしながらも無理して笑う。

「嬢ちゃんこそ、大丈夫かい?怪我は…?」

「だ、大丈夫です!レノアさんのおかげで」

「良かった…イテテ、隊長や君のパートナーは?」

 よろめきながら立ち上がるレノアに肩を貸してイリスも辺りを見渡すと、直ぐにも2人の影を発見する。
 いや、屍の巨人兵が巨体に似合わず影を揺らめきながら軌道を作りながらも、信じられない敏捷な動きで暴れている。
 そしてそれを縫う様に動き回り戦ってる姿が1人。そしてもう1人は、足元で隙を見ては大きな斬撃を放ちながらの、一撃離脱ヒット&アウェイ戦法を取っているガイアスを見つける。

「他のみんなは……」

「嬢ちゃん、それは後だ。今はあの2人の助太刀に行かないと……」

 そう言ってレノアは偶然にも見つけたリュックを拾い上げ、おもむろに中を探って小さな瓶を取り出して飲み干す。

「ほら、君も小さな傷があるだけでも飲んで、体力も回復するから」

 回復液ポーションを渡して飲む様に勧められ、受け取りながら飲み干す。
 一瞬にして疲れと小さな傷が治った。

回復液ポーションが残り2本……魔法回復液マジックポーションが3本か」

 心許ないな、と表情にレノアは出すが、それを黙ってポーチへとねじ込みながら、リュックの外側に取り付けられた短剣や細身剣を取り出して装備し出す。
 イリスはずっとレノアの行動を見ながらも、2人っきりで戦い続ける彼等も注視する。

「……あれ?」

 ふと彼女は地面に煌めく物を見つけて近寄ると、それを拾い上げた。

「ヴァイスの短刀だ……」

 僅か30センチの小さな短刀、刀身は白く波打つ刃紋を広げたラナが打った武器。
 これがあると言うことは、下手をすれば武器がない可能性か一本であの黒い化物と戦ってる恐れがある。そう感じたイリスは、その短刀を大事に抱えた。

「嬢ちゃんお待たせ、準備出来たよ。行ける?」

「ーはい!」

 レノアが声をかけ、それを静かに頷く。

 ーーー早くヴァイスの元へ。

 彼女は小さな身体でレノアが先行するのを追い掛ける様に走る。

♢♦︎♢

 さっきから何も効いていないのか、目に見えないダメージを信じながら化物から迫る猛スピードの漆黒の腕を躱しながら焦りを覚える。
 どうやったら勝てるのか、コイツ屍の巨人兵は死ぬのか。そんなどうしようもない負の考えが、ずっと答えが解けない事を考えてしまう。

「くっそぉぉぉおおおーーーーーー!!!」

 大きく、更に大きく……地面を強く蹴り上げて、屍の巨人兵の頭上高くまで飛び。短い刀身30センチの短刀で落下と共に両断する。

「俺の武器じゃダメージが小さ過ぎる……」

 もっと長く、厚い武器が……。だが、俺にはそれを持ち操れる程の技量はない。

 ーーーー仕方ない。俺の魔力で、いやこのスキルパーフェクトセフトで削れるだろうか。

「やるしかねぇ…」

「くっ……」

 ガイアスが力無く片膝をつく。

「ガイアスさん!?」

「歳か……ちと、疲れちまっただけだ」

 慌てて歩み寄り、相変わらずガムシャラだが腕を振り回し続ける屍の巨人兵から逃げる様に物陰へと肩を貸しながら隠れる。
 ポーチから回復液ポーション魔力回復液マジックポーションを2本取り出して渡す。

 ーマズイな。残りポーションが各1個か。

「これ、飲んでください」

「ぜぇ…ぜぇ……悪りぃな」

 既にガイアスは何本もポーションを使い果たしてしまい、回復道具も底がついていた。
 今の所ヴァイス自身は、屍の巨人兵の攻撃になんとか『感知』スキルを用いて避け続けていられる。
 それにガイアスの攻撃力は正直の所、唯一の有効打だと考えポーションを惜しみなく使う。

「残りのこれもガイアスさんが持ってて下さい」

「何言ってやがる。それでラストだろう」

 ポーチを覗いたのか、二本の小瓶を受け取らないガイアス。

「なら、せめて回復液ポーションだけは持ってて下さい。俺じゃ今の所囮ぐらいですが、まだまだスタミナはあります」

「………すまねぇ」

 よし、と思いながら立ち上がる。
 今の所屍の巨人兵は小さく不気味に光る眼光は、彼等人間達が小さ過ぎるのかあまり追えていないのは確認している。
 それがチャンスと思い、ヴァイスはガイアスから離れながら右手を大きく突き出した。

 ー狙う場所は………此処だ。

 ー『完璧なる盗みパーフェクトセフト』!!!

 広範囲な一部分、圧倒的なまでのパワーを持つ腕……いや、左肩を削る・・事を選んだ。
 神々しく右手が光る、何かが触れた感触を合図に引き抜く様に突き出した手を握りながら引っ張る。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

「アアアアアアアアアアアアア!!!!」

 それと同時に屍の巨人兵が叫び声を上げる。
 またもや声の風圧が押し寄せてくるが、両足に力を入れて腰を落とし耐えるように気合いを入れる。

「ーーーーあああああああああああああ!!!!」 

 そして、ヴァイスの右手は漆黒、真っ黒く、闇を捕まえていた。
 影が揺らめき左腕が落ちる。
 質量も物量も無いと感じてしまう化物を、ヴァイスの固有スキル『完璧なる盗みパーフェクトセフト』がしっかりと掠め取った。
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