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第六話
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「あなたに、会いに来ました」
顔を上げてみると、ゲイベル様は呆然として立っていた。なんて言ったか分からなかったのだろうか。
「ゲイベン様に会いたくて来ました」
両親が勝手に進めた婚約の誤解を解くため、ゲイベン様には何としても分かってもらわなければいけない。
「本音じゃないのでしょう」
そんな返事が返ってくるなんて不本意だった。
「本音です」
この人は何か勘違いでもしているのか。それとも私のことを信用していないのか。ただ私のような人間が嫌いなのか。
「本音、ですか」
「もちろんです」
「嘘はつかなくて大丈夫です」
絶対にこの人は私の事を信用していない。確かに舞踏会で私は、男性という男性に対してアプローチをしていたから、疑われるのも仕方がない。今日だってその標的にされたぐらいに思っているのだろう。
少し寂しい。騎士団にいるだけ疑りぶかい。
「私が見合いに行ったのは、断るのは失礼だと思ったからです。気は使わなくていいです」
確かに貴族のお誘いに対しての礼儀だったのかもしれない。だとしても、私にはあなたしか居ないのよ!家の借金返済。そしてフョードル家から逃げること。
「フョードル家のエリック様と婚約したというのは早とちりです。両親はそうやってほしそうですが、私は違います。あの人とは上手くやって行ける気がしません」
俯いて話をしていたのだけれども、ふと顔を上げてみると、目の前のゲイベル様は私に背中を向けてたのだ。なぜそんな風に背中を向けているのだろう。
この人にははっきりと言った方が良い気がした。私は嘘をつくことを得意としているけれども、相手は十歳上の大人であるし、子供っぽくふるまっておこう。心配してもらえれば良し、引かれればそれはそれで残念ということで。
「あの、その鞭打ちとか、貴族ではそう言うことがよくあるのかい?」
「分からないです。私、友達いないので」
「友達がいない?」
「いないです。母に伯爵家や侯爵家などの舞踏会ばかりに連れていかれて、伯爵令嬢や侯爵令嬢は私とは仲良くしてくれませんでした。今は両親に借金がありますし。益々誰も仲良くしてくれなくて」
実際子爵令嬢も男爵令嬢も両親に借金があるとわかると、すぐに離れていった。それは令嬢達だけではなく、周りの男性達も私とは結婚したがらなかった。私と結婚すれば私と共に借金と両親もよってついてくる。かなりの富豪か、私と結婚したいという意志の固い人でなければ結婚なんてしないだろう。
「ソフィ嬢はどうしたいのですか?」
「あなたと結婚したいです」
「少し考えさせてください」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた時、唐突に大広間から「ソフィ!」と大声で私の名前を呼ぶ母の声が聞こえてきた。そしてドタドタトテラスの方へ母がやってきた。般若のような表情をした母は私の腕を強くつかむと、ゲイベル様のことを睨みつけた。
「この子はフョードル家と婚約したと言ったはずです。それなのに、この子をこんなところへ連れてくるなんて。私は騎士号の方と結婚させる気は全くありませんからね」
頭に血が上った私は腕を振り払った。
「お母様。私知っているから。お母様はお金もないのに、高級な物ばかりを買って、若い男性と遊んでたりしていたじゃない。お父様だって、町へ出て若い女性と浮気してたのよ。私知ってるから。それなのにお金が無くなって御爺様とおばあ様からの資金援助もされなくなって、私を男に売るしかできなくなったんでしょ!」
こんな人がいるところで話す内容でないことは分かるけれども、私は母の身勝手さが頭にきていた。今までずっと黙っていたことを告白した。私は両親からお金を貰えないので自分でドレスを補修してまで着ていたというのに母は月に何回も新しいドレスを見た。それで舞踏会へと向かうのだ。
「嘘を言うんじゃない!」
強い口調で母はそう言うと、私の頬を平手打ちした。頬を掴んで座り込むと、ゲイベル様が近くへとやってきて、間に割って入った。
「私の屋敷で暴力はおやめください。シャロール夫人」
「教育よ!三十にもなって、結婚していないあなたに子育ての何が分かるっていうの!貴方みたいな行き遅れとソフィを結婚させる気なんてサラサラありませんからね!」
強く私は腕を引かれると、そのままゲイベル様の屋敷から連れ出された。
顔を上げてみると、ゲイベル様は呆然として立っていた。なんて言ったか分からなかったのだろうか。
「ゲイベン様に会いたくて来ました」
両親が勝手に進めた婚約の誤解を解くため、ゲイベン様には何としても分かってもらわなければいけない。
「本音じゃないのでしょう」
そんな返事が返ってくるなんて不本意だった。
「本音です」
この人は何か勘違いでもしているのか。それとも私のことを信用していないのか。ただ私のような人間が嫌いなのか。
「本音、ですか」
「もちろんです」
「嘘はつかなくて大丈夫です」
絶対にこの人は私の事を信用していない。確かに舞踏会で私は、男性という男性に対してアプローチをしていたから、疑われるのも仕方がない。今日だってその標的にされたぐらいに思っているのだろう。
少し寂しい。騎士団にいるだけ疑りぶかい。
「私が見合いに行ったのは、断るのは失礼だと思ったからです。気は使わなくていいです」
確かに貴族のお誘いに対しての礼儀だったのかもしれない。だとしても、私にはあなたしか居ないのよ!家の借金返済。そしてフョードル家から逃げること。
「フョードル家のエリック様と婚約したというのは早とちりです。両親はそうやってほしそうですが、私は違います。あの人とは上手くやって行ける気がしません」
俯いて話をしていたのだけれども、ふと顔を上げてみると、目の前のゲイベル様は私に背中を向けてたのだ。なぜそんな風に背中を向けているのだろう。
この人にははっきりと言った方が良い気がした。私は嘘をつくことを得意としているけれども、相手は十歳上の大人であるし、子供っぽくふるまっておこう。心配してもらえれば良し、引かれればそれはそれで残念ということで。
「あの、その鞭打ちとか、貴族ではそう言うことがよくあるのかい?」
「分からないです。私、友達いないので」
「友達がいない?」
「いないです。母に伯爵家や侯爵家などの舞踏会ばかりに連れていかれて、伯爵令嬢や侯爵令嬢は私とは仲良くしてくれませんでした。今は両親に借金がありますし。益々誰も仲良くしてくれなくて」
実際子爵令嬢も男爵令嬢も両親に借金があるとわかると、すぐに離れていった。それは令嬢達だけではなく、周りの男性達も私とは結婚したがらなかった。私と結婚すれば私と共に借金と両親もよってついてくる。かなりの富豪か、私と結婚したいという意志の固い人でなければ結婚なんてしないだろう。
「ソフィ嬢はどうしたいのですか?」
「あなたと結婚したいです」
「少し考えさせてください」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた時、唐突に大広間から「ソフィ!」と大声で私の名前を呼ぶ母の声が聞こえてきた。そしてドタドタトテラスの方へ母がやってきた。般若のような表情をした母は私の腕を強くつかむと、ゲイベル様のことを睨みつけた。
「この子はフョードル家と婚約したと言ったはずです。それなのに、この子をこんなところへ連れてくるなんて。私は騎士号の方と結婚させる気は全くありませんからね」
頭に血が上った私は腕を振り払った。
「お母様。私知っているから。お母様はお金もないのに、高級な物ばかりを買って、若い男性と遊んでたりしていたじゃない。お父様だって、町へ出て若い女性と浮気してたのよ。私知ってるから。それなのにお金が無くなって御爺様とおばあ様からの資金援助もされなくなって、私を男に売るしかできなくなったんでしょ!」
こんな人がいるところで話す内容でないことは分かるけれども、私は母の身勝手さが頭にきていた。今までずっと黙っていたことを告白した。私は両親からお金を貰えないので自分でドレスを補修してまで着ていたというのに母は月に何回も新しいドレスを見た。それで舞踏会へと向かうのだ。
「嘘を言うんじゃない!」
強い口調で母はそう言うと、私の頬を平手打ちした。頬を掴んで座り込むと、ゲイベル様が近くへとやってきて、間に割って入った。
「私の屋敷で暴力はおやめください。シャロール夫人」
「教育よ!三十にもなって、結婚していないあなたに子育ての何が分かるっていうの!貴方みたいな行き遅れとソフィを結婚させる気なんてサラサラありませんからね!」
強く私は腕を引かれると、そのままゲイベル様の屋敷から連れ出された。
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