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プロローグ

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「お前は育ててもらうだけありがたいと思え」

 血のつながりがない義父となったアンダーソン伯爵は、リリーに出会ってそうそうそう言った。その言葉をまだ幼いリリーは理解が出来ず、父親が出来たことをうれしがっているだけ。
 そんなリリーの首元を見てアンダーソン伯爵は目を細めた。

「キャサリン、こいつの首にかかっているものはなんだ」

 リリーの首元には一人の女性の横顔が描かれた首飾りが下がっている。それもリリーはその首飾りを大切に握りしめている。

「これは、加護の証です。聖女セイレーンだか、なんだか知らないけど、その神様からの加護があるんですって。だからこの子、治癒魔法は使えるんだけど、それ以外はからっきしで。それで未来には聖女になるように教会から言われているんです」
「聖女だって!?」

 目を丸くして驚くアンダーソン伯爵はリリーに近寄り、付けられている首飾りをまじまじと見た。そして立ち上がるとニヤリと笑った。

「聖女になればいろいろな権力が手に入ることを知っているか?」
「いえ、全然知りませんでした」

 キャサリンは自分の娘にあるにもかかわらずリリーには全くの無関心で、魔法が使える人間でもないので、聖女やら、加護の証やら神官に言われてほとんど聞いていなかったのだ。

「代々国王になる者は聖女と結婚しているし、これは使えるかもしれないな」
「この子を使うんですか?」
「いや違う」

 そう言ってアンダーソン伯爵はキャサリンのお腹に視線をやった。

「こいつにはアンダーソン家の血が通っていない。だから、次生まれてくる子に与えてやろうじゃないか」
「でもこの子が加護があるかはわかりませんよ」
「そんなことお金でどうとでもなる」

 今現在アンダーソン伯爵は魔法道具の大手の店を持っており、たくさんの魔法使い達がアンダーソン伯爵の店の製品を買う。今はまだ発達段階であるがこれからの伸びしろがすさまじく、期待が寄せられている。そのためかなり儲かっているのだ。お金だけはからの手元にたくさんある。
 そんなところでアンダーソン伯爵はリリーから加護の証を取り上げようとした。でもリリーは首飾りを強く握りしめた。

「これ私のよ」
「リリー!離しなさい!」

 キャサリンが怒鳴った。

「だって、これ、神父様が私に下さったんだもの!お母様は私に何もくれなかったけど、神父様は私にこれをくれたわ!」
「これはあんたのじゃないの。さっさと離しなさい!」

 けれどもアンダーソン伯爵は容易にリリーから首飾りを奪った。幼い子供と力比べをして勝てない大人なんているわけがない。

「これで生まれてくる子は皇太子殿下との結婚もできれば、将来の安泰も手に入れたものだな」
「返して!」

 飛びついてくるリリーのことを突き飛ばして、リリーは頭を地面にぶつけて、涙を目に浮かべると、大きな声でワンワン泣き出した。

「もう、いつもこれなんだから。ほんとうるさくって。死んだ旦那が、この子を甘やかしてたのよね」
「部屋に閉じ込めておけばそのうちなく止むだろ」
「それもそうね。この子部屋に入れておいて、鍵は外から閉めてね」

 メイド達は泣きわめくリリーのことを抱き上げると、アンダーソン伯爵とキャサリンから離した。

「この子の名前なんにしましょう」
「なんだろうな。品が良い名前が良い。リリーなんて名前誰がつけたんだ」
「死んだ旦那ですよ。どうせ愛人か何かの名前ですよ」

 二人はリリーのことなんて全く構わず、これから生まれてくる子にしか興味がなかった。

「おかあさまぁ!」

 リリーの声は全く届かず、部屋に閉じ込められてしまうと襲われたのは、絶望と孤独だけだった。
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