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エリーゼに婚約破棄を言い渡し、エリーゼは反論をしつつも最後にはそれを受け入れた。泣きながら笑って、隣国の王子と結婚すると声高々に宣言して舞踏会から出て行った。なんて馬鹿なんだ。隣国に居る王子と言えば、冷徹で戦争馬鹿の奴だと言うじゃないか。もう三十近いというのに結婚をしないし、女の色気話を一切聞かない。
そろそろ現国王が病気で死にそうというところまできて、国王になるらしいが。
容姿は美形で、女からはとても人気が高いと言われているが、そんな男と結婚したところで、絶対に幸せにはなれない。この国で俺の弟か、兄と結婚していれば公爵家のままで戦いも知らずに、箱入り娘として幸せに暮らせたというのに馬鹿な奴だ。
「フラン伯爵がいらっしゃいました」
「通せ」
「私ここにいてもいいのかしら」とベリンダが俺の腕にしがみついて、心配そうに聞いてきた。
「ああ、きっとエリーゼが失踪した話だろう。どうせ」
ベリンダは本当に可憐で可愛らしい。プレゼントをあげればいくらでも喜んでくれるし、いつも俺の隣にいてくれる。それに一番は俺のイエスマンになってくれることだ。エリーゼはいろんなことをズバズバと自論を振りかざして、良いところなんて一つもない。
部屋の扉がノックされた。俺が「入れ」というと、勢いよく扉が開けられて、すごい剣幕でエリーゼの父のディレックと、母のマリアが入ってきた。ディレックは騎士団の団長もしていて、能力も高く、人望も厚い。マリアの方は元聖女で、今は魔法研究に没頭し、医療魔法の向上や、質の高いポーションなどで成果を上げている。
ディレックと、マリアはまるで俺とベリンダを目力で殺しそうなほどにらみつけてきた。
「その女性には席を外していただきたい」
「なぜだ?」
「これは殿下と私達の話です。今すぐに退出願いたい」
エリーゼの傲慢さはディレック譲りか。だが確かにベリンダを怖がらせるにもいかないな。
「ベリンダ、他の部屋で待っていてくれ」
「え、ええ」
ベリンダは腰を低くして、エリーゼの両親に何度もお辞儀ししながら、部屋から出て行った。足音は小さく、扉を閉める音も小さく。
「あんなに気弱そうな子に王妃の仕事が務まりまるのでしょうか」とマリアが怪訝そうな表情をして言った。
「マリア今は押さえろ」
「…わかってるわよ」
本当にむかつく、エリーゼの両親であるディレックと、マリアはとにかくエリーゼに似ている。いや、エリーゼが似ているのか。と一つ一つの言動がにかく癇に障る。
「とにかく座ってくれ」
「はい」
俺とディレック、マリアは足の低いテーブルをはさんでソファに座った。姿勢を正して凛とした二人が座る。メイドが紅茶を持ってきて、二人の前に静かに置いた。
「フィル殿下、男爵令嬢と王族が結婚できないことは分かっていますか?できるのは侯爵、わがままを通せても伯爵令嬢までです。男爵令嬢とは結婚できません」
「テイラー男爵に伯爵の称号を渡せばいいだけの話じゃないか」
するとマリアがテーブルに両手をついて、上半身を前に乗り出してきた。部屋中にバン!という音が響いた。マリアの堪忍袋の緒が切れるのは早いな。
「エリーゼが今まで努力してきたことはどうなるんです!?エリーゼはすべての時間をあなたの未来のために、この国のために、費やしてきたというのに!」
「だからなんだ?」
マリアは歯茎が見えるほどに歯を食いしばると、ぽろぽろと涙を流して、その涙が一滴づつテーブルに零れ落ちた。ディレックはマリアを止めようと必死だ。
「エリーゼの大切な時間を返して!!エリーゼは王妃になるために必死だったのに!周りの大人たちに言われて王妃になると決まって!死ぬほど努力してきたのに!なんで!なんであの子がこんなことにならないといけないの!!」
エリーゼが勝手にやってきただけの話だろう。俺は今までエリーゼに王妃になるために努力しろなんて一言も言ったことはない。あいつが勝手に勉強していただけの話だろう。
「あんな、王妃になる気もない!勉強も教養もない女!」
俺は理性を無くして、腰に携えていた剣を抜き、マリアの首を切る勢いで、剣を振った。けれどディレックが腕でそれを防いだ。ディレックの腕からは血がたらたらと流れ出ている。
こいつ!俺は剣を床に捨てた。
「なにをなさるのですか!!」
マリアは顔を真っ青にしながら、ディレックの血の流れる腕を握りしめて、治癒魔法をかけた。部屋中が緑色の淡い光で充満した。光がドンドン強くなって俺は思わず目をつむった。
目を開けると、ディレックの血は止まり、元通りとなっていた。代わりにマリアは息切れをして、ソファに倒れこんでいた。
「殿下!何をなさったか分かってらっしゃるのか!王宮で剣を抜くなど御法度ですぞ!」
「黙れ!マリアが次期王妃であるベリンダの事を侮辱したからだろう!侮辱罪で逮捕するぞ!」
「なら貴方様も侮辱罪で直訴します!エリーゼの事をさんざん馬鹿にして!貴方のようなお人と婚約させた私が馬鹿だった」
ディレックはマリアを連れて出て行った。こいつら、親子そろって馬鹿ばかり、俺ん歯向かったらどうなっているか分からないのか?俺が国王になったらフラン家を滅ぼしてやる。
そろそろ現国王が病気で死にそうというところまできて、国王になるらしいが。
容姿は美形で、女からはとても人気が高いと言われているが、そんな男と結婚したところで、絶対に幸せにはなれない。この国で俺の弟か、兄と結婚していれば公爵家のままで戦いも知らずに、箱入り娘として幸せに暮らせたというのに馬鹿な奴だ。
「フラン伯爵がいらっしゃいました」
「通せ」
「私ここにいてもいいのかしら」とベリンダが俺の腕にしがみついて、心配そうに聞いてきた。
「ああ、きっとエリーゼが失踪した話だろう。どうせ」
ベリンダは本当に可憐で可愛らしい。プレゼントをあげればいくらでも喜んでくれるし、いつも俺の隣にいてくれる。それに一番は俺のイエスマンになってくれることだ。エリーゼはいろんなことをズバズバと自論を振りかざして、良いところなんて一つもない。
部屋の扉がノックされた。俺が「入れ」というと、勢いよく扉が開けられて、すごい剣幕でエリーゼの父のディレックと、母のマリアが入ってきた。ディレックは騎士団の団長もしていて、能力も高く、人望も厚い。マリアの方は元聖女で、今は魔法研究に没頭し、医療魔法の向上や、質の高いポーションなどで成果を上げている。
ディレックと、マリアはまるで俺とベリンダを目力で殺しそうなほどにらみつけてきた。
「その女性には席を外していただきたい」
「なぜだ?」
「これは殿下と私達の話です。今すぐに退出願いたい」
エリーゼの傲慢さはディレック譲りか。だが確かにベリンダを怖がらせるにもいかないな。
「ベリンダ、他の部屋で待っていてくれ」
「え、ええ」
ベリンダは腰を低くして、エリーゼの両親に何度もお辞儀ししながら、部屋から出て行った。足音は小さく、扉を閉める音も小さく。
「あんなに気弱そうな子に王妃の仕事が務まりまるのでしょうか」とマリアが怪訝そうな表情をして言った。
「マリア今は押さえろ」
「…わかってるわよ」
本当にむかつく、エリーゼの両親であるディレックと、マリアはとにかくエリーゼに似ている。いや、エリーゼが似ているのか。と一つ一つの言動がにかく癇に障る。
「とにかく座ってくれ」
「はい」
俺とディレック、マリアは足の低いテーブルをはさんでソファに座った。姿勢を正して凛とした二人が座る。メイドが紅茶を持ってきて、二人の前に静かに置いた。
「フィル殿下、男爵令嬢と王族が結婚できないことは分かっていますか?できるのは侯爵、わがままを通せても伯爵令嬢までです。男爵令嬢とは結婚できません」
「テイラー男爵に伯爵の称号を渡せばいいだけの話じゃないか」
するとマリアがテーブルに両手をついて、上半身を前に乗り出してきた。部屋中にバン!という音が響いた。マリアの堪忍袋の緒が切れるのは早いな。
「エリーゼが今まで努力してきたことはどうなるんです!?エリーゼはすべての時間をあなたの未来のために、この国のために、費やしてきたというのに!」
「だからなんだ?」
マリアは歯茎が見えるほどに歯を食いしばると、ぽろぽろと涙を流して、その涙が一滴づつテーブルに零れ落ちた。ディレックはマリアを止めようと必死だ。
「エリーゼの大切な時間を返して!!エリーゼは王妃になるために必死だったのに!周りの大人たちに言われて王妃になると決まって!死ぬほど努力してきたのに!なんで!なんであの子がこんなことにならないといけないの!!」
エリーゼが勝手にやってきただけの話だろう。俺は今までエリーゼに王妃になるために努力しろなんて一言も言ったことはない。あいつが勝手に勉強していただけの話だろう。
「あんな、王妃になる気もない!勉強も教養もない女!」
俺は理性を無くして、腰に携えていた剣を抜き、マリアの首を切る勢いで、剣を振った。けれどディレックが腕でそれを防いだ。ディレックの腕からは血がたらたらと流れ出ている。
こいつ!俺は剣を床に捨てた。
「なにをなさるのですか!!」
マリアは顔を真っ青にしながら、ディレックの血の流れる腕を握りしめて、治癒魔法をかけた。部屋中が緑色の淡い光で充満した。光がドンドン強くなって俺は思わず目をつむった。
目を開けると、ディレックの血は止まり、元通りとなっていた。代わりにマリアは息切れをして、ソファに倒れこんでいた。
「殿下!何をなさったか分かってらっしゃるのか!王宮で剣を抜くなど御法度ですぞ!」
「黙れ!マリアが次期王妃であるベリンダの事を侮辱したからだろう!侮辱罪で逮捕するぞ!」
「なら貴方様も侮辱罪で直訴します!エリーゼの事をさんざん馬鹿にして!貴方のようなお人と婚約させた私が馬鹿だった」
ディレックはマリアを連れて出て行った。こいつら、親子そろって馬鹿ばかり、俺ん歯向かったらどうなっているか分からないのか?俺が国王になったらフラン家を滅ぼしてやる。
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