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第十八話
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「レオ・グランバードは魔法の最高峰に立つ魔法使いなんです!エルフで、魔法使いなら知らない人は一人もいないぐらい有名な人物です。魔法使いとして世界一番魔物を倒して、たくさんの魔法の研究も発表してる。まさかこの国に住んでいたなんて」
いつにもなくルカは上機嫌で、誰よりも早く遠くに見える家へと歩いていく。
「今までにないぐらいルカが喜んでいるわ」
ルカの背中を眺めながらリリアは軽く笑った。
「何かルカ君が喜びそうなことしてあげたことが無いんですか?ルカ君の世話はリリア様がしてきてあげたんですよね」
「衣食住は与えたけど、それ以外は私は何をすればいいか分からなかったから。プレゼントとかもどんなもの渡せばいいか全くわからなくて」
リリアの表情に冗談であったり、軽い言葉なんてことは全く違うとわかる。その言葉はまるでプレゼントをもらったことも、渡したこともない人間の言葉だった。
「それに私はルカに世話をかけてばかりで、世話をしてあげられたかどうか」
風に揺られながらリリアの金髪が揺れると、アンナは憐れむような、ちょっとした怒りが混じったような複雑な視線をリリアに向けていた。
「リリア様、サンタさん知ってますか」
「知ってる。でも私のところには一度も来たこと、なかったから」
はにかまながら笑うリリアのことを眺めながら、アンナは手を握りしめた。
アンナはリリアのことを哀れみながらも、可哀そうなそのリリアの境遇を羨ましがっていた。
平凡すぎるアンナにとって、リリアはシンデレラだ。アンナはリリアが今まで苦労した分、これから人一倍幸せになる気がしていた。そんなおとぎ話みたいな生涯が少しうらやましかった。
「苦労なさって来たんですね」
でも今は羨ましさよりもずっと可哀そうな気持ちの方が強い。
「でも小さい時の私はこうなることを望んでいたの。小さい時の私には価値が無かったから」
そうやって小さな丘を上がると、石垣に囲まれた木造の家が見えてきた。煙突からは煙が上がり、外に長い赤毛の女性が立っていた。
「こちらにグランバード様がいらっしゃるとお聞きしたのですが」
「どうぞ」
ルカにたずねられた女性は、頷いて家を指さした。そうして3人を警戒することなく、扉を開けた。
「どうしたシーナ」
中から耳がとがった身長が高いエルフの男性が現れた。この人がグランバードだろう。
「お客さん」
グランバードは三人をよく見た後で、ルカだけをまっすぐ見た。
「弟子は取ってないからな」
「弟子になりたいなんて、おこがましいこと考えていません。ただ一目見ることが出来ればと思いまして。僕ずっとグランバード様に憧れていたんです」
「まあ、入れ」
ルカとアンナが先に入り、リリアはグランバードのことをまっすぐとながめていた。もしもこの人と戦うなら勝てるだろうかと。これはほとんど職業病に近い。
剣を抜こうとすれば、リリア自身の首が飛ぶ気がした。思わず確認するように自分の首を触った。
「私が怖いか?」
「怖くはないです。でも戦いたくありません」
「君はただものじゃないな。魔法使いだったなら弟子にしたい」
瑠華を眺めながら「彼ではダメですか?」とダメ元で聞いた見たけれども、すぐに首を横に振られた。
部屋のなかは質素でシンプルだった。壁際の本棚には大量の本が仕舞われていて、赤毛の女性は同じ部屋にある台所に薪をくべている。
グランバードはかなり温厚な人で、ルカとアンナの話にずっと付き合ってやっていた。アンナもアンナで少し興奮しているようだ。それほどにすごい人なのはリリアも会った時すぐに分かった。でもリリアは話すことなんて一つもない。
四人でテーブルを囲んで離しているとき赤毛の女性はずっとせわしなく働いていた。紅茶を入れたかと思ったら、クッキーを出して、ずっと台所に立ったままで夕食の準備をし始める。
「一緒に住んでらっしゃるのは奥様ですか?」
「いや、エルフというのは性欲とか恋情みたいな感情が欠如しているからな。結婚はしない。強いて言うなら子供みたいなものか」
ぼんやりとコーヒーを飲みながらグランバードは言った。
「子供ですか?弟子ではなく?」
「ああ、あいつは元々奴隷で、裏取引で高額で取引されていたところを、私が五千万ゴールドで買っただけ」
それを聞いた3人は目を丸くした。五千万ゴールドもあれば一生何不自由なく暮らせる金額だ。
「それは、まぁ、なんとすごい」
彼女が外に出た時、リリアも何となく理由をつけて外へ出た。女性は外で畑の雑草を取っている。
「家政婦か何かですか?」
「いいえ」
リリアの方は全く見ないで、女性は手を動かし続ける。
「じゃあ、なんでこんな風に働いているんですか」
女性は黙って雑草を取り続けている。
「五千万ゴールドで買われたって本当ですか?働かされているのではないのですか?」
そうリリアがいったとき、突然女性は、顔を上げて、睨みつけるように、怒りのこもった視線だった。
「確かに私はレオに買われた。でも、私幸せ」
確かに女性は田舎の女性のように土にまみれているわけではない。髪も櫛でよくとかされて美しく、顔色も良ければ、体つきも良い。
無下には扱われていない。
「私から何も奪わないで、何かくれた人レオだけなの」
いつにもなくルカは上機嫌で、誰よりも早く遠くに見える家へと歩いていく。
「今までにないぐらいルカが喜んでいるわ」
ルカの背中を眺めながらリリアは軽く笑った。
「何かルカ君が喜びそうなことしてあげたことが無いんですか?ルカ君の世話はリリア様がしてきてあげたんですよね」
「衣食住は与えたけど、それ以外は私は何をすればいいか分からなかったから。プレゼントとかもどんなもの渡せばいいか全くわからなくて」
リリアの表情に冗談であったり、軽い言葉なんてことは全く違うとわかる。その言葉はまるでプレゼントをもらったことも、渡したこともない人間の言葉だった。
「それに私はルカに世話をかけてばかりで、世話をしてあげられたかどうか」
風に揺られながらリリアの金髪が揺れると、アンナは憐れむような、ちょっとした怒りが混じったような複雑な視線をリリアに向けていた。
「リリア様、サンタさん知ってますか」
「知ってる。でも私のところには一度も来たこと、なかったから」
はにかまながら笑うリリアのことを眺めながら、アンナは手を握りしめた。
アンナはリリアのことを哀れみながらも、可哀そうなそのリリアの境遇を羨ましがっていた。
平凡すぎるアンナにとって、リリアはシンデレラだ。アンナはリリアが今まで苦労した分、これから人一倍幸せになる気がしていた。そんなおとぎ話みたいな生涯が少しうらやましかった。
「苦労なさって来たんですね」
でも今は羨ましさよりもずっと可哀そうな気持ちの方が強い。
「でも小さい時の私はこうなることを望んでいたの。小さい時の私には価値が無かったから」
そうやって小さな丘を上がると、石垣に囲まれた木造の家が見えてきた。煙突からは煙が上がり、外に長い赤毛の女性が立っていた。
「こちらにグランバード様がいらっしゃるとお聞きしたのですが」
「どうぞ」
ルカにたずねられた女性は、頷いて家を指さした。そうして3人を警戒することなく、扉を開けた。
「どうしたシーナ」
中から耳がとがった身長が高いエルフの男性が現れた。この人がグランバードだろう。
「お客さん」
グランバードは三人をよく見た後で、ルカだけをまっすぐ見た。
「弟子は取ってないからな」
「弟子になりたいなんて、おこがましいこと考えていません。ただ一目見ることが出来ればと思いまして。僕ずっとグランバード様に憧れていたんです」
「まあ、入れ」
ルカとアンナが先に入り、リリアはグランバードのことをまっすぐとながめていた。もしもこの人と戦うなら勝てるだろうかと。これはほとんど職業病に近い。
剣を抜こうとすれば、リリア自身の首が飛ぶ気がした。思わず確認するように自分の首を触った。
「私が怖いか?」
「怖くはないです。でも戦いたくありません」
「君はただものじゃないな。魔法使いだったなら弟子にしたい」
瑠華を眺めながら「彼ではダメですか?」とダメ元で聞いた見たけれども、すぐに首を横に振られた。
部屋のなかは質素でシンプルだった。壁際の本棚には大量の本が仕舞われていて、赤毛の女性は同じ部屋にある台所に薪をくべている。
グランバードはかなり温厚な人で、ルカとアンナの話にずっと付き合ってやっていた。アンナもアンナで少し興奮しているようだ。それほどにすごい人なのはリリアも会った時すぐに分かった。でもリリアは話すことなんて一つもない。
四人でテーブルを囲んで離しているとき赤毛の女性はずっとせわしなく働いていた。紅茶を入れたかと思ったら、クッキーを出して、ずっと台所に立ったままで夕食の準備をし始める。
「一緒に住んでらっしゃるのは奥様ですか?」
「いや、エルフというのは性欲とか恋情みたいな感情が欠如しているからな。結婚はしない。強いて言うなら子供みたいなものか」
ぼんやりとコーヒーを飲みながらグランバードは言った。
「子供ですか?弟子ではなく?」
「ああ、あいつは元々奴隷で、裏取引で高額で取引されていたところを、私が五千万ゴールドで買っただけ」
それを聞いた3人は目を丸くした。五千万ゴールドもあれば一生何不自由なく暮らせる金額だ。
「それは、まぁ、なんとすごい」
彼女が外に出た時、リリアも何となく理由をつけて外へ出た。女性は外で畑の雑草を取っている。
「家政婦か何かですか?」
「いいえ」
リリアの方は全く見ないで、女性は手を動かし続ける。
「じゃあ、なんでこんな風に働いているんですか」
女性は黙って雑草を取り続けている。
「五千万ゴールドで買われたって本当ですか?働かされているのではないのですか?」
そうリリアがいったとき、突然女性は、顔を上げて、睨みつけるように、怒りのこもった視線だった。
「確かに私はレオに買われた。でも、私幸せ」
確かに女性は田舎の女性のように土にまみれているわけではない。髪も櫛でよくとかされて美しく、顔色も良ければ、体つきも良い。
無下には扱われていない。
「私から何も奪わないで、何かくれた人レオだけなの」
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