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 私はジャック様に頼んで、この公爵家の系譜を見させていただいていた。書庫の奥の奥の方へその本は大切にしまわれていて、王家の人々のことも書かれていた。
 確かに、子爵や、男爵の、令嬢から生まれた王族。それから貴族より下位のジェントリから生まれた王族もいた。さすがのジェントリの王族は、庶子として育てられていたけれど、土地の一部は与えられていた。私の子供も全然おかしくはない?
 でも問題は、私の片目が見えていない事。火傷の痕だって残っている。社交場で不利に働くかもしれない。

「そろそろ所帯を持たないと、色々と陰口を叩かれる年齢になってしまったから」
「きっと、ジャック様なら、たくさんの女性から選ぶことができたと思うのですが、なぜ結婚なさっていなかったのですか?」

 少しだけ言いづらそうな雰囲気であった。でも書庫の古びた椅子に座っているジャック様は、なんだか少し、落ち着いているように見える。

「元々私は、根暗で社交場も好きになれないような人間だったから。悪戯に寄ってくる女性が苦手だったんだよ。唯一好きだった母は亡くなってしまった」

 古びた本を一枚一枚めくりながら、ただひたすらに本を眺めている。

「私は女性にとったら当たりなんだろうね。当たりなだけなんだよ。でも私が年老いて、金がなくなって、権力が亡くなればハズレなんだよ」

 勘違いしていた。この人はずっと美しく、誰もが羨むような生活をしている物だと思っていた。でも実際は、きっと周りの視線を感じて、母親を亡くして、楽しく、幸せな事ばかりではなかったはず。

「それなら私は、傷物です」

 もう見えない片目を触ると、ましになったものの、皮ふがかさかさと乾いている。

「ヒビを入れた陶器を知っているだろう?」
「国宝にありますね。たくさん割った皿をまたくっつけると、美しい模様が浮き上がるんですよね」

 そう。確かにそう。

「人間と言うのは、たくさん傷付いて、何度も何度も、壊れて、その分だけ直して成長していくのかもしれませんね」
「本当に、その通りだよ」

 系譜を閉じて、古びた棚の本と本の間へ滑り込ませた。布と布がこすれ合う音が聞こえて、ぴったりとそこに収まった。

「ご両親のことは任せておいて。家に帰って来いと言われて、はい、なんて返事をされたらたまらないから」
「申し訳ありません。ありがとうございます」

 私自身、三人に罵倒され続けたら、私の意思も揺れ動いてしまう。はい帰ります、って言ってしまいそうだから、任せておこう。

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