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「すみません。リル先生。リル先生には長くお世話になって、恩を返したい限りだったのですが、御子息とは結婚できません」

 診察に来てもらったとき、私はリル先生にはっきりそう告げた。もう私は自分のしたくないことはしたくないし、ただ求める方へ流れていきたい。

「それが答えならば、仕方がない。ジャック様はお優しく、賢い人だ。そしてエミリアも、賢く、優しい。君が良い人と出会えてよかった」

 穏やかな表情でリル先生はそう言ってくださったために、心の中に引っかかっていた重い何かが、とれて少し楽になった気がした。

「私が、ジャック様と結婚してもいいのでしょうか。幸せになれますか」
「今の国王は、正妻から生まれた人ではない。元子爵令嬢の人だ。正妻が男の子を産めず、ほとんど一人だけ産んだが、亡くなってしまった。子爵令嬢の子供が王に慣れるのがこの国だ。君がジャック様と結婚したところで、誰も何も言わないよ。君は自分のことをもっと好きになって、自信を持った方がいいよ」

 自信をもって生きる。でも自分のことが好きな人なんてこの世界に何人いるの?私は振り回され続けている自分を好きになれるかしら。

「幸せになることだけ考えなさい」

 そう穏やかに助言をして、リル先生は帰っていった。帰りを、玄関まで見送った時、そこにルーク様が居た。きっとリル先生のことを迎えにやってきたのでしょうね。

「暗い顔をしていますね。どうしたんですか?」
「彼女は、お前とは結婚できないらしい。残念だったな」

 顔を向けられて、私はどんな風な表情をすればいいか分からなかった。断られたことはあるけれど、断ったことなんてなかったから。

「本当に、申し訳ありません」

 下げた頭が上がらなかった。

「謝る必要はないです。あなたほどの聡明な女性ならば、他に結婚してほしいと願う男性もいらっしゃることでしょう。選ぶのはあなたですからね」

 なんだか、少しため息が混じっていた気がした。

「すみません」
「別に謝る必要はありませんよ」

 リル先生は馬車に乗り込む前に、私に振り向き優しく笑った。

「自分を好きになるだけで、幸せになれるよ」

 確かに私は自己肯定感も、自尊心も低すぎている気がする。自分のことを好きにならないといけない気がする。
 人に振り回されて生きるのはもう、やめにしよう。誰にも振り回されないで、ただ自分を信じて生きて行こう。そうしないと私はずっと、人生を嘆き、選択するために悩み、きっといつか、私自身の不幸を、誰かに押し付けてしまうから。
 私が幸せになろうとしていないだけ。
 幸せになることだけ考えよう。
 今から私がやるべきことは、家族と決別して、私自身の幸せを見つける事。
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