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一瞬にして私の頭の中は真っ白になった。
「ち、寵愛?」
「噂を聞いただけですけど、この特別仕様の部屋を見てそれもなんとなく分かった気がします」
確かに、特別待遇だけど、そんな寵愛とか、愛人みたいないい方しなくても。それともそんな誤解がなされて噂が広がってる?
もうぐるぐると頭の中が回って、酷い頭痛がしてきた。
「病人に話す内容じゃなかったですね。忘れて眠ってください。これで私は失礼します」
おもわず私は頭を抱えたままで「待ってください!」と引き留めた。頭痛は酷いし、吐き気までしてきたけど、こんな気持ちの悪い話の終わり方卑怯すぎる。
「そんな勝手に話を持ち出しておいて、勝手に終わらせて、卑怯ですよ。わざわざそんなこと話す必要ありませんでしたよね」
「警告をしたかったんです。妹さんにそこまで酷い扱いをされ、男に騙されでもしたら可哀そうだと、思っただけです」
「騙される?」
眩暈もしてきて目の焦点が合わない。言葉も上手く理解できないし。
「きっとジャック様は貴方の事、遊びぐらいにしか思ってませんよ。だから」
その言葉を理解できないまま、私は気を失うように眠ってしまった。そのあとはよく覚えていない。とにかく私は熱でうなされて、メイドがかわるがわる私の様子を見にやって来て、熱を測って記録して、冷たいタオルをおでこにのせていった。
夕方は漢方を飲んで、野菜のスープを一杯飲んだ。
そうして夜、何時かは分からなかったけれども、誰かが部屋へやってきた。廊下の逆光でシルエットしか分からなかった。
まだ熱がそこまで下がっていなくて、息を大きくしながら、体は力が抜けてだらんとしていた。その人は私の方までやってくると、ベッド近くの椅子へ座って、私のおでこを撫でた。
冷たくて気持ちがいい。
「これじゃあ、母上と一緒だ」
その人は細々としたつぶやくような声で、苦しそうだった。その声があまりにも可哀そうに思えて、私は手を伸ばした。指先は弾力のある筋肉質な頬に触れた。
手を握られて、息が吹きかかるほど顔を近くに感じた。
「本当に君は優しい人間だ。今は静かに眠っていなさい」
またおでこを撫でられて、撫でられているうちに私は眠ってしまったらしい。
いつの間にか朝になっていて、体の怠さも軽くなっていた。頭も昨日より断然すっきりとしている。手を握られている感触がして、そちらを見ると、ベッドにうつぶせになってジャック様が穏やかな寝息を立てて眠っていた。よく見ると目元が赤く腫れている。
まるでエリーゼ様とファミール様が遊び疲れて眠ってしまった時みたいに思えた。
「なんだか、可愛い」
おもわずフワフワとしたジャック様の金髪を撫でた。するとジャック様は目を覚まして、勢いよく起き上がったので驚いた。
「お、おはよう」
「おはようございます」
「具合は?」
「熱も下がったみたいで、調子が良いです」
安堵したようにジャック様の表情から力が抜けていくのが分かった。
「そっか。それならよかった」
「ずっといらしたんですか」
「え、いやいや、朝たまたま通りかかって、起きるのが早かったものだから、二度寝をしてしまったような感じで」
焦って説明されていたけれども、昨日の事を私ははっきりと覚えているので、多分昨日の夜からずっとここに居たのだと思う。
「じゃあ、朝食を持ってこさせるから」
「あの」
「どうした?」
少し恥ずかしかったので、私は最大限ジャック様の方を見ない様にして「手を」とだけ言った。
「すまない。忘れてた」
そうして手を離すと、逃げるようにしてジャック様はこの場からいなくなった。少し面白くて、笑ってしまったけれど、思い起こされるのはルーク様から告げられたこと。
『きっとジャック様は貴方の事遊び位にしか思っていませんよ』
確かにそうなら辻褄が合う。でも、そんな風に全部の事をそうやって、雑に片付けてしまったら、すべてのジャック様の善意に対して申し訳なくて仕方がない。
あれらがすべて遊びからくるものだとは思い難い。それから、昨日聞きそびれた言葉。今ならはっきりと思い出すことができる。あの時ルーク様は
『…だから、私と結婚した方がまだマシです』とそう言ったのだと思う。
「ち、寵愛?」
「噂を聞いただけですけど、この特別仕様の部屋を見てそれもなんとなく分かった気がします」
確かに、特別待遇だけど、そんな寵愛とか、愛人みたいないい方しなくても。それともそんな誤解がなされて噂が広がってる?
もうぐるぐると頭の中が回って、酷い頭痛がしてきた。
「病人に話す内容じゃなかったですね。忘れて眠ってください。これで私は失礼します」
おもわず私は頭を抱えたままで「待ってください!」と引き留めた。頭痛は酷いし、吐き気までしてきたけど、こんな気持ちの悪い話の終わり方卑怯すぎる。
「そんな勝手に話を持ち出しておいて、勝手に終わらせて、卑怯ですよ。わざわざそんなこと話す必要ありませんでしたよね」
「警告をしたかったんです。妹さんにそこまで酷い扱いをされ、男に騙されでもしたら可哀そうだと、思っただけです」
「騙される?」
眩暈もしてきて目の焦点が合わない。言葉も上手く理解できないし。
「きっとジャック様は貴方の事、遊びぐらいにしか思ってませんよ。だから」
その言葉を理解できないまま、私は気を失うように眠ってしまった。そのあとはよく覚えていない。とにかく私は熱でうなされて、メイドがかわるがわる私の様子を見にやって来て、熱を測って記録して、冷たいタオルをおでこにのせていった。
夕方は漢方を飲んで、野菜のスープを一杯飲んだ。
そうして夜、何時かは分からなかったけれども、誰かが部屋へやってきた。廊下の逆光でシルエットしか分からなかった。
まだ熱がそこまで下がっていなくて、息を大きくしながら、体は力が抜けてだらんとしていた。その人は私の方までやってくると、ベッド近くの椅子へ座って、私のおでこを撫でた。
冷たくて気持ちがいい。
「これじゃあ、母上と一緒だ」
その人は細々としたつぶやくような声で、苦しそうだった。その声があまりにも可哀そうに思えて、私は手を伸ばした。指先は弾力のある筋肉質な頬に触れた。
手を握られて、息が吹きかかるほど顔を近くに感じた。
「本当に君は優しい人間だ。今は静かに眠っていなさい」
またおでこを撫でられて、撫でられているうちに私は眠ってしまったらしい。
いつの間にか朝になっていて、体の怠さも軽くなっていた。頭も昨日より断然すっきりとしている。手を握られている感触がして、そちらを見ると、ベッドにうつぶせになってジャック様が穏やかな寝息を立てて眠っていた。よく見ると目元が赤く腫れている。
まるでエリーゼ様とファミール様が遊び疲れて眠ってしまった時みたいに思えた。
「なんだか、可愛い」
おもわずフワフワとしたジャック様の金髪を撫でた。するとジャック様は目を覚まして、勢いよく起き上がったので驚いた。
「お、おはよう」
「おはようございます」
「具合は?」
「熱も下がったみたいで、調子が良いです」
安堵したようにジャック様の表情から力が抜けていくのが分かった。
「そっか。それならよかった」
「ずっといらしたんですか」
「え、いやいや、朝たまたま通りかかって、起きるのが早かったものだから、二度寝をしてしまったような感じで」
焦って説明されていたけれども、昨日の事を私ははっきりと覚えているので、多分昨日の夜からずっとここに居たのだと思う。
「じゃあ、朝食を持ってこさせるから」
「あの」
「どうした?」
少し恥ずかしかったので、私は最大限ジャック様の方を見ない様にして「手を」とだけ言った。
「すまない。忘れてた」
そうして手を離すと、逃げるようにしてジャック様はこの場からいなくなった。少し面白くて、笑ってしまったけれど、思い起こされるのはルーク様から告げられたこと。
『きっとジャック様は貴方の事遊び位にしか思っていませんよ』
確かにそうなら辻褄が合う。でも、そんな風に全部の事をそうやって、雑に片付けてしまったら、すべてのジャック様の善意に対して申し訳なくて仕方がない。
あれらがすべて遊びからくるものだとは思い難い。それから、昨日聞きそびれた言葉。今ならはっきりと思い出すことができる。あの時ルーク様は
『…だから、私と結婚した方がまだマシです』とそう言ったのだと思う。
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