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「では今日はリビア語を学んでいきましょう。この国ではリビア語は公用語と言うほどに普及しているわけではありませんが、リビア語の書籍は数多くあります。貴族であれば特に必要な第二言語です」
二人にリビア語で書かれた絵本を見せた。簡単なストーリーを私が朗読していけば自然と耳に入るはずだと思ったのだけれども、二人は絵本よりも私の顔の方が気になるよう。
「なんか、顔色悪くない?」
「くまがあるからじゃない?」
「実は、夜中まで本を読んでいたら寝不足になりました」
「寝不足は女の敵よ!夜九時には寝なさい。肌が荒れるんだから!」
もちもちとしたほっぺたを動かしながら、エリーゼ様は心配してくださった。こんなに小さいというのにすでにお肌の知識があるとは、と感心した。
「はい、寝不足にならないよう気を付けます。ではこの本を読んでいきますね。簡単な単語を覚えていきましょう」
絵本を開いて読み進め、二人の意欲感心をそぐことなくいくつかの単語を覚えさせることができたかもしれない。今日から夜はリビア語の絵本を読むことになりそう。
どうにか三時間の勉強タイムが終わって、二人は元気よく外へ駆け出して行った。私は教材を小脇に抱えて、目をこすりながら自室へと戻ろうと歩いているところだった。
「息子と何かあったのかな?」
ニヤニヤとしながら当主がやってきたので、私は目を丸くした。持っていた教材をバサバサと床へ落して、深々と頭を下げた。
「そ、その、そういうやましいことをしていたとか、そういうわけではなく、いたって健全な雇い主と、労働者の関係です!」
「逆に怪しい」
そ、そうですよねぇ。穴があったら入りたい…でも本当に何もないんです…
「朝四時に息子の部屋から近しい女性が出てきたら驚くだろう」
「申し訳ありません!」
実は昨晩、ジャック様の部屋でジャック様の肩をマッサージした後、とんでもないことが発覚し、私は朝四時にジャック様の部屋から出て当主様と出会うことになった。
昨日の夜に遡る。ジャック様の岩みたいな肩をもみほぐした後のことだった。大きく肩を回しながら、ベッドへ視線を向けた。
「よし、やるか」
「え!?な、なにを」
心臓が今までにないぐらいバクバクと鳴って、頭の中が真っ白になった。でもジャック様はベッドに置かれていた何十枚もの紙を持ち上げて、大きなため息を吐いた。
「リビアから送られてきた文書。三十枚」
「それが、なにか?」
「これを今から翻訳しないと、いけない」
「今からですか!?五十枚も?」
翻訳者だって辞書を引きながらするというのに、一晩でそんなことできるはずがない。それも一人で?私だってリビア語の本読むのは何となくで読んでるのに?
「それ、今しなければいけないのですか?」
「明日の会議までに、作らないといけないから。ありがとう、肩揉んでくれただけで助かったよ。今日は休んで」
そう言われて私は紅茶を銀トレーへ乗せて、部屋から出て行こうと思った。でもそんなことできない。
「お手伝いいたします」
「大丈夫だよ」
「二人でやれば早く終わります。私、翻訳には自信あるので」
そうして私は昨晩ジャック様の寝室でひたすら翻訳することになり、一晩中紙と辞書を睨めっこさせた。そしてあと五枚となった四時、もう少しで終わるからと、返してくれた。その部屋を出た際、当主様と出くわした。
「それなら、感謝しなければいけないね」
「いえ、そんな。翻訳は私の得意分野ですから。役に立てたのならばよかったです」
どうにか誤解を解くことができ、この職場での業務も安定したままのようだ。それにしてもジャック様はあの翻訳きちんと終わったのだろうか。五枚と言ってもかなり複雑で難解な言い回しも多かった気がする。
その後自室で仮眠をとり、午後夏の日差しの中で湖へ行きボートに乗ったりしてエリーゼ様と、ファミール様と遊んだ。一時は変な誤解を招いてどうなることかと思ったけれども、今日も一日どうにか乗り切ることができたみたいでよかった。
こんな日々がずっと続くことを願って。
風呂へ入って自室へ戻ると、扉のまっすぐ向かいに、一着のドレスが、マネキンに装着され置かれていた。しかも宝石がちりばめられ、何重にも布が重なった美しい青色のドレス。
「綺麗」
でもなぜこんな美しいドレスが私の部屋へあるのかしら。手配ミス?
でもそれは手配ミスでは無かった。ドレスの胸の部分に一枚のメッセージカードが差し込まれていたから。カードを取って読んで、目を丸くした。
『手伝ってくださった御礼です。舞踏会用のドレスは持っていなかったようですから』
二人にリビア語で書かれた絵本を見せた。簡単なストーリーを私が朗読していけば自然と耳に入るはずだと思ったのだけれども、二人は絵本よりも私の顔の方が気になるよう。
「なんか、顔色悪くない?」
「くまがあるからじゃない?」
「実は、夜中まで本を読んでいたら寝不足になりました」
「寝不足は女の敵よ!夜九時には寝なさい。肌が荒れるんだから!」
もちもちとしたほっぺたを動かしながら、エリーゼ様は心配してくださった。こんなに小さいというのにすでにお肌の知識があるとは、と感心した。
「はい、寝不足にならないよう気を付けます。ではこの本を読んでいきますね。簡単な単語を覚えていきましょう」
絵本を開いて読み進め、二人の意欲感心をそぐことなくいくつかの単語を覚えさせることができたかもしれない。今日から夜はリビア語の絵本を読むことになりそう。
どうにか三時間の勉強タイムが終わって、二人は元気よく外へ駆け出して行った。私は教材を小脇に抱えて、目をこすりながら自室へと戻ろうと歩いているところだった。
「息子と何かあったのかな?」
ニヤニヤとしながら当主がやってきたので、私は目を丸くした。持っていた教材をバサバサと床へ落して、深々と頭を下げた。
「そ、その、そういうやましいことをしていたとか、そういうわけではなく、いたって健全な雇い主と、労働者の関係です!」
「逆に怪しい」
そ、そうですよねぇ。穴があったら入りたい…でも本当に何もないんです…
「朝四時に息子の部屋から近しい女性が出てきたら驚くだろう」
「申し訳ありません!」
実は昨晩、ジャック様の部屋でジャック様の肩をマッサージした後、とんでもないことが発覚し、私は朝四時にジャック様の部屋から出て当主様と出会うことになった。
昨日の夜に遡る。ジャック様の岩みたいな肩をもみほぐした後のことだった。大きく肩を回しながら、ベッドへ視線を向けた。
「よし、やるか」
「え!?な、なにを」
心臓が今までにないぐらいバクバクと鳴って、頭の中が真っ白になった。でもジャック様はベッドに置かれていた何十枚もの紙を持ち上げて、大きなため息を吐いた。
「リビアから送られてきた文書。三十枚」
「それが、なにか?」
「これを今から翻訳しないと、いけない」
「今からですか!?五十枚も?」
翻訳者だって辞書を引きながらするというのに、一晩でそんなことできるはずがない。それも一人で?私だってリビア語の本読むのは何となくで読んでるのに?
「それ、今しなければいけないのですか?」
「明日の会議までに、作らないといけないから。ありがとう、肩揉んでくれただけで助かったよ。今日は休んで」
そう言われて私は紅茶を銀トレーへ乗せて、部屋から出て行こうと思った。でもそんなことできない。
「お手伝いいたします」
「大丈夫だよ」
「二人でやれば早く終わります。私、翻訳には自信あるので」
そうして私は昨晩ジャック様の寝室でひたすら翻訳することになり、一晩中紙と辞書を睨めっこさせた。そしてあと五枚となった四時、もう少しで終わるからと、返してくれた。その部屋を出た際、当主様と出くわした。
「それなら、感謝しなければいけないね」
「いえ、そんな。翻訳は私の得意分野ですから。役に立てたのならばよかったです」
どうにか誤解を解くことができ、この職場での業務も安定したままのようだ。それにしてもジャック様はあの翻訳きちんと終わったのだろうか。五枚と言ってもかなり複雑で難解な言い回しも多かった気がする。
その後自室で仮眠をとり、午後夏の日差しの中で湖へ行きボートに乗ったりしてエリーゼ様と、ファミール様と遊んだ。一時は変な誤解を招いてどうなることかと思ったけれども、今日も一日どうにか乗り切ることができたみたいでよかった。
こんな日々がずっと続くことを願って。
風呂へ入って自室へ戻ると、扉のまっすぐ向かいに、一着のドレスが、マネキンに装着され置かれていた。しかも宝石がちりばめられ、何重にも布が重なった美しい青色のドレス。
「綺麗」
でもなぜこんな美しいドレスが私の部屋へあるのかしら。手配ミス?
でもそれは手配ミスでは無かった。ドレスの胸の部分に一枚のメッセージカードが差し込まれていたから。カードを取って読んで、目を丸くした。
『手伝ってくださった御礼です。舞踏会用のドレスは持っていなかったようですから』
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