上 下
40 / 49

40.もういらない

しおりを挟む
「ソフィア様は想像力が豊かですね。さすが、小説家だ。私も読みましたが、知的な表現が随所にちりばめられていました。ストーリーはあまり好みではありませんでしたが、私はおじさんですからな。ご容赦頂きたい」

「さすがソフィアだ。やはりソフィアは王妃にふさわしい。ミランダよりかわいいし、頭も良い」

「違う! 違います! 私はストーリーを考えただけです!」

「何を言っている? あれはソフィアの本だろう?」

「文章はほとんど直されました! 私に王妃なんて無理です!」

「……なんだと?」

 アルフレッドは顔を歪ませ、ソフィアを突き飛ばした。

「きゃ……」

「殿下、なにをなさいます? 大事な方でしょう?」

「もういらん」

「は?」

「もういらんと言ったのだ。アレが偽物なら、母上はお前を認めない。だからいらん。おいお前たち、そいつは放っておいていいからついてこい。仕方ないから、ミランダで妥協してやる。父上もミランダを連れてくれば認めて下さる。あの家の真珠を根こそぎ奪って父上に献上しよう」

 アルフレッドは澄んだ目で影達に微笑んだ。

「さあ行くぞ。ついてこい」

 誰かに危害を加えない限りアルフレッドの行動を止めないようにとエドガーから指示されていた影達は、黙ってアルフレッドに付き従った。
 背筋に寒いものを抱えながら。

* * * 

 青い顔をしたトムが、ミランダとヒースの元へ駈け込んで来た。

「トム、どうしたの?」

「あの王太子、領地に馬車を走らせやがった。ミランダを狙っている。ここに来る事はないだろうが、しばらく出ないように気を付けておいてくれ。すぐ、回収されるだろうから」

「そうか。思ったより早かったな。なぁトム、その話は誰から聞いた?」

 一瞬だけ迷ったトムの表情を、付き合いが長いヒースは見逃さなかった。

「その顔、やはりか。トム、伝言を頼んでいいか?」

「……はい」

「言えない事は聞かない。あの時言った言葉は一生有効だと伝えてくれ」

「かしこまりました」

 ヒースはトムに伝言を頼むと、静かに部屋を出て行った。

「トムが急に公爵家の養子になって、あっさりわたくしと婚約が整った理由は、シャーリー様達が味方になってくれたからだけじゃないわよね?」

「ああ、そうだ」

 トムがエドガーと接触したと知っている者はごくわずか。ミランダはもちろん、バーナード侯爵家の者たちは誰も知らない。影の技術は、当主が認めた子のみ伝承される。トムが子爵になり、家を興したとしても妻であるミランダに影のことを明かすことは許されない。

「理由は、言えないのでしょう?」

「……ああ。一生言えない」

「そう。ならわたくしも一生聞かないわ。だから、そんな顔しないで」

「ミランダ……」

「トムは、わたくしが好き?」

「当たり前だろ!」

「そうよね。わたくしもトムが好き。隠し事なんて、みんなあるわ。特に貴族はそう。わたくし、もう我慢するのはやめたの。トムが嫌だって言っても、もう離れてあげないわ」

「離れるわけ、ないだろ。ミランダが嫌だって言っても、一生離してやんねぇよ」

「あら素敵。わたくしたち、両想いね」

 ミランダがトムの手を握る。トムの顔は、トマトのように真っ赤だ。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの! 私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。

どうやら我が家は国に必要ないということで、勝手に独立させてもらいますわ~婚約破棄から始める国づくり~

榎夜
恋愛
急に婚約者の王太子様から婚約破棄されましたが、つまり我が家は必要ない、ということでいいんですのよね?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...