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35.ミランダの価値

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「……そうか、トムは気付いていたのか。ミランダが既に、王家の秘密を知っていると」

「知っていましたよ! だから、腹が立つのです! あの夜会は、賭けでした。ミランダが堂々と王家の秘密を知らないと言った時、表情が変わった貴族はいなかった。国王も、アルフレッド殿下もエドガー様も変わらなかった」

「ミランダに王家の秘密を教えたと王妃が呟いたのは、あのあとだからな」

「王妃が起きていたら秘密を知るミランダを無理やり王家に縛り付けるのは目に見えていた。だから、王妃を眠り針で気絶させました。国王は王妃が第一だから、邪魔をさせないためでもありました」

「そうか」

「……王族に危害を加えた俺を、処罰しますか?」

「しない。ここだけの話にしておく。私が気付かなかったのだから、兄上も気付いていないだろう。このことを知っているのは?」

「エドガー様だけです。ミランダにも、バーナード侯爵家の方々にも言っていません」

「なぜ、急に自分の罪を告白した?」

「ミランダを守るためです」

「だったら、言わない方が良かっただろう。トムはもう、ミランダと婚約しているのだから」

「だからですよ。ミランダが知る王家の秘密は、露見しても困るものではないそうですね。王族に嫁ぐ者を試す秘密だとか。本当は結婚十日前に教えられるものを勝手に教えたのは王妃だと聞いています。試験用とはいえ、王家の秘密を知るミランダを野放しにはできない」

「王妃はよほど、ミランダを手放したくなかったのだろうね」

「勝手だと思います。俺は、王族が大嫌いだ」

「おやおや、王族の前で不敬だね」

「不敬にはしないから言いたい事を言えと言ったのは貴方でしょう。エドガー様は嫌いではありませんよ。ミランダを助けて下さっていたのも、知っていますし」

「見られていたか」

「ええ。何度か。だから迷わず、ここに来ました。勝手に城に侵入していたことは謝ります。これは、使った眠り針です。後遺症などは出ないと思いますが、存分に調べて頂いて構いません。俺が使ったのは一回だけです」

「分かった。トムを手放す気はないけど、これっきりにして。今後は事前に相談する事」

「承知しました」

「それで、話は戻るけど、なんで今報告したの? 針の提出までして」

「今回、俺は失敗しました。俺がなにも報告しなくても、エドガー様ならいずれ俺の罪に気付くかもしれない。失敗した上に、報告すらしない部下はいらないでしょう? だけど、俺が正直に言えば、許されるかもしれない。許されなくても、ミランダは守ってもらえる」

「処刑される覚悟はあった?」

「ありました。でも、可能性は低いと考えていました。ニコラス様に見つかったのは俺の失敗ですが、挽回は出来たかなと。まだ俺には利用価値がある。ミランダにもある。貴方が俺を要らないと言っても、正直に言えば確実にミランダの命は守れる」

「計算高いね。その読みは当たっているよ。君を正式な部下にする日を楽しみにしている」

「俺も、早くそんな日が早く来ると良いなと思っています」

 次の日、ヒースの手紙がエドガーの元に届いた。手紙を読んだエドガーはクスリと笑うと、手にした手紙を暖炉に放り込んだ。
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