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2.王妃とお茶会

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 ミランダは辛い気持ちを隠し、王妃とのお茶会に臨んだ。

 雑談をしながら、王妃の機嫌をとる。ミランダがいつもやっている事だが、今日はミランダの負担が大きい。侍女達はミランダの不調に気付いており、2杯目は密かに彼女の好きなハーブティーを用意した。

 王妃が好む濃いめの紅茶は、ミランダの胃に負担がかかると考えたからだ。侍女達はいつも王妃に気付かれないように、ミランダを癒そうとしていた。

 無茶を言わず、滅多に怒らないミランダの侍女は大人気なので仕事は交代制だ。ミランダに特定の侍女はいない。それなのに、ミランダは侍女達の名前を覚えている。それがまた、侍女たちの心に刺さるのだ。

 さりげない気遣いを感じ取ったミランダは、茶の件には触れず侍女の名を呼び礼を言った。

 王妃はミランダの礼儀正しさを気に入っているが、侍女にまで優しくする必要はないと思っている。彼女は自分の専属侍女数名の名しか覚えていない。

「相変わらず丁寧ね。侍女にそこまでしなくて良いのに」

「侍女達のおかげで、快適に過ごせておりますから。そうだ王妃様にお願いがあるのです」

「なにかしら?」

「今夜の晩餐が終わってから一度実家に戻ってもよろしいでしょうか? 殿下の書類に急ぎのものはありませんでしたからひと月ほどは問題ないかと。実は、王妃様が推薦して下さったソフィア嬢の件で父と直接話をしたいのです」

「良いわよ。ミランダはいつも頑張ってくれているもの。それに、ソフィア嬢はぜひミランダの侍女に欲しいわ」

「王妃様のご意向を父に伝えておきます」

「そうね、そうしてちょうだい。ソフィア嬢を城に入れるのは、わたくしの願いだと伝えて。今日の晩餐は出なくて良いわ。すぐ帰ってお父上と話をしてちょうだい」

「かしこまりました。わたくしはソフィア嬢を存じ上げないのですが、どのようなお方なのですか?」

 声が強張りそうになったミランダだったが、王妃教育で培ったポーカーフェイスを駆使して乗り切った。

「ソフィアは無邪気で可愛らしいわ。あの子は側妃に向いてるわね」

「……側妃でございますか?」

「王妃の侍女が王に見初められて側妃になるなんてよくあることよ。側妃なら負担もないし、ソフィアならアルフレッドを癒してくれるわ」

 側妃候補を王太子妃の侍女にするなんて前例がない。王妃は嫉妬深く、側妃を許さなかったというのに非常識だ。だいたい、側妃は王妃に子が産まれなかった時のみ許可されるのではなかったか? 特に酷いのは最後の一言だ。まるでミランダ様が王太子を癒せないと言っているようなものではないか。

 控えていた侍女達は、内心呆れ返っていた。

 王妃のやる事全てにイエスと答えてきたミランダも、初めて王妃に疑問をもった。いつも仕事をしない息子を諌めながら、共に執務をしていた王妃はなんだったんだろう。

 メッキが剥がれるように、王妃の粗に気付くミランダ。

 王妃が進んでやる仕事は表に出る華やかなものばかりで、面倒な仕事は全て自分に押し付けられていなかったか?

 王妃は決裁が早いと尊敬していたが、よくよく思い出すと書類を読んで意見を言っていたのは全て自分ではなかったか?

 意見を聞いてくれる優しい人だと思っていた王妃は、単に自分を利用していただけではないか? 思い出すと、王妃に執務を教えてもらった記憶がない。文官達に邪魔者扱いされながら、独学で学んだミランダの知識を王妃は吸い取っていただけなのではないか?

 いつも通り微笑むミランダの目は、スウっと冷めていった。

 ミランダを無視して、王妃はソフィアを賞賛し続けた。わたくしは滅多に褒められないのに、なにもしていない令嬢はこんなにも褒められるのか。ミランダの心がどんどん冷えて、無表情になっていく。ようやく王妃はミランダの変化に気付き、慌ててミランダをフォローした。

「あの子が公爵令嬢なら、正妃にしたのだけれど男爵令嬢なら側妃がせいぜいでしょう。ミランダは王妃に相応しいわ。堂々としていてちょうだい」

「はい……かしこまりました」

 王妃の言葉は、全くフォローになってないどころかミランダを侮辱している。だが、微笑んだミランダに安心した王妃は気付かなかった。

「また帰ってきたらお茶しましょうね。ソフィアと一緒に。優秀なミランダとソフィアがアルフレッドを支えてくれれば安心だわ」

 ミランダは返事をせず、優雅に微笑んだ。
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