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第九話

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侍女を下がらせて、ふたりだけになった部屋でフォスは俯いたままのイオスに笑顔で話しかける。

「唯一大事にしていた子に殺されかけた気分はどう? その子を焼き尽くした気分も聞きたいなぁ」

「最低な気分だよ。なぁ、セーラの国が滅んだのも兄貴のせいか?」

僅かに顔を上げたイオスは、涙の跡があり、目が赤い。余程泣いたんだろう。フォスはますます嬉しくなった。

「もう隠す意味はないし教えてあげる。反乱軍に情報や武器、お金を提供したのは僕だよ。お馬鹿なセーラちゃんはイオスのせいだって思ったまま死んだのかな」

イオスの身体から、炎が上がる。なんとかイオスが炎を抑えようとする姿を、フォスは嬉しそうに眺めていた。

「なんで、なんでそんな事したんだよ。セーラは兄貴に何もしてねぇだろ!」

「だからだよ。僕もセーラが好きだったんだよ? だけどセーラはイオスしか見てなかった。もう顔も見たくないから、国内を荒らしてセーラを後宮に閉じ込めようとしたのに、イオスが助けちゃうんだもの。父上もイオスとセーラが想いあってるからってあっさり婚約を認めようとするしさ。時間を稼ぐ為にイオスに仕事を回すように進言して、急いで反乱軍に攻めるよう指示して、武器やお金を回して、父上が援軍を出すって言うから軍の編成してる間に、僕が先行して様子を見に行くって言って全部壊したんだ。色々おかしいと思ってたでしよ? イオスの手紙を止めたのも僕だよ。中身は読まなかったけど、愛の言葉でも書いてあったのかなぁ?」

「クソ兄貴」

「ふふっ、抜け殻になってるイオスは最高だったよ。セーラを探す為に継承権を放棄しようとしてたのも狙い通り。なのに父上は認めないなんてあんな大勢の前で宣言しちゃうから……もうイオスを殺すしかないよね。セーラが望めばあっさり殺されてくれると思ってたのになぁ。セーラだと分かれば、イオスは絶対手を出せないから、覆面なんて与えずに暗殺させれば良かったかなぁ」

「もう黙れよ」

「本当はセーラを僕の妻にしてイオスを絶望させようと思ってたんだけど、セーラは僕の言葉を信じてイオスを恨んでるくせに、イオスが好きみたいでね。ずーっとイオスの名前ばっかり呟いてたんだ。さすがの僕でも、他の男の名前しか呼ばない女は抱けないからね。もう良いやと思って、イオスを殺すか、イオスに殺される駒になって貰う事にしたんだ。残念だよ。僕の愛を受け止めれば、セーラは幸せになれたのにね。ま、僕を信用はしてくれたみたいだから、殺さないでおいてあげたんだ。なのに、イオスがあっさり殺しちゃうんだもんなぁ。それ、セーラの髪の毛でしょ? あとは全部消し炭にしちゃったんだって? あーあ、可哀想なセーラちゃん」

「黙れって言ってんだろ! これ以上セーラを侮辱すんな!」

「ふふっ、どれだけ泣いてもセーラはもういない。もうイオスの大事なものはないよね。生きてるのも辛いでしょ。僕が殺してあげるよ?」

「兄貴に殺されるのだけはごめんだ」

「そう、ここでやり合ってたらすぐ騒ぎになるからね。今日は退散するよ。だけど……皇帝になるのは僕だ」

「そんなに皇帝になるのが大事かよ」

「ああ、皇帝になれば僕を最優先しない人はみんな処刑するんだ。母上と父上、イオスとセーラ。愛しあってるのは良いけど、みんな僕をいちばんに見てくれないんだもの。イオス、安心してね。僕が皇帝になったらすぐにセーラの元に送ってあげる」

そう言ってフォスは、歪んだ笑みを浮かべてイオスの部屋を出て行った。

「上等だ。だったら兄貴が皇帝になるのだけは阻止してやるよ」

イオスは急いで鍵をかけて、部屋に誰も入らないように炎の幕を作成してから、セーラの元に向かった。
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