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第五話

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「よぉ、昼飯持ってきたぞ」

美味しそうな匂いのシチューと、白いパンを持ったイオスが、笑顔で部屋に入ってくる。セーラは、床に座り込んだまま動かない。

「……ねぇ、なんで私は閉じこめられてるの?」

昼食をテーブルに置いて、床に座り込むセーラを抱き抱えベッドに寝かせながら、イオスが言った。

「部屋出たのか」

「うん」

「今はここから出せない。もうセーラを危険な目にあわせたくないんだ」

つらそうな顔をしたイオスに、セーラは更に質問を畳みかける。

「そう。イオスの侍従ってフランツって名前?」

「確かにオレの侍従はフランツだ。階段まで来れば部屋の会話は聞こえるからな、さっきの会話が聞こえたのか? でも、さっきはフランツの名前は呼んでねぇよな?」

「……私に暗殺技術を教えたのは、フランツ先生だよ」

イオスの身体から、僅かに炎が漏れる。

「へぇ、アイツそんな事もしてやがったのか。なぁ、もし良かったらセーラが居なくなってからの事教えてくれ」

「……」

「悪りぃ、急すぎたよな。ひとまずメシにしようぜ。セーラ、シチュー好きだったろ?」

そう言いながらシチューをよそおうとしたイオスだが、スプーンを落としてしまう。イオスの手は、僅かに震えていた。

「イオス?! 手、震えてる。顔色も悪いし、もしかして私のナイフにあった毒?!」

「……問題ねぇよ。毒なんて毎日仕掛けられてんだから」

「毎日?! どういうことよ!」

「しばらくすりゃあ慣れる。あの後すぐ毒は抜いたから、こんくらいなら死なねぇよ。遅効性な辺り嫌らしい毒だけどな。セーラは毒に触ってねえよな?」

「う、うん」

「良かった。万が一、オレが死んだら隠し通路が暖炉の中にあるから、街に逃げな。本棚に赤い本あんだろ? あの中に脱出方法が書いてある。ぜってぇに兄貴には見つかるなよ。クローゼットに庶民の服もあるし、金も少し置いてあるから、好きに持って行ってくれ。一応、鍵もオレの懐にあるけど、城は兄貴の目があるからオススメしない。セーラが兄貴のとこに行きたいなら構わねぇけど、命が危ないと思うから出来るなら街……街に逃げてくれ……」

「分かった! 分かったから! それより休んで! 解毒剤とかないわけ?!」

イオスの顔色はみるみる悪くなり、身体中から汗が噴き出ていた。

「ねぇなぁ……」

「あ、私持ってる! 先生にもらったやつ!」

懐から取り出した薬を受け取ったイオスは、少し舌で舐めるとすぐに薬を焼き払った。

「なっ……何すんのよ!」

「セーラ、この薬飲んだりしてねぇよな?」

「う、うん」

「誰にも渡してねぇか?」

「うん、貰ったの昨日だから。解毒剤だから、イオスから毒を受けたら飲めって言われてた」

「……コレは、猛毒だ。オレが舐めただけでこんだけ苦しいんだから、セーラが飲んだら即死だ。すぐ全部渡せ」

「え、うそ! こ、コレで全部!」

イオスは即座に全ての毒を焼き払った。

「オレを信用できねぇだろうけど、この様子を見てたら、あの薬が解毒剤とは思わねぇんじゃねぇか?」

「イオス! イオス!」

そう言って見せたイオスの舌は爛れており、ますます顔色が悪くなっている。

「なんで! 私また騙されたの?! ごめん! ごめんなさいイオス……」

「……大……丈夫……オレは死なねぇよ……約束だからな……」
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