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なんの日かご存知?
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「エミリー・ド・カーライト! この私、デヴィッド・スチュワート・ヨークと貴様との婚約を今この場で破棄する!」
あらあら?
このような大切な夜会の場で婚約破棄を宣言なさるなんて。デヴィッド様はどうなさったのかしら?
「デヴィ? 急にどうしたの? 久しぶりに会う私へのサプライズにしてはあまり面白くないわよ?」
「黙れ黙れ! 貴様にデヴィなどと呼ばれるのはもうウンザリだ! 貴様、私の可愛いジェシカへの数々の狼藉は許されない!」
「ジェシカ? それはどなた?」
「知らないわけないだろ! 貴様が毎日学園でいじめている特待生の少女だ! 特待生として将来を約束されている彼女に嫉妬して、靴を隠すわ、制服を破くわ、水をかけるは、ついには階段から突き落とそうとするとは! このような乱暴な女と結婚などありえん! 貴様の有責で婚約破棄を申し渡す! 撤回は神に誓ってない!」
「神に誓うというのね。分かったわ。私も神に誓いましょう。私は嫌がらせなどといった、低俗な事はしておりませんわ。そもそも、ジェシカ様など存じません。ですが神に誓うほど婚約がお嫌のようですので、私、エミリー・ド・カートライトは、デヴィッド・スチュワート・ヨークとの婚約をヨーク家有責で破棄し、ヨーク家の方、ヨーク家と繋がりのある方へ便宜を図りませんし、お会いしませんわ」
ああもう! 神に誓っちゃったら撤回はあり得ないじゃないっっ!!!
どうしよう、エミリー様がもうこの国来ないとか言い出したら結構まずいんですけど!!!
「ふん! 貴様は既に家からも見捨てられているからな! 会う意味も無い! 貴様は終わりだ!」
いやいやいや! 終わったのはヨーク家だろ!
そもそもエミリー様の方が爵位も地位も立場も頭の良さも、剣の腕も全て上なのに、なんでこんなことしたんだろ? エミリー様に勝ってるとこなんて頭の悪さだけじゃない! そのせいでこの国終わるかも。
エミリー様が学園で嫌がらせなんてするわけない。だって
「それではみなさま、ごきげんよう」
「きさま! 逃げるのか!!」
「いいえ? 私は自分の屋敷へ帰るのですわ」
「貴様の帰る家などない! カーライト子爵にはもう通達してある! うちに娘など居ないと言っていたぞ! すでに家にも見捨てられているとは笑わせる! まあ、家が庇っても関係ないがな! なにせ、うちは伯爵家だからな!」
「私は、この国のカーライト子爵家とは関係ありませんよ?」
「何を言う! 貴様は、カーライト子爵の娘だろう! ジェシカは伯爵家の養女だ! 貴様より上の立場だぞ!!」
「あの? 私は隣国のカートライト公爵の娘ですが? まさか、婚約者の家を間違えておられたのですか?」
「そんなわけあるか! なぜ隣国の公爵家が私と婚約するのだ!!!」
「それは私がデヴィに、いや、デヴィッド・スチュワート・ヨーク様に一目惚れしたからですわ。最初にお会いした時にご説明させて頂きましたわよね? 歓迎していただいていたし、仲良くやっていましたよね。最近は、会いに行ってもほとんどご不在でしたので、寂しかったですわ。移動に時間もかかりますし、一か月に一度しか会えませんしね。まさか、嫌われていたなんて申し訳ございません。学園にも通ってなどおりませんから、足を踏み入れたこともないのに、イジメの犯人にされるとは思いませんでした。調べもしなかったのですね。もう2度とお会いいたしませんし、私はもうデヴィッド様とは無関係ですわ。婚約にあたって支援させていただいたわたくしの商会は、今の場所からは撤退いたします。それでは、皆様いままでありがとうございました」
ああああ! あのバカ!
エミリー様めっちゃいい笑顔だけどすごく怒ってる! 扇子こわれそうだもん!!
エミリー様は普段は隣国にお住まいだが、デヴィッド様が大好きで、しょっちゅう会いに来る。だから学園に居るって勘違いしちゃったの?!
いやいや、しないでしょ! エミリー様飛び級で隣国の最高峰の学校卒業してるし。公爵家の一人娘ながらものすごい商才があって、あちこちで商会を運営してて忙しいのに、月一で会いに来るってめっちゃ愛されてるじゃん!
エミリー様がヨーク家に作った商会は、かなりうちの領地の品を扱ってもらえてたのに! この国から撤退とかあり得そうで怖い。
ここ5年くらいは、お二人の婚約が整った事で国内の商業は発展していた。それも全部なくなってしまう。エミリー様は残るも自由と言うけど、あの商会の従業員はほとんどこの国の孤児だ。溢れていた孤児に仕事を与える為エミリー様が作ったのだ。婚約者のいる国が豊かになるようにと。だけど家のしがらみもなく、エミリー様への恩がある従業員は、ほぼ彼女について行くだろう。
エミリー様がデヴィッド様に一目惚れしたと婚約が整ったあとは、国王が小躍りしたとまことしやかにささやかれている。隣国は、我が国の5倍の国土を抱え、豊かだ。戦争などは好まないお国柄だが、降りかかる火の粉は3倍にして返すと有名だ。そもそも、経済力も軍事力も高く、どこも戦を仕掛けないし火の粉が降りかからないように気を使っている。そのなかでも筆頭公爵家のエミリー様はとても人気も実力もある。跡継ぎの次期公爵であるお兄様にも可愛がられており、エミリー様にケンカを売れる人はこの国には存在しない。はずなんだけどっ!
エミリー様はデヴィッド様にとても尽くしていたと思う。私はあんなに婚約者に尽くせないよ。まぁ、あんなことできる財力がないけどさ。それなのに、デヴィッド様はエミリー様との婚約が決まったら急にモテ出したから調子に乗り始めた。でも近づいてる女みんな愛人狙いだよね? エミリー様居ないとモテないと思うんだけど? ってか愛人狙いの子たちってみんなエミリー様のファンじゃなかった?!
あれ? でもジェシカ様って婚約者いたよね? 愛人狙いのわけないし、そもそもあんなに……
「そういえば、デヴィッド様のおっしゃるジェシカ様はどちらにいらっしゃるの?」
「貴様! やはりジェシカを虐めるつもりか!!」
いやもう黙ろうよ。デヴィッド様。
「恐れながら申し上げます! ジェシカ・ホワイトと申します。私はたしかにヨーク様のおっしゃるような嫌がらせを学園で受けましたが、その犯人は私も存じません。少なくとも、学園にいらっしゃらないエミリー様とは思っておりませんでした。また、ヨーク様とは学園でご挨拶をすることはございましたが、個人的にお話をさせていただいた事はございません」
「なっ!」
「そうですか。場合によっては貴方とも二度とお会いしないようにと思っておりましたが、必要なさそうですわね」
「もちろんです! 神に誓って学園内で起きた事はエミリー様は無関係と思っております。また、ヨーク様とはご挨拶以外でお話しした事はごさいませんわ。ホワイト家は、エミリー様と敵対する意思はございません」
「なっ! 何を言ってるんだ! 靴を隠した後も、制服が破いた後も、水をかけた後も、階段から落とそうとした後も僕はそばに居ただろう!?」
「階段から落とそうとした?!」
まさかと思うけど、ジェシカ様のイジメって犯人はデヴィッド様?!
「ヨーク様は生徒会に入っておられますよね。たしかに靴や制服、水をかけられたときは生徒会室へご報告に参りましたが、その時いらっしゃったのは、会長と副会長だけでしたわ。階段に関しては、転んだ覚えもありません。」
「デヴィ、あなたまさか」
「いやいやいや! 違うよね! いつもお仕事お疲れ様ですとか僕に言ってくれてたよね! 生徒会室にもよく差し入れをくれてたじゃない! クッキーおいしかったよ! いつもトーマスに取られて僕は一枚くらいしか食べられないけど、ちゃんと食べてたよ!」
「それは、副会長のトーマス様が私の婚約者だからですわ! お疲れ様も、トーマス様に言っていたのです! クッキーは、生徒会の皆様で召し上がって頂ければとは思っておりましたが、そもそもトーマス様のものですわ! ですから、ヨーク様とはご挨拶しかしていないと申し上げているでしょう!」
「嘘だ! 靴を隠した時もすぐに生徒会室にきただろう? 僕はいなかったから、拗ねてそんな事を言ってるんだね? 大丈夫、エミリーとの婚約は破棄したから」
「したのではなく、されたのでしょう? わたくしはトーマス様の婚約者でヨーク様とは無関係ですわ!」
「嘘だ! 嘘だ! だいたいお前は単なる伯爵家の養子だろ! 公爵家嫡男のトーマスと婚約できるわけない!」
「それはね、俺がジェシカに惚れたからだね。彼女は有能だし、両親も歓迎して婚約発表パーティしたし、お前も招待したはずだよな?」
「な! あの時の女はジェシカとは似ても似つかないだろ!」
「あー、婚約発表したときはまだ公爵夫人の教育してなかったから、メイクも衣装も全然違うけど、名前名乗ったろ? 名前は変わらないはずだよ? 確かにもともと可愛かったけど、気品も出てきたよな。ジェシカ本当に頑張ったよな」
「トーマス様の為に頑張りましたわ!」
「かわいいなぁジェシカは」
ハイハイ、またこの2人の惚気が始まった。この2人がラブラブな事くらい学園で知らない人はいないと思ってたんだけどなぁ。
1番知ってないといけない人が知らなかったぽい。
「ジェシカ様のお言葉、受けとりましたわ。なかなか面白いものを見せて頂きましたし、ジェシカ様と仲良くしたいですわ! とりあえずヨーク家領地にある店は撤退確定ですが、全てホワイト家領地に移動させようかしら? 確か隣の領地でしたわよね? それなら従業員の負担も少ないですしね」
エミリー様が嬉しそうにクスクスと笑っている。
あ、ちょっとご機嫌良くなったぽい! 扇子も真っ直ぐになった!
このままうまくやって! ジェシカ様!
「ぜひ! 両親に話をしますが、おそらく大歓迎ですわ! わたくしも、エミリー様のご希望にあう場所を探しておきますわ!」
「ここですぐに用意すると言わないあたり、慎重な性格ね。気に入ったわ」
「光栄です!」
よっし! うまくいけばまたうちの領地の品買ってもらえそう。でも今、売り込むのは得策じゃないな。様子見ながら、ジェシカ様に話さないと。同じクラスで、実習の班も同じだからチャンスはあるはず。
「うそだ。ジェシカは俺のことが好きだろう? いつもいじめられた後助けていたじゃないか! それにオレに笑いかけてくれていただろう?」
「いつも助けてくださったのはトーマス様ですわ。笑いかけていたのもトーマス様ですし、ヨーク様とはご挨拶はしていましたが、それ以外で会話した事ありませんわよね?」
「そもそも、何故いつもジェシカが被害にあった後すぐ現れるんだ?」
「な! あの時トーマスも居たのか?!」
「気がついてなかったのか。どうりで話しかけても無視して勝手に話してたわけだ」
それは、申し訳ないけどトーマス様たちもだよ。
いつも二人の世界になっちゃうんだから。
「愛してると言ってたじゃないか! みんないるからか、いつも照れながらだいぶ距離を取ってだけど確かに僕に言ってただろう?!」
あ、これ完全に勘違いしてる。ってか愛し合う恋人同士なら距離あるとかあり得ないでしょ。いっつも、ベタベタくっついてるトーマス様たち見てみなよ。婚約者同士だから問題ないし、むしろ推奨だけど、あっまい空気が漂いまくるのよね。
これは、仕方ない。説明がいるなぁ。エミリー様がジェシカ様まで切り捨てたらほんとに困るし。
「あの、お話に割り込み申し訳ございません。名乗りは省略しまして、状況だけお話ししますと、トーマス様とジェシカ様はいつも廊下などで愛の言葉を言われておりました。とても仲睦まじいご様子で、学園の癒しでしたわ。一応、お二人に離れたほうがいいか聞いたものもいたのですが、好きに見ていいけど話しかけないでほしいと言われとのことです。そのような話が広まってからは、恋人との会話の勉強、意中の人に告白したいが愛の言葉がわからない、といった目的の生徒がよくお二人を眺めておりました。人が多く、残念ながらお一人しか見えなかったといった話もよく聞きましたわ」
これ有名で、トーマス様もジェシカ様も人気だから柱の影で片方しか見えない位置に人が集まって自分に言われてる気分を味わうのだ。さすがにわざと一人しか見えない位置にいたなんて言えないし、恨み買いたくないから偶然見えなかったことにするけどね! 告白の勉強も建前。婚約者も、意中の人さえいない人が実は多く、友人はトキメキ補充だ! と喜んでいた。声に出しては言えないけど。
「デヴィ、ジェシカ様はあなたの顔をみて、あなたの名前を呼んで愛を囁いたの?」
デヴィッド様、無言。
「あなたはいつも都合が悪くなると黙るわね」
「うるさい! 黙れ! 両親にはお前と仲良くしろと言われ、王命と言われた。お前が来る日は、屋敷も大騒ぎで、お前の話しかしない。お前と婚約してから、急に家庭教師が増えた。遊べなくなったのもお前のせいだ!」
「それで?」
「爵位が上で、お前の方が偉いと思って我慢していたのに、子爵とわかり、腹がたった。商会だってどうせうちの支援だろう? 街に出ても僕のおかげだと言われてたし! 僕はとても女の子に人気なのに、エミリー様と仲良くしろと女の子にも言われるんだ! どいつもこいつも、エミリー、エミリー! 生徒会にいつも差し入れをしてくれるジェシカは、エミリーの話はしない。とても可愛くて、でも話せないから、困った時助ければいいと思ったんだ。父上も母上と仲良くなったのは、困った時助けたのがきっかけと言っていたしな!」
「それで、ジェシカ様の靴を隠したり、制服を破いたり、水をかけたり、階段から落とそうとしたの?」
「そしたら助けた僕の事を好きになるだろ? 愛してると言われたんだ!」
「それは、ほんとにあなたに言ってたの?」
「間違いない!」
いやいやいや! 間違いだらけだよ!
ほんっとどうしたのさ!?
「愛してると言われたのは、廊下で?」
「ああ! 周りにたくさん人がいたのに愛してると言ってくれたんだ!」
明らかに、廊下のラブラブタイムに遭遇しただけだって!
「それは、間違いなく貴方に言ったものではないわ」
「そんなわけあるか!」
あるわ。
「はぁ、もういいですわ。先ほどの宣言通り、婚約は破棄。わたしとあなたは無関係。オーケー?」
「もちろんだ!!!」
「ところで、今日が何の日かご存じ?」
あらあら?
このような大切な夜会の場で婚約破棄を宣言なさるなんて。デヴィッド様はどうなさったのかしら?
「デヴィ? 急にどうしたの? 久しぶりに会う私へのサプライズにしてはあまり面白くないわよ?」
「黙れ黙れ! 貴様にデヴィなどと呼ばれるのはもうウンザリだ! 貴様、私の可愛いジェシカへの数々の狼藉は許されない!」
「ジェシカ? それはどなた?」
「知らないわけないだろ! 貴様が毎日学園でいじめている特待生の少女だ! 特待生として将来を約束されている彼女に嫉妬して、靴を隠すわ、制服を破くわ、水をかけるは、ついには階段から突き落とそうとするとは! このような乱暴な女と結婚などありえん! 貴様の有責で婚約破棄を申し渡す! 撤回は神に誓ってない!」
「神に誓うというのね。分かったわ。私も神に誓いましょう。私は嫌がらせなどといった、低俗な事はしておりませんわ。そもそも、ジェシカ様など存じません。ですが神に誓うほど婚約がお嫌のようですので、私、エミリー・ド・カートライトは、デヴィッド・スチュワート・ヨークとの婚約をヨーク家有責で破棄し、ヨーク家の方、ヨーク家と繋がりのある方へ便宜を図りませんし、お会いしませんわ」
ああもう! 神に誓っちゃったら撤回はあり得ないじゃないっっ!!!
どうしよう、エミリー様がもうこの国来ないとか言い出したら結構まずいんですけど!!!
「ふん! 貴様は既に家からも見捨てられているからな! 会う意味も無い! 貴様は終わりだ!」
いやいやいや! 終わったのはヨーク家だろ!
そもそもエミリー様の方が爵位も地位も立場も頭の良さも、剣の腕も全て上なのに、なんでこんなことしたんだろ? エミリー様に勝ってるとこなんて頭の悪さだけじゃない! そのせいでこの国終わるかも。
エミリー様が学園で嫌がらせなんてするわけない。だって
「それではみなさま、ごきげんよう」
「きさま! 逃げるのか!!」
「いいえ? 私は自分の屋敷へ帰るのですわ」
「貴様の帰る家などない! カーライト子爵にはもう通達してある! うちに娘など居ないと言っていたぞ! すでに家にも見捨てられているとは笑わせる! まあ、家が庇っても関係ないがな! なにせ、うちは伯爵家だからな!」
「私は、この国のカーライト子爵家とは関係ありませんよ?」
「何を言う! 貴様は、カーライト子爵の娘だろう! ジェシカは伯爵家の養女だ! 貴様より上の立場だぞ!!」
「あの? 私は隣国のカートライト公爵の娘ですが? まさか、婚約者の家を間違えておられたのですか?」
「そんなわけあるか! なぜ隣国の公爵家が私と婚約するのだ!!!」
「それは私がデヴィに、いや、デヴィッド・スチュワート・ヨーク様に一目惚れしたからですわ。最初にお会いした時にご説明させて頂きましたわよね? 歓迎していただいていたし、仲良くやっていましたよね。最近は、会いに行ってもほとんどご不在でしたので、寂しかったですわ。移動に時間もかかりますし、一か月に一度しか会えませんしね。まさか、嫌われていたなんて申し訳ございません。学園にも通ってなどおりませんから、足を踏み入れたこともないのに、イジメの犯人にされるとは思いませんでした。調べもしなかったのですね。もう2度とお会いいたしませんし、私はもうデヴィッド様とは無関係ですわ。婚約にあたって支援させていただいたわたくしの商会は、今の場所からは撤退いたします。それでは、皆様いままでありがとうございました」
ああああ! あのバカ!
エミリー様めっちゃいい笑顔だけどすごく怒ってる! 扇子こわれそうだもん!!
エミリー様は普段は隣国にお住まいだが、デヴィッド様が大好きで、しょっちゅう会いに来る。だから学園に居るって勘違いしちゃったの?!
いやいや、しないでしょ! エミリー様飛び級で隣国の最高峰の学校卒業してるし。公爵家の一人娘ながらものすごい商才があって、あちこちで商会を運営してて忙しいのに、月一で会いに来るってめっちゃ愛されてるじゃん!
エミリー様がヨーク家に作った商会は、かなりうちの領地の品を扱ってもらえてたのに! この国から撤退とかあり得そうで怖い。
ここ5年くらいは、お二人の婚約が整った事で国内の商業は発展していた。それも全部なくなってしまう。エミリー様は残るも自由と言うけど、あの商会の従業員はほとんどこの国の孤児だ。溢れていた孤児に仕事を与える為エミリー様が作ったのだ。婚約者のいる国が豊かになるようにと。だけど家のしがらみもなく、エミリー様への恩がある従業員は、ほぼ彼女について行くだろう。
エミリー様がデヴィッド様に一目惚れしたと婚約が整ったあとは、国王が小躍りしたとまことしやかにささやかれている。隣国は、我が国の5倍の国土を抱え、豊かだ。戦争などは好まないお国柄だが、降りかかる火の粉は3倍にして返すと有名だ。そもそも、経済力も軍事力も高く、どこも戦を仕掛けないし火の粉が降りかからないように気を使っている。そのなかでも筆頭公爵家のエミリー様はとても人気も実力もある。跡継ぎの次期公爵であるお兄様にも可愛がられており、エミリー様にケンカを売れる人はこの国には存在しない。はずなんだけどっ!
エミリー様はデヴィッド様にとても尽くしていたと思う。私はあんなに婚約者に尽くせないよ。まぁ、あんなことできる財力がないけどさ。それなのに、デヴィッド様はエミリー様との婚約が決まったら急にモテ出したから調子に乗り始めた。でも近づいてる女みんな愛人狙いだよね? エミリー様居ないとモテないと思うんだけど? ってか愛人狙いの子たちってみんなエミリー様のファンじゃなかった?!
あれ? でもジェシカ様って婚約者いたよね? 愛人狙いのわけないし、そもそもあんなに……
「そういえば、デヴィッド様のおっしゃるジェシカ様はどちらにいらっしゃるの?」
「貴様! やはりジェシカを虐めるつもりか!!」
いやもう黙ろうよ。デヴィッド様。
「恐れながら申し上げます! ジェシカ・ホワイトと申します。私はたしかにヨーク様のおっしゃるような嫌がらせを学園で受けましたが、その犯人は私も存じません。少なくとも、学園にいらっしゃらないエミリー様とは思っておりませんでした。また、ヨーク様とは学園でご挨拶をすることはございましたが、個人的にお話をさせていただいた事はございません」
「なっ!」
「そうですか。場合によっては貴方とも二度とお会いしないようにと思っておりましたが、必要なさそうですわね」
「もちろんです! 神に誓って学園内で起きた事はエミリー様は無関係と思っております。また、ヨーク様とはご挨拶以外でお話しした事はごさいませんわ。ホワイト家は、エミリー様と敵対する意思はございません」
「なっ! 何を言ってるんだ! 靴を隠した後も、制服が破いた後も、水をかけた後も、階段から落とそうとした後も僕はそばに居ただろう!?」
「階段から落とそうとした?!」
まさかと思うけど、ジェシカ様のイジメって犯人はデヴィッド様?!
「ヨーク様は生徒会に入っておられますよね。たしかに靴や制服、水をかけられたときは生徒会室へご報告に参りましたが、その時いらっしゃったのは、会長と副会長だけでしたわ。階段に関しては、転んだ覚えもありません。」
「デヴィ、あなたまさか」
「いやいやいや! 違うよね! いつもお仕事お疲れ様ですとか僕に言ってくれてたよね! 生徒会室にもよく差し入れをくれてたじゃない! クッキーおいしかったよ! いつもトーマスに取られて僕は一枚くらいしか食べられないけど、ちゃんと食べてたよ!」
「それは、副会長のトーマス様が私の婚約者だからですわ! お疲れ様も、トーマス様に言っていたのです! クッキーは、生徒会の皆様で召し上がって頂ければとは思っておりましたが、そもそもトーマス様のものですわ! ですから、ヨーク様とはご挨拶しかしていないと申し上げているでしょう!」
「嘘だ! 靴を隠した時もすぐに生徒会室にきただろう? 僕はいなかったから、拗ねてそんな事を言ってるんだね? 大丈夫、エミリーとの婚約は破棄したから」
「したのではなく、されたのでしょう? わたくしはトーマス様の婚約者でヨーク様とは無関係ですわ!」
「嘘だ! 嘘だ! だいたいお前は単なる伯爵家の養子だろ! 公爵家嫡男のトーマスと婚約できるわけない!」
「それはね、俺がジェシカに惚れたからだね。彼女は有能だし、両親も歓迎して婚約発表パーティしたし、お前も招待したはずだよな?」
「な! あの時の女はジェシカとは似ても似つかないだろ!」
「あー、婚約発表したときはまだ公爵夫人の教育してなかったから、メイクも衣装も全然違うけど、名前名乗ったろ? 名前は変わらないはずだよ? 確かにもともと可愛かったけど、気品も出てきたよな。ジェシカ本当に頑張ったよな」
「トーマス様の為に頑張りましたわ!」
「かわいいなぁジェシカは」
ハイハイ、またこの2人の惚気が始まった。この2人がラブラブな事くらい学園で知らない人はいないと思ってたんだけどなぁ。
1番知ってないといけない人が知らなかったぽい。
「ジェシカ様のお言葉、受けとりましたわ。なかなか面白いものを見せて頂きましたし、ジェシカ様と仲良くしたいですわ! とりあえずヨーク家領地にある店は撤退確定ですが、全てホワイト家領地に移動させようかしら? 確か隣の領地でしたわよね? それなら従業員の負担も少ないですしね」
エミリー様が嬉しそうにクスクスと笑っている。
あ、ちょっとご機嫌良くなったぽい! 扇子も真っ直ぐになった!
このままうまくやって! ジェシカ様!
「ぜひ! 両親に話をしますが、おそらく大歓迎ですわ! わたくしも、エミリー様のご希望にあう場所を探しておきますわ!」
「ここですぐに用意すると言わないあたり、慎重な性格ね。気に入ったわ」
「光栄です!」
よっし! うまくいけばまたうちの領地の品買ってもらえそう。でも今、売り込むのは得策じゃないな。様子見ながら、ジェシカ様に話さないと。同じクラスで、実習の班も同じだからチャンスはあるはず。
「うそだ。ジェシカは俺のことが好きだろう? いつもいじめられた後助けていたじゃないか! それにオレに笑いかけてくれていただろう?」
「いつも助けてくださったのはトーマス様ですわ。笑いかけていたのもトーマス様ですし、ヨーク様とはご挨拶はしていましたが、それ以外で会話した事ありませんわよね?」
「そもそも、何故いつもジェシカが被害にあった後すぐ現れるんだ?」
「な! あの時トーマスも居たのか?!」
「気がついてなかったのか。どうりで話しかけても無視して勝手に話してたわけだ」
それは、申し訳ないけどトーマス様たちもだよ。
いつも二人の世界になっちゃうんだから。
「愛してると言ってたじゃないか! みんないるからか、いつも照れながらだいぶ距離を取ってだけど確かに僕に言ってただろう?!」
あ、これ完全に勘違いしてる。ってか愛し合う恋人同士なら距離あるとかあり得ないでしょ。いっつも、ベタベタくっついてるトーマス様たち見てみなよ。婚約者同士だから問題ないし、むしろ推奨だけど、あっまい空気が漂いまくるのよね。
これは、仕方ない。説明がいるなぁ。エミリー様がジェシカ様まで切り捨てたらほんとに困るし。
「あの、お話に割り込み申し訳ございません。名乗りは省略しまして、状況だけお話ししますと、トーマス様とジェシカ様はいつも廊下などで愛の言葉を言われておりました。とても仲睦まじいご様子で、学園の癒しでしたわ。一応、お二人に離れたほうがいいか聞いたものもいたのですが、好きに見ていいけど話しかけないでほしいと言われとのことです。そのような話が広まってからは、恋人との会話の勉強、意中の人に告白したいが愛の言葉がわからない、といった目的の生徒がよくお二人を眺めておりました。人が多く、残念ながらお一人しか見えなかったといった話もよく聞きましたわ」
これ有名で、トーマス様もジェシカ様も人気だから柱の影で片方しか見えない位置に人が集まって自分に言われてる気分を味わうのだ。さすがにわざと一人しか見えない位置にいたなんて言えないし、恨み買いたくないから偶然見えなかったことにするけどね! 告白の勉強も建前。婚約者も、意中の人さえいない人が実は多く、友人はトキメキ補充だ! と喜んでいた。声に出しては言えないけど。
「デヴィ、ジェシカ様はあなたの顔をみて、あなたの名前を呼んで愛を囁いたの?」
デヴィッド様、無言。
「あなたはいつも都合が悪くなると黙るわね」
「うるさい! 黙れ! 両親にはお前と仲良くしろと言われ、王命と言われた。お前が来る日は、屋敷も大騒ぎで、お前の話しかしない。お前と婚約してから、急に家庭教師が増えた。遊べなくなったのもお前のせいだ!」
「それで?」
「爵位が上で、お前の方が偉いと思って我慢していたのに、子爵とわかり、腹がたった。商会だってどうせうちの支援だろう? 街に出ても僕のおかげだと言われてたし! 僕はとても女の子に人気なのに、エミリー様と仲良くしろと女の子にも言われるんだ! どいつもこいつも、エミリー、エミリー! 生徒会にいつも差し入れをしてくれるジェシカは、エミリーの話はしない。とても可愛くて、でも話せないから、困った時助ければいいと思ったんだ。父上も母上と仲良くなったのは、困った時助けたのがきっかけと言っていたしな!」
「それで、ジェシカ様の靴を隠したり、制服を破いたり、水をかけたり、階段から落とそうとしたの?」
「そしたら助けた僕の事を好きになるだろ? 愛してると言われたんだ!」
「それは、ほんとにあなたに言ってたの?」
「間違いない!」
いやいやいや! 間違いだらけだよ!
ほんっとどうしたのさ!?
「愛してると言われたのは、廊下で?」
「ああ! 周りにたくさん人がいたのに愛してると言ってくれたんだ!」
明らかに、廊下のラブラブタイムに遭遇しただけだって!
「それは、間違いなく貴方に言ったものではないわ」
「そんなわけあるか!」
あるわ。
「はぁ、もういいですわ。先ほどの宣言通り、婚約は破棄。わたしとあなたは無関係。オーケー?」
「もちろんだ!!!」
「ところで、今日が何の日かご存じ?」
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ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
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突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
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