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17.お似合い

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「ジョゼ! 会いたかったわ!」

「私もお会いしたかったです。お嬢様、大切なお話があります。ご一緒に来て頂けますか?」

「勿論よ! あ、待って。聞きたい事があるの! ステファン、マリアベルは元気?」

「ああ、元気だよ。一時は狙われていたけど、もう大丈夫だ」

「良かった!」

「全て片付けたら、またクリステル様と会いたいと言っていた。良いかな?」

「勿論よ! 楽しみにしてるわね」

「ああ、それじゃあジョゼ様。また後で」

「はい。後でしっかり話し合いを行いましょう。きちんとご家族を手綱を握って下さいね。お嬢様、私はステファン様と少しお話がありまして。先にお部屋に戻って荷物をまとめておいて下さいますか? すぐに新しいお家にご案内します。ご安心下さい。私はこれからずっと、お嬢様と離れる事はありませんから」

「本当……?」

「はい。あまりこの場では申し上げられませんから、後でゆっくりお伝えします。だから安心して下さい」

「分かったわ。クリストフ様、アリーゼとご結婚なさったそうですね。おめでとうございます。わたくしのような悪女と結婚せず、愛する方と結ばれて良かったですね。もう2度とお会いする事はないでしょうけど、どうかお幸せに」

「待って! 待ってくれクリステル!!!」

「お嬢様、お辛かったのにきちんとご挨拶が出来て素晴らしいですね。よく頑張りました。さ、もうお部屋を出て下さい。ご自分を裏切った元婚約者なんて、見たくないでしょう」

「そうね。クリストフ様もわたくしみたいな悪女の顔は見たくないでしょうし。信じて頂けず悲しかったですわ。でも、今はもうどうでも良いです。どうかアリーゼとお幸せに。アリーゼ、頑張ってね」

何か言いたげな元婚約者と元親友に背を向け、クリステルはすぐさま部屋を出た。

「そんな……クリステル……」

クリステルが部屋を出た途端、ジョゼは冷たい目でイオネスコ侯爵家の者達を蔑んだ。

「ステファン様、見張る約束ではなかったのですか?」

「申し訳ない。今後は勝手に動かないように厳重に見張る。兄貴の処置をしていたら、隙を見てアリーゼが逃げ出したんだ」

「次はありませんからね」

「分かってる。もうこんな失態は犯さない。イオネスコ侯爵の名にかけて誓う」

「……まぁ、イオネスコ侯爵がそう仰るなら良いでしょう。クリストフ様とアリーゼ様にはお嬢様への接見禁止令が出されました。次にお嬢様の前に姿を表したらあなた方は牢屋行きです」

「なんで……! ジョゼは単なる執事でしょう! そんな力、無いはずよ!」

「この馬鹿! 申し訳ありませんジョゼ様! すぐに言い聞かせますのでこの場はお許し下さい!」

「今回だけは見逃します。ですが、この調子ではそのうちイオネスコ侯爵家に害をもたらすのではありませんか?」

「そうですね。追い出す準備を始めさせて頂きますよ」

冷たいステファンの声に、クリストフとアリーゼがビクリと肩を震わせた。アリーゼはジョゼとステファンの殺気に当てられ、クリストフの腕に擦り寄った。

だが、クリストフはアリーゼの腕を振り払う。ショックを受けたアリーゼが必死にクリストフに擦り寄っている姿を見て、ジョゼは笑い始めた。

「お嬢様を捨ててまで選んだ女性が、自分を愛してないと知ったお気持ちはいかがですか?」

「まさか聞いてたの……?! 違うの! わたくし、クリストフ様を愛してるわ!」

必死にクリストフに甘えようとするアリーゼの手を振り払い、アリーゼを殴ろうとしたクリストフはステファンに殴られて気を失った。

「さすが、嘘がお上手ですね。お嬢様を悪女に仕立てただけはある。ステファン様、もうクリストフ様の処置は済んでいるのですか?」

「はい。兄は子を成すことは出来ません」

「え! なんでよ!」

「貴女がクリストフ様を誘惑なさったからですよ。簡単に貴女を信じるクリストフ様にも問題はありますけどね。お似合いのご夫婦ですね。おふたりの間に子は産まれませんが、愛し合う者同士お幸せにお過ごし下さい」

「マリアベルに手を出そうとしたんだ。優雅に暮らせると思うなよ」

クリストフを抱えたステファンがアリーゼに笑いかける。その笑みはとても恐ろしく、アリーゼは恐怖で気を失った。
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