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11.魅力的な提案【ジョゼ視点】
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「あれだけ目立っておりましたから、クリストフ様の所業を調べるのは王家の方なら簡単でしょう。ですが、アリーゼ様が飲む薬まですぐに調べられるとは思えません。アリーゼ様側は責任を取れと言っておられるのですから、避妊薬を飲んでいるとは決して言わないでしょう。ですが、王太子殿下が言い切るなら薬を飲んだ確信があると判断しました。つまり、元々アリーゼ様は何らかの理由で王家又は王太子殿下にマークされており、見張られていたのではないかと考えました」
「正解。だから今夜僕がここに来た。まさかステファンの敵と我が家が狙っていた獲物が同じとは思わなかったけどね。感謝してよ、僕が止めなきゃ今頃アリーゼは死んでるよ」
「……まさか、あの子どもは……」
ステファン様の表情が歪んだ。当たりかよ。黒そうだとは思ったけど、マリアベル様を狙うとか馬鹿だろ。王太子殿下によると、あの子どもが持っていたナイフの毒は死ぬ事はないが、身体に痺れが残るそうだ。毒の種類まで特定する暇はなかったから情報が貰えて助かった。お嬢様が居たから、あの子どもで毒を試す事は出来なかったしな。
襲撃に子どもを使ったのも最初は失敗させて脅すだけにするつもりだったらしい。あの子は単なる捨て石。数日中に本命の襲撃をする予定だったんだろうと王太子殿下は仰っていた。あの子は証人として王家が引き取ったそうだ。妹も一緒に守ってやるから忠誠を誓えと言えば喜んで王家に忠誠を誓ったらしい。きっと数年経てば優秀な影になるだろう。持っている情報も、妹の元気そうな様子を見た瞬間に全て吐いた。状況判断の出来る優秀な人材が手に入ったと王太子殿下はご機嫌だ。
クリストフ様よりもステファン様の方が優秀だからマリアベル様を狙ったらしい。あの女はクリストフ様狙いだったから、クリストフ様を確実に当主にしたかったそうだ。
ステファン様はマリアベル様を心から愛している。侯爵家当主の座より、マリアベル様を取ると確信していたんだ。
だから、死なない毒か……。
マリアベル様が生きてさえいれば、ステファン様は別の女性と絶対に結婚しない。介護が必要になれば、全てを投げ打ってでもマリアベル様を介護するだろうと容易に想像出来る。
「殿下にクリステル様の保護を頼みに行ったら教えて頂いたんだ。マリアベルを狙うなんて許せん。絶対に地獄に叩き落としてやる」
ステファン様が怖え。これ、アリーゼ様の家はもう終わりだろ。王太子殿下とステファン様に睨まれてどうやって生き延びるんだよ。
あの女はお嬢様の親友のフリをしたバケモンだ。あの女はわざとお嬢様に近寄ったのだろう。最初からクリストフ様を狙ってたのかもしれん。貴族は一度夫婦になれば、死ぬまで離れられない。面倒な侯爵夫人の仕事はお嬢様に押し付けて、子どもでも産めば自分が大きな顔を出来るとでも思ったんだろうな。確かにそんな貴族の家もあるが、それは下位貴族だけだ。高位貴族は夫婦で仲良く共に支え合う事が前提。でないと、重責を担えない。だからクリストフ様もお嬢様の前では優しい男のフリをしていた。クリステル様とうまくいかなければ、跡取りを外される事くらい理解していただろうからな。……ああでも、最近は少しお嬢様を舐めている節があったな。
お嬢様はしっかりなさっているし、お優しい淑女の鏡。しかし、家族にあまり大事にされていないせいで自己評価が低い。高位貴族の令嬢は無駄に自信満々な令嬢ばかりなのに、お嬢様は違う。
マリアベル様に色んな事を教えたり、婚約者の為に2人分学ぼうとしたり……とにかく少しでも自分に優しくしてくれた人に尽くそうとするのだ。
マリアベル様のように純粋な方ならば良いが、舐められやすい。何度も進言しているのだが、それがお嬢様の良さでもあるので強く言えない。
とにかく、ステファン様を宥めよう。
「法に触れない範囲でお願いします。お嬢様やマリアベル様に血生臭い事をしたと知られたくはないでしょう?」
「……それは、その通りだが……」
「ふうん。あのステファンを宥めるとはね。ねぇ、ジョゼ。やっぱり僕のものにならない?」
「以前もお断りした筈です。私は、クリステルお嬢様の執事です」
「君が僕のものになるなら、クリステルを諦めてあげるよ。親の手からも守ってあげるし、確実に彼女だけを愛する男と幸せな結婚をさせてあげる」
それは、とてもとても魅力的な提案だ。だけど……。
「正解。だから今夜僕がここに来た。まさかステファンの敵と我が家が狙っていた獲物が同じとは思わなかったけどね。感謝してよ、僕が止めなきゃ今頃アリーゼは死んでるよ」
「……まさか、あの子どもは……」
ステファン様の表情が歪んだ。当たりかよ。黒そうだとは思ったけど、マリアベル様を狙うとか馬鹿だろ。王太子殿下によると、あの子どもが持っていたナイフの毒は死ぬ事はないが、身体に痺れが残るそうだ。毒の種類まで特定する暇はなかったから情報が貰えて助かった。お嬢様が居たから、あの子どもで毒を試す事は出来なかったしな。
襲撃に子どもを使ったのも最初は失敗させて脅すだけにするつもりだったらしい。あの子は単なる捨て石。数日中に本命の襲撃をする予定だったんだろうと王太子殿下は仰っていた。あの子は証人として王家が引き取ったそうだ。妹も一緒に守ってやるから忠誠を誓えと言えば喜んで王家に忠誠を誓ったらしい。きっと数年経てば優秀な影になるだろう。持っている情報も、妹の元気そうな様子を見た瞬間に全て吐いた。状況判断の出来る優秀な人材が手に入ったと王太子殿下はご機嫌だ。
クリストフ様よりもステファン様の方が優秀だからマリアベル様を狙ったらしい。あの女はクリストフ様狙いだったから、クリストフ様を確実に当主にしたかったそうだ。
ステファン様はマリアベル様を心から愛している。侯爵家当主の座より、マリアベル様を取ると確信していたんだ。
だから、死なない毒か……。
マリアベル様が生きてさえいれば、ステファン様は別の女性と絶対に結婚しない。介護が必要になれば、全てを投げ打ってでもマリアベル様を介護するだろうと容易に想像出来る。
「殿下にクリステル様の保護を頼みに行ったら教えて頂いたんだ。マリアベルを狙うなんて許せん。絶対に地獄に叩き落としてやる」
ステファン様が怖え。これ、アリーゼ様の家はもう終わりだろ。王太子殿下とステファン様に睨まれてどうやって生き延びるんだよ。
あの女はお嬢様の親友のフリをしたバケモンだ。あの女はわざとお嬢様に近寄ったのだろう。最初からクリストフ様を狙ってたのかもしれん。貴族は一度夫婦になれば、死ぬまで離れられない。面倒な侯爵夫人の仕事はお嬢様に押し付けて、子どもでも産めば自分が大きな顔を出来るとでも思ったんだろうな。確かにそんな貴族の家もあるが、それは下位貴族だけだ。高位貴族は夫婦で仲良く共に支え合う事が前提。でないと、重責を担えない。だからクリストフ様もお嬢様の前では優しい男のフリをしていた。クリステル様とうまくいかなければ、跡取りを外される事くらい理解していただろうからな。……ああでも、最近は少しお嬢様を舐めている節があったな。
お嬢様はしっかりなさっているし、お優しい淑女の鏡。しかし、家族にあまり大事にされていないせいで自己評価が低い。高位貴族の令嬢は無駄に自信満々な令嬢ばかりなのに、お嬢様は違う。
マリアベル様に色んな事を教えたり、婚約者の為に2人分学ぼうとしたり……とにかく少しでも自分に優しくしてくれた人に尽くそうとするのだ。
マリアベル様のように純粋な方ならば良いが、舐められやすい。何度も進言しているのだが、それがお嬢様の良さでもあるので強く言えない。
とにかく、ステファン様を宥めよう。
「法に触れない範囲でお願いします。お嬢様やマリアベル様に血生臭い事をしたと知られたくはないでしょう?」
「……それは、その通りだが……」
「ふうん。あのステファンを宥めるとはね。ねぇ、ジョゼ。やっぱり僕のものにならない?」
「以前もお断りした筈です。私は、クリステルお嬢様の執事です」
「君が僕のものになるなら、クリステルを諦めてあげるよ。親の手からも守ってあげるし、確実に彼女だけを愛する男と幸せな結婚をさせてあげる」
それは、とてもとても魅力的な提案だ。だけど……。
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