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10.王太子との腹の探り合い【ジョゼ視点】

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王太子殿下があっさりとご自分の印を押した。

これで正式にお嬢様は悪くないと認められた。旦那様はそれでもお嬢様を責めるかもしれない。でも、王太子殿下の口添えがあればさほど酷い事にはならないだろう。

これで少なくともお嬢様はあの男と結婚しなくて良い。第一目標は達成された。これから王太子殿下がお嬢様をどう扱うつもりなのか……。それを確認しないと。

「それは、どういった意味でしょうか?」

俺はお嬢様の代理。お嬢様なら、王族にやんわりと質問するくらいはギリギリ許される。本音は胸ぐらを掴んでやりたい気分だが、そんな事したらお嬢様と引き離されてしまう。

一刻も早くお嬢様があの家を出られるようにしてあげたい。そう思って裏に表に色々動いてきた。あの家はお嬢様にとって良い場所ではない。厳しい侯爵夫人の教育も、お嬢様にとっては家を離れられる貴重な時間だった。

お嬢様を外に出したがらない旦那様に、侯爵夫人が街を歩き庶民の暮らしを見た方が良いと仰っていたと嘘を進言すればあっさり街歩きを認めてくれた。

少なくともあの家に居るよりはお嬢様は幸せになれる。そう信じていた俺の期待は、あっさりと打ち砕かれた。

「だからさ、僕がクリステルを取り立てるんだよ」

「お嬢様の何を求めるおつもりですか?」

俺から言い出すのを待ってんのか? 俺は今はお嬢様の代理。迂闊な事は言えない。お嬢様を妾になんて、口が裂けても言うもんか。あの人は人一倍愛情に飢えておられる。ステファン様のようにたった1人だけを愛してくれる誠実な方と結婚するべきだ。

愛情に飢えてるから、あんな女を親友なんて呼んじまうんだよな。

あの女は、出会った時から信用できなかった。人の心の闇を見抜き、上手に取り入る。お嬢様を傷つけたくなくて黙っていたが、あの目は嘘吐きの目だ。

結婚してしまえば接する事もなくなるだろうと目をつぶっていたが、最初から排除すれば良かった。そうすればお嬢様が無駄に傷つく事はなかったのに。

王太子殿下の目が、俺を射抜く。怖えよ。けど、怯むわけにいかない。殿下はニコニコと笑って急に話題を変えた。

「知ってる? 結婚式の後にクリストフ達は廃嫡して追い出されるんだって。ちゃあんと処置をして追い出すらしいよ」

処置か。やはりそうなるよな。ステファン様とマリアベル様にお子が生まれない可能性はある。そんな時、追い出された兄が子どもを連れてしゃしゃり出て来られたら困るからな。

あの女の思い通りになったようで気に食わないが、浮気男が侯爵になる事はない。せいぜい仮初の幸せを満喫すれば良いさ。ま、あの女が金も権力もない男を愛せるとは思えないけどな。もっと復讐してやりたい気持ちはあるが、マリアベル様のお怒りぶりを見るとなにか起きるだろうし、お嬢様の前に現れなければそれで良い。だが、懸念点がひとつある。

「アリーゼ様が他所の男と子を作る可能性はゼロではありませんよ。それに、既にお腹に子が居るかもしれません」

その場合、生まれた子はどうなるのだ。

「それはないと思うよ。アリーゼは避妊薬を飲んでいるからね。結婚してから彼女が妊娠すれば他の男との子だ。クリストフにちゃんと説明はするよ。理解するかは分からないけどね」

なるほど。抜かりがないな。しかし、何故避妊薬を飲んでいるなんて知っているんだ。少しカマをかけてみるか。

「王家の情報網は、素晴らしいですね」

「僕がアリーゼを調べていると分かるなんてジョゼは優秀だね」

分かんなかったよ! 知らねぇよ!
俺は内心ドキドキしながら、平静を装った。
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