53 / 56
番外編
マリオン視点 4
しおりを挟む
「そうだったね。やっぱりいいや。婚約者を大事にしろよ」
「とっても素敵な方なんですよ。あの子を泣かしたら、いくらマリオン様でも許しませんわ」
あ、あれ?
アマンダは天使ではなかったのか……?
え、笑みが黒いんだが……?
「……ふぅん。マリオン、聞いたよね?」
悪魔が微笑む。
「は……はい。聞きました……」
肯定する事しか許されない。悪魔が微笑むとはそういう事だ。
「確か、今日いらしてる筈ですわ! わたくし、呼んで参ります。アル様もお会いしたいですよね?」
「そうだな、会いたい。なぁ兄貴、問題ねぇよな?」
「あ……ああ、マリオンが良ければ良いぞ。しかし、この後の予定は大丈夫か?」
兄上は、僕を逃がそうとしてくれているが、悪魔の目が逃げるなよと語っている。こんなの逃げられない。
「だ、大丈夫です……」
「良かった! 待っていて下さいまし」
アマンダはあっという間に去って行った。まだ婚約が決まったばかりで顔合わせくらいしかしていない。どんな子だったっけ……?
「どんな子なんだ?」
ひぃ!
答えられなければやられる!
「まさか、あんま知らねぇとか言わねぇよな?」
あ、悪魔の笑みが怖い……。
「まだ顔合わせを一度しただけなのだからあまり知らなくて当然だろう。私だって妻の事を知るまでに年単位の時間がかかったんだぞ」
兄上が、また助けてくれた。
「けどよ、兄貴は婚約者が居る身で他の女性に見惚れたりしたか?」
「そんな無礼な事はしない。私は妻一筋だ」
兄上ぇ!
僕の味方なのか、敵なのかどちらですか!
「だょなぁ? 兄上だってそうだし、俺もそうだ」
「アルフレッドは些か過保護だけどな。まぁ、アルフレッドの人気は凄まじいから仕方ない部分もあるが。先日のご令嬢はどうなったんだ?」
「兄上が抗議してくれた。このままじゃ危なくて俺を派遣出来ないって言ってくれたみたいだぜ」
「さすが兄上だな。あの令嬢は国に帰っても立場がないだろうな」
「勘当されたらしいぜ」
あっさり言うが、貴族が勘当されるなんて相当の事だ。誰の事を言っているか分からないが、悪魔が怒っている様子から判断すると……おそらくアマンダに何かしたのだろう。
勘当するよう圧力をかけたのは悪魔ではないか?
「アルフレッド、何かやったのか?」
あ、兄上ぇ……。怖いから聞くのやめましょう! ね!
「あの女の関係者は全員、俺の演奏を聞かせない、出入り禁止だって言っただけだ。アマンダにあんな事したんだから、当然だろう?」
「それが原因だ。お前、分かっててやっただろう?」
「ふん、なんのことだか分からねぇな」
「全く、気持ちは分かるがやり過ぎるなよ。真っ先に狙われるのはアマンダなんだぞ」
「加減はしてるよ。あの女だって、ちゃぁんと就職先を手配してやったんだぜ」
「まともなところだろうな?」
「失礼だな。アマンダが許してやれって言うから、見張りを付けてリチャードの商会に入れたよ」
「あのリチャードが、妹に唾をかけた女性を雇ったのか?」
唾?!
アマンダに?!
悪魔が怒る訳だ……。しかし、リチャードの商会で雇うなんて優しいな。あの悪魔の笑みを見る限り、無事で済んでるとも思えないのだが。
「すげぇ渋られたけど、リチャードもなんだかんだで妹には甘いからな」
「そうか、良かったな。生きていて。厳しく教育されるだろうが、衣食住の心配は無いし給金も出るからな」
「普通に生きてるし、真面目に働いてるよ。一生見張るけどな。兄貴は俺をなんだと思ってやがる」
「アマンダの事になると暴走する世界最高の歌い手だな。そう言えばマリオンはアルフレッドの歌を聞いた事がないだろう? 今度聞いてみると良い。世界が変わるぞ」
「そんな大層なモンじゃねぇよ」
悪魔が、嬉しそうに笑った。初めて見る微笑みだ。とても、とても美しい。
なんだ……この気持ちは。
「とっても素敵な方なんですよ。あの子を泣かしたら、いくらマリオン様でも許しませんわ」
あ、あれ?
アマンダは天使ではなかったのか……?
え、笑みが黒いんだが……?
「……ふぅん。マリオン、聞いたよね?」
悪魔が微笑む。
「は……はい。聞きました……」
肯定する事しか許されない。悪魔が微笑むとはそういう事だ。
「確か、今日いらしてる筈ですわ! わたくし、呼んで参ります。アル様もお会いしたいですよね?」
「そうだな、会いたい。なぁ兄貴、問題ねぇよな?」
「あ……ああ、マリオンが良ければ良いぞ。しかし、この後の予定は大丈夫か?」
兄上は、僕を逃がそうとしてくれているが、悪魔の目が逃げるなよと語っている。こんなの逃げられない。
「だ、大丈夫です……」
「良かった! 待っていて下さいまし」
アマンダはあっという間に去って行った。まだ婚約が決まったばかりで顔合わせくらいしかしていない。どんな子だったっけ……?
「どんな子なんだ?」
ひぃ!
答えられなければやられる!
「まさか、あんま知らねぇとか言わねぇよな?」
あ、悪魔の笑みが怖い……。
「まだ顔合わせを一度しただけなのだからあまり知らなくて当然だろう。私だって妻の事を知るまでに年単位の時間がかかったんだぞ」
兄上が、また助けてくれた。
「けどよ、兄貴は婚約者が居る身で他の女性に見惚れたりしたか?」
「そんな無礼な事はしない。私は妻一筋だ」
兄上ぇ!
僕の味方なのか、敵なのかどちらですか!
「だょなぁ? 兄上だってそうだし、俺もそうだ」
「アルフレッドは些か過保護だけどな。まぁ、アルフレッドの人気は凄まじいから仕方ない部分もあるが。先日のご令嬢はどうなったんだ?」
「兄上が抗議してくれた。このままじゃ危なくて俺を派遣出来ないって言ってくれたみたいだぜ」
「さすが兄上だな。あの令嬢は国に帰っても立場がないだろうな」
「勘当されたらしいぜ」
あっさり言うが、貴族が勘当されるなんて相当の事だ。誰の事を言っているか分からないが、悪魔が怒っている様子から判断すると……おそらくアマンダに何かしたのだろう。
勘当するよう圧力をかけたのは悪魔ではないか?
「アルフレッド、何かやったのか?」
あ、兄上ぇ……。怖いから聞くのやめましょう! ね!
「あの女の関係者は全員、俺の演奏を聞かせない、出入り禁止だって言っただけだ。アマンダにあんな事したんだから、当然だろう?」
「それが原因だ。お前、分かっててやっただろう?」
「ふん、なんのことだか分からねぇな」
「全く、気持ちは分かるがやり過ぎるなよ。真っ先に狙われるのはアマンダなんだぞ」
「加減はしてるよ。あの女だって、ちゃぁんと就職先を手配してやったんだぜ」
「まともなところだろうな?」
「失礼だな。アマンダが許してやれって言うから、見張りを付けてリチャードの商会に入れたよ」
「あのリチャードが、妹に唾をかけた女性を雇ったのか?」
唾?!
アマンダに?!
悪魔が怒る訳だ……。しかし、リチャードの商会で雇うなんて優しいな。あの悪魔の笑みを見る限り、無事で済んでるとも思えないのだが。
「すげぇ渋られたけど、リチャードもなんだかんだで妹には甘いからな」
「そうか、良かったな。生きていて。厳しく教育されるだろうが、衣食住の心配は無いし給金も出るからな」
「普通に生きてるし、真面目に働いてるよ。一生見張るけどな。兄貴は俺をなんだと思ってやがる」
「アマンダの事になると暴走する世界最高の歌い手だな。そう言えばマリオンはアルフレッドの歌を聞いた事がないだろう? 今度聞いてみると良い。世界が変わるぞ」
「そんな大層なモンじゃねぇよ」
悪魔が、嬉しそうに笑った。初めて見る微笑みだ。とても、とても美しい。
なんだ……この気持ちは。
11
お気に入りに追加
2,098
あなたにおすすめの小説
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
かわいがっているネズミが王子様だと知ったとたんに可愛くなくなりました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のアネモネは金色のネズミを見つけ、飼う事にした。
しかし、金色のネズミは第三王子のロイアン殿下だった。
「頼む! 俺にキスをしてくれ」
「えっ、無理です」
真実の愛のキスで人間に戻れるらしい……
そんなおとぎ話みたいな事ある訳ないわよね……?
作者おばかの為、設定ゆるめです。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される
きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。
それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。
しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる