25 / 56
24
しおりを挟む
レベッカ様のおかげで、わたくしの刺繍の腕は上がった。アル様にお渡し出来るハンカチはたくさん出来たんだけど……お会い出来ないから渡せない。
「申し訳ありません。せっかく教えて頂いていたのに……」
「もしかして、先日の下らない噂を気にされているのではなくて? 安心なさい。アルフレッド殿下がアマンダ様との婚約を解消するなんてあり得ないわ」
「どうして、そう思われるんですか?」
最初はお母様が警戒していたけど、お家はともかくレベッカ様自身は清廉潔白なお方だ。
あまりお家に馴染めておられないらしく、家に居づらいのだそうだ。レベッカ様のキツい態度が災いして、お友達も少ないらしい。
わたくしもあんまりお友達は居ないけどねっ!
だって、打算が透けて見える人達ばかりなんだもの。実は家にご招待したのはレベッカ様が初めてだ。
レベッカ様は公爵令嬢なだけあって、わたくしに媚びる必要がない。真っ直ぐで、素敵なご令嬢。
そんなレベッカ様が仰るなら、きっと大丈夫。でも、あの日の夜会からずっと胸がザワザワする。どうすれば治るのか、全く分からない。
「もっと自信を持ちなさい! アマンダ様より素敵な令嬢をわたくしは知らないわ! アルフレッド殿下だって、あれだけ脅されたのに貴女だけは渡さないって……」
脅された?
レベッカ様が、しまったという顔をしている。
「……アル様が……脅されてる? レベッカ様、詳しくお聞かせ下さい」
「……言えないわ。貴女だって分かってるでしょ。わたくしの家と貴女の家は敵同士。わたくしはあくまでも貴女に刺繍を教えに来ているだけよ」
「そう……ですね」
「けど! お友達として、お友達として言うわ! アルフレッド殿下を信じなさい! わたくしはあの方は大嫌いだけど! でも、アルフレッド殿下は貴女の事をとっても大事にしているわ! お願い、それだけは信じて……!」
レベッカ様が涙目で訴える。
「わたくしが結婚したら、もっと教えてあげる! だからもう少し待ってちょうだい!」
「ありがとうございます。レベッカ様。大丈夫、わたくしはアル様が幸せならそれで良いんです。……たとえ……」
わたくしが捨てられても。
その言葉だけは、どうしても言えなかった。
言葉にしたら、本当になってしまいそうだったから。分かってる。アル様がわたくしを大事にしてくれているのは分かってる。
……けど、わたくしを愛してくれているのか……女性として好きでいてくれているのか。それは分からない。アル様は婚約者なのに、一定の距離を置いているような気がする。まるでアイドルとファンみたいに。
婚約をした時に手に口付けを頂いただけで、それ以降は手を繋ぐ事くらいしかしていない。わたくしはもう、大人なのに。
前世ならまだ子どもだからと割り切れるけど、この世界ではもう結婚出来る年なのに。レベッカ様だって、もうご結婚なさるのに。
あと2年は、長い。
「申し訳ありません。せっかく教えて頂いていたのに……」
「もしかして、先日の下らない噂を気にされているのではなくて? 安心なさい。アルフレッド殿下がアマンダ様との婚約を解消するなんてあり得ないわ」
「どうして、そう思われるんですか?」
最初はお母様が警戒していたけど、お家はともかくレベッカ様自身は清廉潔白なお方だ。
あまりお家に馴染めておられないらしく、家に居づらいのだそうだ。レベッカ様のキツい態度が災いして、お友達も少ないらしい。
わたくしもあんまりお友達は居ないけどねっ!
だって、打算が透けて見える人達ばかりなんだもの。実は家にご招待したのはレベッカ様が初めてだ。
レベッカ様は公爵令嬢なだけあって、わたくしに媚びる必要がない。真っ直ぐで、素敵なご令嬢。
そんなレベッカ様が仰るなら、きっと大丈夫。でも、あの日の夜会からずっと胸がザワザワする。どうすれば治るのか、全く分からない。
「もっと自信を持ちなさい! アマンダ様より素敵な令嬢をわたくしは知らないわ! アルフレッド殿下だって、あれだけ脅されたのに貴女だけは渡さないって……」
脅された?
レベッカ様が、しまったという顔をしている。
「……アル様が……脅されてる? レベッカ様、詳しくお聞かせ下さい」
「……言えないわ。貴女だって分かってるでしょ。わたくしの家と貴女の家は敵同士。わたくしはあくまでも貴女に刺繍を教えに来ているだけよ」
「そう……ですね」
「けど! お友達として、お友達として言うわ! アルフレッド殿下を信じなさい! わたくしはあの方は大嫌いだけど! でも、アルフレッド殿下は貴女の事をとっても大事にしているわ! お願い、それだけは信じて……!」
レベッカ様が涙目で訴える。
「わたくしが結婚したら、もっと教えてあげる! だからもう少し待ってちょうだい!」
「ありがとうございます。レベッカ様。大丈夫、わたくしはアル様が幸せならそれで良いんです。……たとえ……」
わたくしが捨てられても。
その言葉だけは、どうしても言えなかった。
言葉にしたら、本当になってしまいそうだったから。分かってる。アル様がわたくしを大事にしてくれているのは分かってる。
……けど、わたくしを愛してくれているのか……女性として好きでいてくれているのか。それは分からない。アル様は婚約者なのに、一定の距離を置いているような気がする。まるでアイドルとファンみたいに。
婚約をした時に手に口付けを頂いただけで、それ以降は手を繋ぐ事くらいしかしていない。わたくしはもう、大人なのに。
前世ならまだ子どもだからと割り切れるけど、この世界ではもう結婚出来る年なのに。レベッカ様だって、もうご結婚なさるのに。
あと2年は、長い。
15
お気に入りに追加
2,098
あなたにおすすめの小説
【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました
冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。
家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。
しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。
ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。
調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。
日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。
すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。
「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」
『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』
そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。
これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる