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ああ、どうしたんだろう。まるで子どものように涙が溢れて止まらない。もう会えない、大好きな人。彼はアイドルだ。正直、ユナ様に本気で恋した訳じゃない。ただ、好きなのだ。ユナ様の声が、ユナ様の歌が、ダンスが……。彼のおかげで、毎日頑張れた。つらい仕事も、週末のライブを楽しみに乗り切れた。嫌な親との電話の後に、ユナ様の曲を聞いたら癒された。もう一度だけで良い。ユナ様のステージが見たい。でも、それはもう叶わない。
「……大丈夫?」
アルフレッド殿下は、そっとハンカチを差し出してくれた。ああ、ユナ様の声に似てるなぁ。
「待ってて」
アルフレッド殿下は、部屋を出て行ってしまわれた。嫌われてしまったかしら。……そうよね。婚約者が夢で見た男性の事で泣くなんて……。どうしよう。婚約、無しになっちゃうかな。それとも、貴族らしく形だけの夫婦になるのかな。
それは嫌だ。アルフレッド殿下との婚約を承諾したのは勢いだけど、こんな風に優しくしてくれる人と仲良くなれないなんて……。
「お待たせ。どう? アマンダの好きなユナ様に似てる」
え……?!
うそ……、ユナ様にそっくり……。衣装も、ほとんど同じ……! なんで! なんで!
「あなたの時間を、ほんの少し僕に下さい。最高の時間をプレゼントしますよ」
それは……何度も聞いた、ライブ開始時のユナ様の決め台詞。
「もう見れないと……思ってた……」
「ふふ、似てたかな? ねぇアマンダ。君の大好きなユナ様がどんな事をしていたのか、俺に教えてよ。歌ったり踊ったりするんだよね?」
「はい」
「じゃあ、どんな歌や踊りなのか教えて。アマンダに見せてあげるから」
「……どうして……」
「だって、好きなんでしょ?」
「けど……アルフレッド殿下は……」
「ユナ様じゃない。確かに俺はアルフレッド・キャンベル・クラークだ。けど、ユナになれるよ。俺は歌やダンスは結構得意なんだ。アマンダのおかげで面倒な城暮らしから抜け出せたから、少しくらい楽しい事がしたいんだ。だからね、アマンダの為だけじゃない。俺の為に歌やダンスを教えて欲しい。アマンダが夢で見た歌、ダンス……全て俺が現実にしてあげる」
この人は、どこまで優しいのだろう。
出会ったばかりの婚約者の為に、歌やダンスを覚えるなんて……。
この日、わたくしは生まれて初めて恋をした。前世でも恋なんてした事なかった。けど、分かる。ユナ様を好きな気持ちとは違う。
わたくしは、アルフレッド殿下が好きなんだ。
「……大丈夫?」
アルフレッド殿下は、そっとハンカチを差し出してくれた。ああ、ユナ様の声に似てるなぁ。
「待ってて」
アルフレッド殿下は、部屋を出て行ってしまわれた。嫌われてしまったかしら。……そうよね。婚約者が夢で見た男性の事で泣くなんて……。どうしよう。婚約、無しになっちゃうかな。それとも、貴族らしく形だけの夫婦になるのかな。
それは嫌だ。アルフレッド殿下との婚約を承諾したのは勢いだけど、こんな風に優しくしてくれる人と仲良くなれないなんて……。
「お待たせ。どう? アマンダの好きなユナ様に似てる」
え……?!
うそ……、ユナ様にそっくり……。衣装も、ほとんど同じ……! なんで! なんで!
「あなたの時間を、ほんの少し僕に下さい。最高の時間をプレゼントしますよ」
それは……何度も聞いた、ライブ開始時のユナ様の決め台詞。
「もう見れないと……思ってた……」
「ふふ、似てたかな? ねぇアマンダ。君の大好きなユナ様がどんな事をしていたのか、俺に教えてよ。歌ったり踊ったりするんだよね?」
「はい」
「じゃあ、どんな歌や踊りなのか教えて。アマンダに見せてあげるから」
「……どうして……」
「だって、好きなんでしょ?」
「けど……アルフレッド殿下は……」
「ユナ様じゃない。確かに俺はアルフレッド・キャンベル・クラークだ。けど、ユナになれるよ。俺は歌やダンスは結構得意なんだ。アマンダのおかげで面倒な城暮らしから抜け出せたから、少しくらい楽しい事がしたいんだ。だからね、アマンダの為だけじゃない。俺の為に歌やダンスを教えて欲しい。アマンダが夢で見た歌、ダンス……全て俺が現実にしてあげる」
この人は、どこまで優しいのだろう。
出会ったばかりの婚約者の為に、歌やダンスを覚えるなんて……。
この日、わたくしは生まれて初めて恋をした。前世でも恋なんてした事なかった。けど、分かる。ユナ様を好きな気持ちとは違う。
わたくしは、アルフレッド殿下が好きなんだ。
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