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「お初にお目にかかります。テイラー公爵が娘。アマンダ・オブ・テイラーと申します」

お母様に叩き込まれた挨拶をする。

「あ、ああ……面を上げろ」

ここで上げてはいけない。

「よい。面を上げろ」

「アマンダ、顔を上げて良いよ」

お父様の声がする。そこでようやく、わたくしは顔を上げた。1回目で顔を上げてはいけないと習っていたから上手く対応出来た。

「……本当に10歳か?」

「アマンダは間違いなく10歳の令嬢です。赤子の時に会いに来たでしょう。忘れてしまったのですか?」

「いや、分かってはいたのだが……あまりにその……大人びておるので……」

「アマンダは優秀ですから。で、肝心の主役は何処に行ったんですか?」

「すまん。今呼んでおる」

「アルフレッド殿下は今回の縁談を嫌がっておられのですかな? 年下の娘など好みではないのでしょう。殿下のご意向に逆らう訳には参りません。アマンダ、失礼にならないように帰ろう」

「ま、待ってくれ!」

「待たん」

国王陛下に不敬じゃない? 大丈夫なの? お父様!

「お父様。もう少し待ちませんか?」

「アマンダ嬢は良い子だな! お前とは大違いだ!」

「アマンダが良い子なのは当然だろ!」

お父様と国王陛下は、ずいぶん仲が良さそうだ。まるで戯れあっている子どものように見える。

「あの、お父様と国王陛下は……旧知の間柄なのですか?」

「そうなのだ。アマンダ嬢の父上は凄いんだぞ。ワシの侍従の中でも、とびきり優秀だったんだ」

「お父様が?」

「侍従がどんどん辞めたから仕方なくやったんだ!」

なるほど。お父様が今回を話を嫌々ながらも受けた理由が分かった。王家の罠かもしれないなんて、考え過ぎだったわね。

「大体、お前は王の癖に脇が甘い!」

「すまん……。まさか王家の名を使ってアマンダ嬢に婚約を打診するとは思わなかったんだ……」

「私が王に直接確認すると言わなければ、押し切られるところだったんだぞ! 今回だってうちの優しい優しいアマンダが会ってもないのに断るなんて失礼だと言うから来たんだ! 今日じゃなければ、顔合わせなんて来なかった!」

「王妃が確実に不在だからな。安心しろ。今日の事を知っているのはワシと信用出来る者だけだ」

「でなければ来なかったと言っただろ! 王の不在時に王子の婚約を打診するなんて分かりやすい事を許す体制がまずおかしい! 早急になんとかしろ! 王妃様は、私が断っても受けても益があると考えたのだろう。上手くかわしたから良かったが、我が家の跡取りはお冠だぞ。自分の妻の動向くらい把握しておけ」

えーっと……この会話から察するに、わたくしの予想はあながち間違ってなかったみたいね。国王陛下は違うけど、王妃様とお父様はあまり親しくはなさそう。

王妃様のご実家は公爵家。あまり貴族の人間関係は知らないけど、競い合っていて仲が良くないのかもしれない。

「今日は王妃が里帰りしているから邪魔される事はない。単刀直入に言うぞ。王妃が珍しく良い仕事をしたと思っておる。ワシは、アルフレッドとアマンダ嬢の婚約を望んでいる」
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