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22.瓜二つ
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ガンツが隊長になってから数ヶ月が過ぎた。シルビアに毎月挑戦していたガンツは、2ヶ月前に第三騎士団を引き連れて遠征に行ったままだ。
転移の魔法は誰でも使えるわけではない。
騎士団で転移を使える者は少ない。第三騎士団はガンツの訓練により魔法も強化されてきているが、それでも半数程度しか転移魔法を使えない。
転移魔法を他人に使える者となるとさらに少ない。第三騎士団で転移魔法を他人に使えるのはガンツ以外に数名しかいない。その為、隊の移動は馬や徒歩になる。
シルビアなら第三騎士団をまとめて転移できるが、あまり目立つことをして他国に知られたくない。そのため、シルビアは何もできずガンツ達を見送るしかなかった。
「寂しいわ」
遠征に行く数日前、ガンツはシルビアに挑んだ。5時間にも及ぶ激闘の末、かろうじてシルビアが勝利した。
帰って来たら、必ず勝つと言い残して去ったガンツの後ろ姿を、シルビアはずっと眺めていた。
今も部屋でため息を吐きながら、ガンツの事ばかり考えている。
「今は何をなさっているのかしら。魔法で……ううん、ダメダメ! そんな事したら嫌われてしまうわ!」
シルビアは魔法で第三騎士団の位置を把握できるし、魔道具を使わなくてもガンツと通信魔法で話せる。
だが、通常は魔力を魔道具に認識させて通信魔法を使うのに、魔道具も使わずいきなり通信魔法を使ったら不審がられてしまう。
例えるなら、住所を教えていない者が突然家に訪ねてくるようなものだ。
ガンツに嫌われたくないシルビアは、魔法を使いたくてたまらないが我慢していた。
我慢し過ぎたせいで、後にシルビアは暴走するのだが……今は誰も知らない。
「いけない。今日は外交の仕事があるのに。こんな顔をしていたら失礼だわ」
身だしなみを整えて、目を閉じる。集中力を高めて、王女の仮面を被る。
黙って歩いていれば、誰もが見惚れる美しい王女様の完成だ。
シルビアは兄と共に、仕事に向かう。
「はじめまして。シルビア・フォン・カワードと申します」
本日シルビアが交流するのは、スコデラリオ帝国の王太子夫婦だ。大陸で一番多くの領土を持っているスコデラリオ帝国は、魔法の先進国。王太子の妹も優秀な魔法の使い手だと噂になっている。
王太子は偉そうな態度で、シルビアを舐めるように眺める。大国の王太子は、多少失礼な態度をとっても許される。
ライオンは、ドラゴンに睨まれたら動けなくなる。先に挨拶を済ませていたフィリップは怒りを抑えて、穏やかに微笑む。
フィリップの心を知ってか知らずか、帝国の王太子はシルビアに話しかけた。
「アレックス・ オブ ・スコデラリオだ。君が噂のシルビア王女か。これは妻のアグネスだ」
黙って頭を下げる王太子妃は、ツンと澄ました顔をしていた。シルビアとフィリップは顔を見合わせる。
フィリップが、そっと親指を握る。
幼い時に決めた合図で、精霊が警告しているとシルビアに伝える。
どこか芝居がかった王太子の態度と必要以上に冷たい王太子妃に黙って付き従うフードを被った王太子の従者。フードの男が発する嫌な気配を感じたシルビアは、思わず男に目を向けた。
シルビアの視線を感じた従者が顔を出してシルビアに笑いかける。
その瞬間、シルビアは身体を強張らせた。
従者の顔は、驚くほどガンツに似ていた。
転移の魔法は誰でも使えるわけではない。
騎士団で転移を使える者は少ない。第三騎士団はガンツの訓練により魔法も強化されてきているが、それでも半数程度しか転移魔法を使えない。
転移魔法を他人に使える者となるとさらに少ない。第三騎士団で転移魔法を他人に使えるのはガンツ以外に数名しかいない。その為、隊の移動は馬や徒歩になる。
シルビアなら第三騎士団をまとめて転移できるが、あまり目立つことをして他国に知られたくない。そのため、シルビアは何もできずガンツ達を見送るしかなかった。
「寂しいわ」
遠征に行く数日前、ガンツはシルビアに挑んだ。5時間にも及ぶ激闘の末、かろうじてシルビアが勝利した。
帰って来たら、必ず勝つと言い残して去ったガンツの後ろ姿を、シルビアはずっと眺めていた。
今も部屋でため息を吐きながら、ガンツの事ばかり考えている。
「今は何をなさっているのかしら。魔法で……ううん、ダメダメ! そんな事したら嫌われてしまうわ!」
シルビアは魔法で第三騎士団の位置を把握できるし、魔道具を使わなくてもガンツと通信魔法で話せる。
だが、通常は魔力を魔道具に認識させて通信魔法を使うのに、魔道具も使わずいきなり通信魔法を使ったら不審がられてしまう。
例えるなら、住所を教えていない者が突然家に訪ねてくるようなものだ。
ガンツに嫌われたくないシルビアは、魔法を使いたくてたまらないが我慢していた。
我慢し過ぎたせいで、後にシルビアは暴走するのだが……今は誰も知らない。
「いけない。今日は外交の仕事があるのに。こんな顔をしていたら失礼だわ」
身だしなみを整えて、目を閉じる。集中力を高めて、王女の仮面を被る。
黙って歩いていれば、誰もが見惚れる美しい王女様の完成だ。
シルビアは兄と共に、仕事に向かう。
「はじめまして。シルビア・フォン・カワードと申します」
本日シルビアが交流するのは、スコデラリオ帝国の王太子夫婦だ。大陸で一番多くの領土を持っているスコデラリオ帝国は、魔法の先進国。王太子の妹も優秀な魔法の使い手だと噂になっている。
王太子は偉そうな態度で、シルビアを舐めるように眺める。大国の王太子は、多少失礼な態度をとっても許される。
ライオンは、ドラゴンに睨まれたら動けなくなる。先に挨拶を済ませていたフィリップは怒りを抑えて、穏やかに微笑む。
フィリップの心を知ってか知らずか、帝国の王太子はシルビアに話しかけた。
「アレックス・ オブ ・スコデラリオだ。君が噂のシルビア王女か。これは妻のアグネスだ」
黙って頭を下げる王太子妃は、ツンと澄ました顔をしていた。シルビアとフィリップは顔を見合わせる。
フィリップが、そっと親指を握る。
幼い時に決めた合図で、精霊が警告しているとシルビアに伝える。
どこか芝居がかった王太子の態度と必要以上に冷たい王太子妃に黙って付き従うフードを被った王太子の従者。フードの男が発する嫌な気配を感じたシルビアは、思わず男に目を向けた。
シルビアの視線を感じた従者が顔を出してシルビアに笑いかける。
その瞬間、シルビアは身体を強張らせた。
従者の顔は、驚くほどガンツに似ていた。
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