上 下
22 / 25

21.隊長

しおりを挟む
 第三騎士団は、隊長不在のまま1カ月の時が過ぎた。

 騎士団長と隊長達は何度も会議を重ね、ようやく第三騎士団の新しい隊長が決まった。

 自分には関係ないだろうといつも通りの訓練と見回りの仕事を行っていたガンツは、仕事を終えると騎士団長から呼び出された。

 言われるまま騎士団長の執務室に行ったガンツを笑顔で迎え入れたのは、騎士団長と国王、それからフィリップだった。

「来たか」

「はっ」

「単刀直入に言おう。ガンツ、第三騎士団の隊長を引き受けてくれないか?」

 団長の依頼に、ガンツは戸惑いながら返事をする。

「……私が、ですか? しかし私はまだ入隊して日が浅いので……」

「引き受けて貰わんと困る。第三騎士団をまとめられるのはガンツだけだ。見ろ、これを」

 フィリップが取り出したのは、分厚い署名。ガンツを隊長に推す第三騎士団の隊員達の名が署名されている。

「全員だぞ。全員。これでも引き受けないのなら、ガンツに騎士団長の地位を譲る」

 騎士団長の脅しに近い説得に、ガンツは頷くしかなかった。

「分かりました。お引き受けします」

「いっそ団長になってもらっても良かったのだが」

「私のような未熟者には務まりません」

「団長、当てが外れたね」

「だから言ったではないか。ガンツは地位を求めているのではないと」

 フィリップと国王が笑うと、騎士団長は苦笑いした。

「しかしですな……私はガンツに勝てません」

「そんなの分かってるよ。強さだけを求めるのなら、シルビアが騎士団長さ。けど、あの子に騎士団長が務まると思うかい?」

「王女殿下はとてもお強いですし、頭も良いです」

「知ってるよ。けど、あの子は自分を鍛える事はできても周りを強くする力はない」

「シルビア様の訓練にはついていけませんから……その……」

「その通り。その点、団長は違う。ねぇ父上」

「うむ。まだまだ引退はさせん」

「ありがたきお言葉。今後も精進します」

「頼むぞ。これから騎士団は変わる。ガンツには先駆者になって欲しい。第三騎士団は問題ないだろうが、全ての騎士達の理解が得られている訳ではない。きっと苦労する。それでも、やって欲しい」

「ここまで時間がかかったのも、私の隊長就任を反対する声があったからですよね?」

「当たりだよ。だから身の回りに気をつけておいてくれ。ま、ガンツをどうにかできる人間はシルビアしかいないけどさ」

「シルビア様はお強いですから」

「あの子も、色々言われてるよ。でも負けてない」

「私も、負けません」

「頼もしいね。期待してるよ。隊長殿」

 次の日、ガンツの隊長就任が発表された。第三騎士団は大喜びしたが、反発する者もたくさんいた。

 だが、カンツは時間をかけて反発する者たちと打ち解けていった。第三騎士団の元隊長であるリオンも、牢獄から出され第三騎士団に戻って来た。

 降格されたのに傲慢な態度を改めないリオンは隊員達から冷たくあしらわれていたが、ガンツが気を回して徐々に隊に溶け込んでいった。

 隊長になったガンツは、優しいだけの男ではなくなった。最後の仕上げとばかりに模擬戦でリオンをコテンパンにしたのだ。

 ガンツの訓練を受けた第三騎士団は変わり、リオンは新人隊員にすら勝てず、地面を舐め続けた。

 いつの間にか誰よりも弱くなっていると気付いたリオンは、初心を取り戻し訓練に励むようになり、次第に仲間達に受け入れられ、副隊長に就任してガンツを支えている。

 騎士団は実力がないと出世しない組織。そこで隊長を務めていたリオンの能力は高く、ガンツはリオンを信頼して共に仕事をしている。

 受け入れてくれたガンツの懐の深さに惚れ込んだリオンは、仲間と酒を飲みながらガンツの良さを語り合うようになった。

 隊がまとまると、次々と任務が舞い込む。

 補欠と揶揄されていた第三騎士団は騎士団の中でも指折りの優秀な部隊に成長を遂げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

褒美だって下賜先は選びたい

宇和マチカ
恋愛
お読み頂き有り難う御座います。 ご褒美で下賜される立場のお姫様が騎士の申し出をお断りする話です。 時代背景と設定をしっかり考えてませんので、部屋を明るくして心を広くお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿しております。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...