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16.黒幕は?
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フィリップが手紙を見せる前に、シルビアが結界を作った。これで、話は外に漏れない。今回シルビアが作った結界は危険のない、安全な結界だ。
フィリップが開いた手紙には筆頭公爵家の嫡男、ロベルトの名が記されていた。便箋と封筒は、フィリップの魔法で跡形もなく燃やされた。
「ロベルト……最初にわたくしに挑んだ殿方ですね。確かあのあと、リリアーナ様と婚約しましたよね?」
リリアーナは侯爵令嬢で、家格はロベルトより低いが評判の良い令嬢だ。
「つい先日、一方的に婚約解消を言い渡されたらしい。リリアーナ嬢は理由が分からず塞ぎ込んでいるそうだ」
「リリアーナ様は素晴らしいご令嬢なのに。ずいぶん勝手な男だったみたいですね」
「素行調査では問題なかったのだがな。やはりシルビアに相応しいのはガンツだけだな」
「こ、光栄です。頑張ります」
「嬉しいです。その為にも邪魔者には消えて頂かないと。お父様のご意見は?」
「我らの好きにせよとの仰せだ。取り潰すか、跡取りを挿げ替えるかだな。家ぐるみの謀で、ロベルトは親の傀儡だ。家督を継いだくせに、自分の意思がない。だから安心して継がせたのだろうが……子は親の傀儡ではない。正直、俺はあの家を取り潰したい。だが、貴族間のバランスが崩れるのは困るし、継げる者はロベルト以外に思い当たらない」
「あそこは一人息子ですものね。親類縁者にも後継ぎになれそうな器の者はおりませんし……ロベルト様が改心すれば良いのですけど……そうだ! お兄様、わたくし試してみたい事がありますの」
「なにを企んでいる」
「あら、企んでなんかいませんわ。ガンツ様はロベルト様をご存知ですか?」
「リオン隊長から名はよく聞きました。ただ、よくある名前ですし同じ人物とは言い切れません」
「おそらく同じ人物だろう。リオンはもう隊長ではないぞ」
「まさか、今回の件で降格ですか?」
「国家反逆罪に問えるかもしれんから、幽閉してある」
「国家反逆罪?! なぜ?!」
「ロベルトは俺を排除してシルビアを女王にしようとしたんだ。そして、王配として権力を握ろうと考えた。だからシルビアに求婚するガンツが邪魔になったんだ。ガンツが死ねば、次は俺だった。国を乗っ取ろうとしたのだから、国家反逆罪。本来は問答無用で死刑だが、この件を表沙汰にするのはまずいんだ。第二、第三のロベルトを生んでしまう。まぁ……リオンはそこまで考えてなかったようだが。ロベルトに利用されたのだろう」
「なるほど。シルビア様にも王位継承権がある。しかし、王太子殿下が優秀で、シルビア様が女性だから周りは気が付かなかった。事件を表沙汰にすると、よからぬ事を考える者を増やしてしまうのですね」
「その通りだ。気付いている奴等はシルビアに擦り寄っているが、数が少ないから簡単に対処できる。しかし、こんな事件を公にしたら面倒なヤツらが何十倍にも増えてしまう」
「確かに……オレも今初めて気が付きましたからね。ところで、リオン隊長も私を殺そうとしたんですか?」
「ロベルトはそのつもりだったみたいだね」
「その言い方……リオン隊長はそんなつもりなかったんですね?」
「そうさ。彼はガンツの実力を理解していた。少し怪我はするかもしれんが、死ぬなんてありえないと思っていたそうだ。大怪我すらないだろうとな。面子を潰したかっただけのようだ」
「そうですか……」
「あちらが一方的にガンツの実力に嫉妬していただけだ。気にするな」
「お気遣い頂きありがとうございます」
「相変わらず礼儀正しいな。あの時のように接してくれて構わないのに。シルビアは全て知っている。今更かっこつける必要はないぞ。師匠」
「え?」
「ガンツは俺達の師匠だ。なぁ、シルビア」
兄の意図が分からず、シルビアは目を瞬かせる。
「……その、シルビア様は私が昔、ご兄弟と1日だけ修行したと知っておられるのですか?」
「も、もちろんですわ!」
ようやく兄の意図を察したシルビアは、あの時の少年は自分だと打ち明けようとした。
フィリップが開いた手紙には筆頭公爵家の嫡男、ロベルトの名が記されていた。便箋と封筒は、フィリップの魔法で跡形もなく燃やされた。
「ロベルト……最初にわたくしに挑んだ殿方ですね。確かあのあと、リリアーナ様と婚約しましたよね?」
リリアーナは侯爵令嬢で、家格はロベルトより低いが評判の良い令嬢だ。
「つい先日、一方的に婚約解消を言い渡されたらしい。リリアーナ嬢は理由が分からず塞ぎ込んでいるそうだ」
「リリアーナ様は素晴らしいご令嬢なのに。ずいぶん勝手な男だったみたいですね」
「素行調査では問題なかったのだがな。やはりシルビアに相応しいのはガンツだけだな」
「こ、光栄です。頑張ります」
「嬉しいです。その為にも邪魔者には消えて頂かないと。お父様のご意見は?」
「我らの好きにせよとの仰せだ。取り潰すか、跡取りを挿げ替えるかだな。家ぐるみの謀で、ロベルトは親の傀儡だ。家督を継いだくせに、自分の意思がない。だから安心して継がせたのだろうが……子は親の傀儡ではない。正直、俺はあの家を取り潰したい。だが、貴族間のバランスが崩れるのは困るし、継げる者はロベルト以外に思い当たらない」
「あそこは一人息子ですものね。親類縁者にも後継ぎになれそうな器の者はおりませんし……ロベルト様が改心すれば良いのですけど……そうだ! お兄様、わたくし試してみたい事がありますの」
「なにを企んでいる」
「あら、企んでなんかいませんわ。ガンツ様はロベルト様をご存知ですか?」
「リオン隊長から名はよく聞きました。ただ、よくある名前ですし同じ人物とは言い切れません」
「おそらく同じ人物だろう。リオンはもう隊長ではないぞ」
「まさか、今回の件で降格ですか?」
「国家反逆罪に問えるかもしれんから、幽閉してある」
「国家反逆罪?! なぜ?!」
「ロベルトは俺を排除してシルビアを女王にしようとしたんだ。そして、王配として権力を握ろうと考えた。だからシルビアに求婚するガンツが邪魔になったんだ。ガンツが死ねば、次は俺だった。国を乗っ取ろうとしたのだから、国家反逆罪。本来は問答無用で死刑だが、この件を表沙汰にするのはまずいんだ。第二、第三のロベルトを生んでしまう。まぁ……リオンはそこまで考えてなかったようだが。ロベルトに利用されたのだろう」
「なるほど。シルビア様にも王位継承権がある。しかし、王太子殿下が優秀で、シルビア様が女性だから周りは気が付かなかった。事件を表沙汰にすると、よからぬ事を考える者を増やしてしまうのですね」
「その通りだ。気付いている奴等はシルビアに擦り寄っているが、数が少ないから簡単に対処できる。しかし、こんな事件を公にしたら面倒なヤツらが何十倍にも増えてしまう」
「確かに……オレも今初めて気が付きましたからね。ところで、リオン隊長も私を殺そうとしたんですか?」
「ロベルトはそのつもりだったみたいだね」
「その言い方……リオン隊長はそんなつもりなかったんですね?」
「そうさ。彼はガンツの実力を理解していた。少し怪我はするかもしれんが、死ぬなんてありえないと思っていたそうだ。大怪我すらないだろうとな。面子を潰したかっただけのようだ」
「そうですか……」
「あちらが一方的にガンツの実力に嫉妬していただけだ。気にするな」
「お気遣い頂きありがとうございます」
「相変わらず礼儀正しいな。あの時のように接してくれて構わないのに。シルビアは全て知っている。今更かっこつける必要はないぞ。師匠」
「え?」
「ガンツは俺達の師匠だ。なぁ、シルビア」
兄の意図が分からず、シルビアは目を瞬かせる。
「……その、シルビア様は私が昔、ご兄弟と1日だけ修行したと知っておられるのですか?」
「も、もちろんですわ!」
ようやく兄の意図を察したシルビアは、あの時の少年は自分だと打ち明けようとした。
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