強すぎる王女様は、強い夫をご所望です

編端みどり

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「シルビア! いい加減にしろ! また貴族が泣きながら謝罪に来たぞ! 分かってるが聞くぞ! 今度は何をやったんだ?!」

「……えっと……いつもの魔法を使っただけです」

 そっと目を伏せる妹は愛らしい。彼女の夫ならば、仕方ないなと笑って許すだろう。

 しかし、兄は許さない。

「やりすぎるなと言っただろう!」

「だって許せないんですもの! 周りに見えるように透明な結界を使ってお話し合いをしただけです! それに、あの方達は民から搾り取る事しか考えておりませんのよ! だから意味の分からない嘘を広めるのですわ! わたくしの旦那様は世界一素敵な方なのに!」

「それは認める! だが、わざわざ魔法を張り巡らせて夫の陰口を言った者を探そうとするな!」

「うー……お兄様の頑固者! それに、わたくしはもう……」

「言いたいことは分かる。だが、シルビアが俺達の身内で、大事な妹であることは変わらない。そんな目をしてもダメだからな! 少し大人しくしてろ! でないと、またシルビアが狙われるだろう! アレックスと連絡が取れない。今後シルビアに動いてもらう事が増えるから、シルビアの力を過小評価してもらった方が動きやすいんだ。しばらく貴族達を怯えさせるのはやめてくれ」

「もう。でしたらそう言えばよろしいのに。早速あちらに潜入しますわね」

「待ってくれ。明日、アレックスの妹が来る。どうやら彼女の転移魔法なら、2日でうちまで来られるようだ」

「2日ですか。驚異的ですね。アレックス様は半月かかったとおっしゃっていたのに」

「恐ろしいよ。彼女はシルビアよりも強いかもしれん。あの箱も開ける必要があるだろう。シルビアは箱を持ってあのお方の所へ行け。第三騎士団も動かしていい。命令は出してある」

「お兄様、まさかと思いますけど、わたくしを避難させようとしていますか? 結婚したとはいえ、わたくしは……!」

「それもあるが、一番はシルビア……こちらの最大戦力を敵に見せたくないんだ。シルビアなら、どこにいても俺の様子を確認できるだろう? 状況に応じて助っ人を呼んで欲しいんだよ」

「ああ、なるほど。確かにあの方なら、ご協力頂けるかもしれませんね」

「……脅すなよ。絶対にひとりで行くなよ!」

「それはつまり、旦那様と一緒に行けということですか?」

「そうだ。時間がないから、最短ルートで転移しろ」

「かしこまりました! お兄様、わたくし転移魔法の訓練を進めておりますの。あの方の所までなら1回で到着できますわ」

「いつの間に……さすがだな。シルビアの魔法はうちの最大戦力だ」

「あら、我が国の最大戦力は旦那様ですよ」

「そうだったな」

 兄は精霊の加護を持つ、ちょっぴり腹黒い王太子。
 妹は家族思いで、魔法と武術を修めた国で一番強い王女……だったのはつい先日まで。

 強すぎる王女は、強く素敵な男性と結婚した。

 王女の物語は、ある日の深夜……。
 城を抜け出すところから始まる。
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