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改稿版

36-2 マックス視点2

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だから図書館で彼を見た時、思わず逃げちまった。エルザに害がないように、騒いで警備員に止められねぇように魔法を使い、こっそり見ていた。エルザがもしシモン様を選ぶなら、全力でなんとかしよう。そう思っていた。けど、エルザはシモン様の事なんて、全く気にしていなかった。

涙目で俺の事を追いかけて来た。俺の顔を見て喜んでるエルザは可愛かった。心を読んでしまいたかったがなんとか我慢した。

身体を魔力で維持しているせいで、心を読む魔法を使うと無条件で周りに居るヤツらの心の声が全て聞こえてくる。図書館で使ったら、大勢の人の心を読んで、確実に俺は死ぬ。俺の身体じゃ、あの魔法の制御に時間がかかると知ったのはジェラールの本心を知りたくて初めて魔法を使った日だ。あの日はジェラールとエルザしかいなかったから良かったけど、ジェラールの本心を読もうとしたのにエルザの気持ちまで聞こえてきて焦った。魔法を止めるまでに30分もかかった。あ、この魔法は使えねぇわ。そう思った。落ち着いてから平静を装いエルザをテレーズ様の元に送り届け、ダッシュで隠れ家に帰った。帰った瞬間、身体が動かなくなった。

掌が透けて、身体が薄くなった。慌てて大事にしてた師匠の遺産を使って魔力を回復させた。一生使うつもりのなかった品だが、勿体無いとも思わなかった。

いつ死んでも良い。死んだら師匠に会えるかもしれねぇ。そう思っていたが、死にたくねぇ、生きたいと願って魔力回復薬を飲んだ。

そしたら、夢に師匠が出て来た。

昔と変わらない姿で、俺に笑いかけてくれた。いい男になったなと、褒めてくれた。だが、その後目を吊り上げて叱られた。遺産なんて燃やすなり使うなり売るなり勝手にしろ。あんなもん大事でもなんでもない。それより、さっさとエルザに告白しろと言い残して師匠は消えた。

ああ、やっぱ俺は師匠が好きだ。そう思った。けど、今はエルザの方が好きなんだと自覚した。だって、すぐにエルザの顔が浮かんだんだから。

エルザがジェラールを選ぶなら、俺はあの魔導書をジェラールに渡すつもりだった。ジェラールは王太子だ。エルザの特殊能力を隠し切るのは無理だろう。エルザを守るには、あの魔法が絶対に要る。貴族や王族なんて、一部を除いて嘘吐きばっかりなんだから。一部を除いて、と思えるようになったなんて俺も変わったなと思う。全部エルザのおかげだ。

ジェラールなら、魔法を使っても俺みたいに消える事はない。200年大事にしてた師匠の遺産を渡す準備はしてあった。

けど、エルザは俺を選んでくれた。

昨日エルザが気を失った後、俺は大事にしてた師匠の遺産を……この世にひとつしかない魔導書を、燃やした。

これで、心を読む魔法は使えなくなる。

使い切らずに魔導書を燃やしちまえば魔法を忘れるようになってる。便利な魔法だし、つい使っちまうかもしれねぇからな。エルザは、魔法を使わないで、俺に側に居て欲しいと泣いた。だから、万が一にでも使わないように、魔法を使えなくした。

いつ死んでも良いなんて二度と思わねぇ。エルザと一緒に、もっと生きるんだ。
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