上 下
4 / 55
改稿版

4.さようなら

しおりを挟む
すぐに部屋に忘れ物をしたと言って戻り、すべての荷物をブレスレットに収納しました。

わたくしとお姉様を会わせてくれた使用人はお姉様に忠実です。部屋の中が空っぽである事はしばらくバレないでしょう。

ブレスレットに小鳥を収納し、服の中に隠し鞄だけを持って、両親と兄に挨拶をします。

「ふん、荷物はそれだけか」

「持ちきれませんので」

「さっさと出て行け。お前は私の娘ではない」

「そうね、わたくし達の子は2人よ」

「承知しております。お世話になりました。最後に部屋の荷物の持ち出しを許可頂いた事、感謝しております。どうか、お元気で」

「挨拶はいい、早く、出て行け」

「はい。今までありがとうごさいました。わたくしの15年間が、たった一瞬で消え去ったのは残念でなりません。わたくしの家族は、お姉様だけです。わたくしがやりかけている仕事の引き継ぎは出来ておりませんが、勘当されたらやる義務もありませんわよね。皆様が困ろうとどうしようと、感知致しませんわ」

未来の王妃だからと、過酷な日々を送っておりました。その傍ら、お兄様やお父様のお仕事をお手伝いしたりもしていました。

でも、わたくしはもう不要なんですものね。先程までは寂しかったのですがなんだか吹っ切れてしまいました。今は、物凄く腹立たしい気持ちなのです。

魔力検査が行われるまでは、魔力のあるなしは判明しません。それなのに、わたくしの部屋には大量の魔法の本がありました。

全て、両親と兄のプレゼントです。わたくしも読み込んでおりましたから、内容は覚えております。

お姉様だけは、魔力検査の結果が分かるまでは必要ないと仰っていました。今ならお姉様の優しさが分かります。

お姉様だけはわたくしを普通の妹として可愛がってくれました。両親も、兄も、次期王妃だから魔法の知識は幼い頃から覚えておくべきだと言って魔法の話ばかりでした。面倒な仕事は、王妃教育の一環だとわたくしに押し付けて魔力提供をした際に貰える奨励金で遊んでばかり。

お姉様が魔力検査で最高値を記録した時も、さすが私の娘、俺の妹としか言ってませんでした。

わたくしもお姉様も、価値は魔力量だけだったのでしょう。

シモン様とも仲良くしていたつもりでしたが、考えてみればわたくしがどんなに王妃教育が辛いと言っても、王妃になるなら当然だとしか仰いませんでした。

王妃教育が上手くいけばお優しかったので誤解していましたが、両親、兄、王家やシモン様にとっては、わたくしは都合の良い道具だったのでしょう。

道具に不備が見つかれば捨てる。それだけ。

捨てられて良かったですわ。仕事も、王妃教育もしなくて良いのですものね。

王家の機密事項は成人してから学びますが、その他の一般技能や語学、政治などは幼い頃から叩き込まれました。

幼い子どもには辛い日々でした。それも、全てシモン様のお役に立つ為。

わたくしは、シモン様を心からお慕いしておりました。シモン様は、普段は厳しいですがお優しい時もありました。

シモン様の優しさは気まぐれでした。優しくされると天にも昇る気持ちでしたわ。

でも、思い返せばシモン様がお優しかった時はいつもわたくしが何かをした時でした。

やりたくない仕事をわたくしが代わりにやった時。

探していた魔法の本をプレゼントした時。

……なんだ、わたくしはシモン様に愛されてはおりませんでしたのね。

ジェラール様が、わたくしはシモン様に尽くしていたと仰いましたが、確かに周りから見ればわたくしは物凄くシモン様に尽くしていたのでしょう。

今思えばどうしてあんな男に尽くしてしまったのでしょうか。

……ああ、王妃教育のせいですね。シモン様を支え、シモン様の願いを実現するのが王妃の仕事だと……教わりましたもの。

だから、シモン様が嫌がってやらない公務も必死で学んで代行しました。シモン様はとてもお優しくて、わたくしが婚約者で良かったと笑っておられました。

だから、頑張ってしまったのです。大好きなシモン様のお役に立ちたい、それだけの気持ちでした。

失礼ですが、わたくしの方がシモン様より公務が出来ます。シモン様は、魔法の本を読む事が大好きで、いつもこれは一番大事な仕事なんだと仰っていました。そんなシモン様の為に、わたくしがシモン様の仕事を請け負っていました。

知ってるのは宰相様だけですけど、これからシモン様はご苦労なさるでしょうね。でも、助けようとは思いません。

愛とは、こんなに簡単に冷めてしまうのですね。

両親や、お兄様を愛しておりました。プレゼントされた魔法の本を、言われた通り暗記する程に。でも、両親やお兄様への気持ちも冷めてしまいましたわ。

……もう親でも兄弟でもない……そう言われましたもの。

呆然としている元家族に、決別の意を込めて呼びかけます。

「パスカル公爵、パスカル公爵嫡男、パスカル公爵夫人、わたくしに押し付けていた仕事や、社交界の情報収集頑張って下さいませ。ああ、お姉様はわたくしと違って魔力が潤沢ですから、魔力なしのわたくしが出来ていた仕事を押し付けたりなさいませんように。でないと、お姉様もこの家を出て行ってしまわれますわよ」

実際、お姉様ならあっさりこの家を出て行けます。お姉様を止められる程の魔力がある人は居ないし、魔力をある程度献上している者は、王家に願いを叶えて貰う事も出来ます。全てではありませんが、家から縁を切って好きな殿方と婚姻するくらいは叶うでしょう。

お姉様はあんなに魔力を提供しておりましたもの。後でご提案してみましょう。

「「「なっ……」」」

あら、鳩が豆鉄砲を喰らったようなお顔をなさっておられますね。これくらいの嫌味、受け止めて下さいませ。

「お姉様! わたくしの家族はお姉様だけですわ!」

最後に大声で叫び、元家族に背を向けます。

わたくしこれからは、誰の助けも借りず強く生きないといけないのですから。

ドアを閉めて駆け出しました。

怒鳴り声が聞こえますが気にしません。だって、もうわたくしはこの家の娘ではないのですから。

婚約者に捨てられ、親にも兄弟にも捨てられましたが、お姉様はわたくしを助けようとしてくれました。

ジェラール様も、庇って下さいました。

2人、味方が居ただけで充分です。元々敵だらけの王妃教育をしてきたのです。この程度、乗り切ってみせますわ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】自業自得の因果応報

仲村 嘉高
恋愛
愛し愛されて結婚したはずの夫は、モラハラDVな最低男だった。 ある日、殴られて壁に体を叩きつけられ、反動で床に倒れて頭を打ったマリアンヌは、その衝撃で前世を思い出した。 日本人で、ちょっとヤンチャをしていた過去を持った女性だった記憶だ。 男尊女卑の世界に転生したにしても、この夫は酷すぎる。 マリアンヌは、今までの事も含め、復讐する事に決めた。 物理で。 ※前世の世代は、夜露死苦な昭和です(笑)

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【完結】貴方が嫌い過ぎて、嘘をつきました。ごめんなさい

仲村 嘉高
恋愛
侯爵家の長女だからと結ばれた、第二王子との婚約。 侯爵家の後継者である長男からは「自分の為に役に立て」と、第二王子のフォローをして絶対に逆らうなと言われた。 嫌なのに、嫌いなのに、第二王子には「アイツは俺の事が好きだから」とか勘違いされるし 実の妹には「1年早く生まれただけなのに、王子様の婚約者なんてズルイ!」と言われる。 それならば、私よりも妹の方が婚約者に相応しいと周りに思われれば良いのね! 画策した婚約破棄でも、ざまぁっていうのかな? そんなお話。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

処理中です...