10 / 35
10.危険もある
しおりを挟む
「ロバート様! このお花、綺麗です!」
「よし、買おう。すまんが後で屋敷に届けてくれ」
「まいどあり。領主様良かったねぇ、仕事柄王都で貴族のお嬢様と話す事もあるけど、こんなに気さくで領主様を褒めちぎってくれる女性は見た事ねぇや。良い人と結婚なさいましたね」
「うむ」
何度目か分からなくなった賛辞に少しだけ慣れてきた頃、市場の奥にある住宅街から女性の泣き声が聞こえた。
その瞬間、ロバート様の表情が厳しいものに変わる。
「聞き覚えのない声だな」
「最近越して来た一家でさぁ。年頃の娘2人と親父の3人暮らしなんだけど、たまに泣き声がするんですよ。とはいえ、騒いでる様子もないし娘達はたまに出てきてるし、親父は人当たりも良いし……ま、親子喧嘩くらいしますよね」
「……ふむ。親子なんだな?」
「みたいっすよ。母親はいなくて父親ひとりで姉妹を育ててるみたいでさぁ。色々ありますよね。肌が弱いとかで、フードを被ってるからあんまり顔が見えないんですけど、ありゃ結構美人だと思いますぜ。あ、もちろん奥方様の方が美しいですけど」
「マリアは可愛いし、美しいからな」
「ごちそうさまです。年頃の娘が心配なのか、父親は姉妹にベッタリですよ。なんかよくわかんねえけど、腕のいい職人らしくてね。父親の作るものを買いにしょっちゅう商人が出入りしてます。商人も、あの親父を追っかけて来たみたいでここらでは見かけねぇんですよ。けど、安く品を譲ってくれたりするいい奴らですよ」
「……姉妹の年齢は?」
「正確には分かりませんけど、2人とも成人しているように見えました。姉は挨拶くらいしてくれますけど、妹は一言も話しませんね」
「そうか。腕のいい職人なら一度会ってみよう。うちも頼み事をしたいからな」
「おお、ぜひ声をかけてやって下さい。気さくないいやつですよ」
店主と別れて人目がつかない所に行くと、ロバート様が口笛を吹いた。すぐに目の前にジョージが現れる。
「話は聞いていたな。すぐに調べろ」
「かしこまりました」
「マリア、すまないが」
「お仕事ですね。わたくしはどうすればよろしいですか? 屋敷に帰る方が良いでしょうか?」
「……そうだな。だが、道中の護衛が……」
「どの程度の危険が想定されますか?」
「まだ分からないが、万が一争いになっても精鋭が揃っている。あまり危険はないだろう」
「保護対象は2名ですよね。そこにわたくしが加わっても問題ありませんか?」
「付いてくるつもりか?!」
「ええ。それが一番効率的かと。わたくしは身を守る術がありません。だから、ロバート様のお側が一番安全なのです。お邪魔はしませんし、危険には近寄りません。もちろん、ロバート様の指示に従います。保護対象はわたくしと歳の近い女性です。色々フォローができるかと」
「……分かった。頼りにしている」
「はい! お任せ下さいませ!」
やった! やったわ!
頼りにしてるって、ロバート様が笑ってくれた。っと、いけない。浮かれるのは後よ。
視察の理由が分かった。きっと、さっき話に出た姉妹を探していたんだわ。
しばらくすると、ジョージが現れた。ジョージの顔は真剣そのものだ。
きっと、探していた子たちが見つかったんだわ。今は余裕もないし、あまり詳しく聞くわけにいかないけど、ロバート様は姉妹を探していた。
わたくしの役目は、姉妹の信頼を得て無事保護する事。危険は、ロバート様達が排除してくれる。
「旦那様、調査が終わりました。間違いありません」
「……よし、踏み込むぞ。騒ぎにならぬよう配慮してくれ。表向きは、職人を屋敷に連れて行って話を聞くように見せかける。私はマリアに付く。問題ないな?」
「はい」
「良いのですか?」
「俺は強いので問題ありませんよ。まぁ、旦那様は俺の3倍強いですけど」
「そうなのね。ロバート様、素敵ですわ」
「なっ……! なっ……!」
「ええ、旦那様は素敵な方なのです。旦那様、奥様に危険が及ばないように早急に終わらせます」
ジョージが静かに去り、ロバート様は真っ赤な顔でオロオロしていたけれど、すぐに気持ちを切り替えてわたくしの腕を取って下さった。
「行きましょう。姉妹がもし嫌がった時は、説得を頼みます」
「はい。お任せ下さい」
わたくしに戦う力はない。だけど、他のやり方でロバート様の役に立ってみせるわ。
「よし、買おう。すまんが後で屋敷に届けてくれ」
「まいどあり。領主様良かったねぇ、仕事柄王都で貴族のお嬢様と話す事もあるけど、こんなに気さくで領主様を褒めちぎってくれる女性は見た事ねぇや。良い人と結婚なさいましたね」
「うむ」
何度目か分からなくなった賛辞に少しだけ慣れてきた頃、市場の奥にある住宅街から女性の泣き声が聞こえた。
その瞬間、ロバート様の表情が厳しいものに変わる。
「聞き覚えのない声だな」
「最近越して来た一家でさぁ。年頃の娘2人と親父の3人暮らしなんだけど、たまに泣き声がするんですよ。とはいえ、騒いでる様子もないし娘達はたまに出てきてるし、親父は人当たりも良いし……ま、親子喧嘩くらいしますよね」
「……ふむ。親子なんだな?」
「みたいっすよ。母親はいなくて父親ひとりで姉妹を育ててるみたいでさぁ。色々ありますよね。肌が弱いとかで、フードを被ってるからあんまり顔が見えないんですけど、ありゃ結構美人だと思いますぜ。あ、もちろん奥方様の方が美しいですけど」
「マリアは可愛いし、美しいからな」
「ごちそうさまです。年頃の娘が心配なのか、父親は姉妹にベッタリですよ。なんかよくわかんねえけど、腕のいい職人らしくてね。父親の作るものを買いにしょっちゅう商人が出入りしてます。商人も、あの親父を追っかけて来たみたいでここらでは見かけねぇんですよ。けど、安く品を譲ってくれたりするいい奴らですよ」
「……姉妹の年齢は?」
「正確には分かりませんけど、2人とも成人しているように見えました。姉は挨拶くらいしてくれますけど、妹は一言も話しませんね」
「そうか。腕のいい職人なら一度会ってみよう。うちも頼み事をしたいからな」
「おお、ぜひ声をかけてやって下さい。気さくないいやつですよ」
店主と別れて人目がつかない所に行くと、ロバート様が口笛を吹いた。すぐに目の前にジョージが現れる。
「話は聞いていたな。すぐに調べろ」
「かしこまりました」
「マリア、すまないが」
「お仕事ですね。わたくしはどうすればよろしいですか? 屋敷に帰る方が良いでしょうか?」
「……そうだな。だが、道中の護衛が……」
「どの程度の危険が想定されますか?」
「まだ分からないが、万が一争いになっても精鋭が揃っている。あまり危険はないだろう」
「保護対象は2名ですよね。そこにわたくしが加わっても問題ありませんか?」
「付いてくるつもりか?!」
「ええ。それが一番効率的かと。わたくしは身を守る術がありません。だから、ロバート様のお側が一番安全なのです。お邪魔はしませんし、危険には近寄りません。もちろん、ロバート様の指示に従います。保護対象はわたくしと歳の近い女性です。色々フォローができるかと」
「……分かった。頼りにしている」
「はい! お任せ下さいませ!」
やった! やったわ!
頼りにしてるって、ロバート様が笑ってくれた。っと、いけない。浮かれるのは後よ。
視察の理由が分かった。きっと、さっき話に出た姉妹を探していたんだわ。
しばらくすると、ジョージが現れた。ジョージの顔は真剣そのものだ。
きっと、探していた子たちが見つかったんだわ。今は余裕もないし、あまり詳しく聞くわけにいかないけど、ロバート様は姉妹を探していた。
わたくしの役目は、姉妹の信頼を得て無事保護する事。危険は、ロバート様達が排除してくれる。
「旦那様、調査が終わりました。間違いありません」
「……よし、踏み込むぞ。騒ぎにならぬよう配慮してくれ。表向きは、職人を屋敷に連れて行って話を聞くように見せかける。私はマリアに付く。問題ないな?」
「はい」
「良いのですか?」
「俺は強いので問題ありませんよ。まぁ、旦那様は俺の3倍強いですけど」
「そうなのね。ロバート様、素敵ですわ」
「なっ……! なっ……!」
「ええ、旦那様は素敵な方なのです。旦那様、奥様に危険が及ばないように早急に終わらせます」
ジョージが静かに去り、ロバート様は真っ赤な顔でオロオロしていたけれど、すぐに気持ちを切り替えてわたくしの腕を取って下さった。
「行きましょう。姉妹がもし嫌がった時は、説得を頼みます」
「はい。お任せ下さい」
わたくしに戦う力はない。だけど、他のやり方でロバート様の役に立ってみせるわ。
11
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」
まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。
……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。
挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。
私はきっと明日処刑される……。
死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。
※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。
勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。
本作だけでもお楽しみいただけます。
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】貴方を愛するつもりはないは 私から
Mimi
恋愛
結婚初夜、旦那様は仰いました。
「君とは白い結婚だ!」
その後、
「お前を愛するつもりはない」と、
続けられるのかと私は思っていたのですが…。
16歳の幼妻と7歳年上23歳の旦那様のお話です。
メインは旦那様です。
1話1000字くらいで短めです。
『俺はずっと片想いを続けるだけ』を引き続き
お読みいただけますようお願い致します。
(1ヶ月後のお話になります)
注意
貴族階級のお話ですが、言葉使いが…です。
許せない御方いらっしゃると思います。
申し訳ありません🙇💦💦
見逃していただけますと幸いです。
R15 保険です。
また、好物で書きました。
短いので軽く読めます。
どうぞよろしくお願い致します!
*『俺はずっと片想いを続けるだけ』の
タイトルでベリーズカフェ様にも公開しています
(若干の加筆改訂あります)
変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!
石河 翠
恋愛
完璧な婚約者となかなか仲良くなれないパメラ。機嫌が悪い、怒っていると誤解されがちだが、それもすべて慣れない淑女教育のせい。
ストレス解消のために下町に出かけた彼女は、そこでなぜかいないはずの婚約者に出会い、あまつさえナンパされてしまう。まさか、相手が自分の婚約者だと気づいていない?
それならばと、パメラは定期的に婚約者と下町でデートをしてやろうと企む。相手の浮気による有責で婚約を破棄し、がっぽり違約金をもらって独身生活を謳歌するために。
パメラの婚約者はパメラのことを疑うどころか、会うたびに愛をささやいてきて……。
堅苦しいことは苦手な元気いっぱいのヒロインと、ヒロインのことが大好きなちょっと腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(作品ID261939)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる