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3.妻が可愛すぎる辺境伯【ロバート視点】
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「……昨日も駄目だった」
「またですか。いい加減にして下さい。いつまで奥様を放っておくおつもりですか」
「分かってる、分かってるけど……今日もマリアは私の顔を見て震えていた。きっと私が怖いのだと思う」
「怖がってる女性はあんな顔なさいませんよ。大丈夫です。間違いなく旦那様は奥様から好かれています。誕生日プレゼントは喜んで頂けたのでしょう?」
「ああ。喜ぶマリアは可愛かった……!」
「なぜ、それを直接奥様に伝えないのですか」
忠実な部下の額に青筋が見える。
言いたい事は分かる。だが、小刻みに震えるマリアは可憐で……俺が近寄ったら壊れてしまいそうなんだ。
「嫌われるのが怖いんだ」
「奥様が旦那様を嫌っているなんてありえません。それに、旦那様と話す時の奥様はとても幸せそうです」
「ジョージ、お前はマリアを見るな」
「無茶を言わないで下さい」
子どもの頃から兄弟のように育ったジョージは、私と違い整った顔立ちをしている。しかも優しく親切だからとても人気がある。
お見合い相手が毎回ジョージに見惚れてしまい、自分が主人の見合いの邪魔をしていると感じたジョージはお見合いについて来なくなった。だが、私は女性が苦手なのだ。ジョージが上手く会話の糸口を作ってくれていたから、ジョージがいないと右往左往してしまい、情けないと思われたのかお見合いを断られるようになった。
そんな私を心配して、王太子殿下が結婚相手を探して下さった。お相手は伯爵家のご令嬢。先方は乗り気だと聞いていたが、顔合わせにマリアは来なかった。娘は乗り気だからすぐ結婚しましょうと微笑む伯爵の笑顔が胡散臭く、独自に調べるとマリアは私を望んでいるのではなく、王家の顔を立てるため仕方なく嫁いで来ると分かった。
本来なら、この時点で私から断るべきだった。だが、マリアの絵姿はとても可憐で……一目で良いから会いたいと思ってしまった。伯爵が娘と私を利用して王家と懇意になろうとしているのは分かりきっていたが、マリアと結婚するチャンスを逃すのは惜しいと思った。
幸い、マリアは今までの令嬢のように泣いて嫌がったりせず、粛々と貴族の義務を果たそうとしてくれていた。マリアが少しでも嫌がればすぐ別れよう。そう決意して結婚した。
だが、今はそんな事思えない。結婚式で初めて会ったマリアは絵姿の百倍可憐で、私はマリアに一目惚れしてしまった。
マリアはいつもキラキラと輝く瞳で真っ直ぐ私を見てくれる。きっと、嫌われてはいない。
だが、マリアが近くにいると思考が働かなくなりどうしていいか分からなくなる。
「全く……、奥様が毎晩旦那様を待っておられるのは分かっているでしょう? いつまで奥様を待たせるおつもりですか」
結婚式の日、私は急遽出陣する事になり初夜はできなかった。ようやく国境が落ち着いて帰って来たら、マリアはますます美しくなっていた。
私が触れたら壊れてしまいそうで、マリアとふたりきりになれない。
毎晩、部屋の前までは行く。だが、なんと言って入れば良いか分からず諦めてしまうのだ。
「分かっているのだが……どうしていいか分からないんだ」
「とりあえず奥様を訪ねろ。それが無理なら、まずはもっと声をかけろ。夫婦になってロクに会話をしていないのだろう? 好きなものや嫌いなもの、やりたい事を聞いてみろ」
見かねたジョージの口調が荒れる。我々は幼馴染だから、時折素で話す。素を出せる友人は頼もしい。だか、優秀で女性に人気のあるジョージに嫉妬してしまう。
「私も、ジョージのように……」
ジョージのような見た目なら自信を持ってマリアと話せるのに。失礼な言葉を言いそうになり口を閉ざしたが、付き合いの長い幼馴染は私の言いたい事を見抜いてしまった。
「なら、なんだ。俺とロバートは違う。奥様は俺に見惚れたりしないぞ。ずっとロバートの姿ばかり目で追っている。もっと自信を持て。ロバートはかっこいい」
ニカっと笑い私を見上げるジョージは、男の私から見ても美しいし、かっこいい。
そうだ。自信を持とう。もう我々は夫婦なのだから。そう決意した直後、遠くの窓からこちらを見ているマリアと目があった。
真っ赤な顔で俯くマリアは、私ではなくジョージを見ているように見えた。
「またですか。いい加減にして下さい。いつまで奥様を放っておくおつもりですか」
「分かってる、分かってるけど……今日もマリアは私の顔を見て震えていた。きっと私が怖いのだと思う」
「怖がってる女性はあんな顔なさいませんよ。大丈夫です。間違いなく旦那様は奥様から好かれています。誕生日プレゼントは喜んで頂けたのでしょう?」
「ああ。喜ぶマリアは可愛かった……!」
「なぜ、それを直接奥様に伝えないのですか」
忠実な部下の額に青筋が見える。
言いたい事は分かる。だが、小刻みに震えるマリアは可憐で……俺が近寄ったら壊れてしまいそうなんだ。
「嫌われるのが怖いんだ」
「奥様が旦那様を嫌っているなんてありえません。それに、旦那様と話す時の奥様はとても幸せそうです」
「ジョージ、お前はマリアを見るな」
「無茶を言わないで下さい」
子どもの頃から兄弟のように育ったジョージは、私と違い整った顔立ちをしている。しかも優しく親切だからとても人気がある。
お見合い相手が毎回ジョージに見惚れてしまい、自分が主人の見合いの邪魔をしていると感じたジョージはお見合いについて来なくなった。だが、私は女性が苦手なのだ。ジョージが上手く会話の糸口を作ってくれていたから、ジョージがいないと右往左往してしまい、情けないと思われたのかお見合いを断られるようになった。
そんな私を心配して、王太子殿下が結婚相手を探して下さった。お相手は伯爵家のご令嬢。先方は乗り気だと聞いていたが、顔合わせにマリアは来なかった。娘は乗り気だからすぐ結婚しましょうと微笑む伯爵の笑顔が胡散臭く、独自に調べるとマリアは私を望んでいるのではなく、王家の顔を立てるため仕方なく嫁いで来ると分かった。
本来なら、この時点で私から断るべきだった。だが、マリアの絵姿はとても可憐で……一目で良いから会いたいと思ってしまった。伯爵が娘と私を利用して王家と懇意になろうとしているのは分かりきっていたが、マリアと結婚するチャンスを逃すのは惜しいと思った。
幸い、マリアは今までの令嬢のように泣いて嫌がったりせず、粛々と貴族の義務を果たそうとしてくれていた。マリアが少しでも嫌がればすぐ別れよう。そう決意して結婚した。
だが、今はそんな事思えない。結婚式で初めて会ったマリアは絵姿の百倍可憐で、私はマリアに一目惚れしてしまった。
マリアはいつもキラキラと輝く瞳で真っ直ぐ私を見てくれる。きっと、嫌われてはいない。
だが、マリアが近くにいると思考が働かなくなりどうしていいか分からなくなる。
「全く……、奥様が毎晩旦那様を待っておられるのは分かっているでしょう? いつまで奥様を待たせるおつもりですか」
結婚式の日、私は急遽出陣する事になり初夜はできなかった。ようやく国境が落ち着いて帰って来たら、マリアはますます美しくなっていた。
私が触れたら壊れてしまいそうで、マリアとふたりきりになれない。
毎晩、部屋の前までは行く。だが、なんと言って入れば良いか分からず諦めてしまうのだ。
「分かっているのだが……どうしていいか分からないんだ」
「とりあえず奥様を訪ねろ。それが無理なら、まずはもっと声をかけろ。夫婦になってロクに会話をしていないのだろう? 好きなものや嫌いなもの、やりたい事を聞いてみろ」
見かねたジョージの口調が荒れる。我々は幼馴染だから、時折素で話す。素を出せる友人は頼もしい。だか、優秀で女性に人気のあるジョージに嫉妬してしまう。
「私も、ジョージのように……」
ジョージのような見た目なら自信を持ってマリアと話せるのに。失礼な言葉を言いそうになり口を閉ざしたが、付き合いの長い幼馴染は私の言いたい事を見抜いてしまった。
「なら、なんだ。俺とロバートは違う。奥様は俺に見惚れたりしないぞ。ずっとロバートの姿ばかり目で追っている。もっと自信を持て。ロバートはかっこいい」
ニカっと笑い私を見上げるジョージは、男の私から見ても美しいし、かっこいい。
そうだ。自信を持とう。もう我々は夫婦なのだから。そう決意した直後、遠くの窓からこちらを見ているマリアと目があった。
真っ赤な顔で俯くマリアは、私ではなくジョージを見ているように見えた。
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