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「フィリップ様。色々と有難うございました。わたくし、甘かったですね」

「そこがマリベル様の良いところです。俺にはとても出来ない」

「フィリップ様はずっと前に気が付いておられて、メアリーの為に彼を鍛えてくれたんでしょう?」

「彼が真剣に頼んできたからですよ。俺はかなり無茶な宿題を毎回出していたのに、彼は全てクリアしてきた。余程メアリー様が好きだったのでしょうね」

「わたくし、何も知らなくて。勝手にメアリーに嫉妬して……」

「マリベル様」

フィリップ様が、真剣な顔でわたくしを見つめる。思わず、頬が赤くなる。

「は、はいっ!」

「嫉妬してくれたということは、少しは俺のことを意識して下さっているということでしょうか?」

「……それは」

「確かに、メアリー様のおっしゃる通り俺はヘタレです。外堀を埋めないと、貴女の気持ちを聞くことすら出来なかった」

「そそそ……それはつまり……!」

「ご家族のご許可は頂いています。マリベル様、偽りではなく、本当に俺の婚約者になって頂けないでしょうか? 貴女のことを、愛しているんです。少しでもマリベル様に相応しくなりたいと、爵位を賜る事にしました。領民のために一生懸命働くお姿も、妹君を慈しむ優しさも、時折見せる気の抜けたお姿も……マリベル様の全てが愛おしくてたまりません」

「あ、あの。わたくし、気を抜いておりましたか?」

「欠伸しておられたり、領民のめでたい報告を喜んだりなさっておられましたよね。他の人の前では決して見せないお姿がとても可愛らしいと思っておりました。俺が嫌いでないのなら、好きになって頂けるよう努力します。貴女を愛しています。他の求婚者と違い、俺はマリベル様だけを必要としています。例えマリベル様がガンツ様のお孫さんでなくても、平民であっても、貴女が好きです」

「どうして……そんな事を仰るのです」

「ずっと悩んでおられましたよね? ヴィクター殿下も、自分ではなくガンツ様を見ておられるようだと」

「そんな事……フィリップ様には言わなかったのに……」

「マリベル様が悩んでおられるご様子でしたので、リリア様に相談したんです。リリア様も結婚が決まるまでは悩んでおられたと聞きました。ガンツ様が偉大すぎるので、血縁であるリリア様やマリベル様に寄って来る男はガンツ様目当ての者が多い。だから、一度もガンツ様の名前を出さなかった男に惹かれたんだと仰っていました。俺は子爵になる時、正式にガンツ様の養子になりました。俺はマリベル様を利用する必要はない。ずるいのは分かっています。でもどうか、俺を選んで下さい。俺は、マリベル様の笑顔を見たい。マリベル様と、一緒に生きていきたいんです。俺が子爵になれたのも、マリベル様を見習って領地経営を学んだからです。だから、国王陛下の試験に合格できた。俺には、マリベル様が必要なんです。貴女を見ていると、俺はもっと自分に厳しくいられる。どうか、俺と……結婚して下さい」

「どうして……そんな事……」

「らしくないプロポーズなのは分かっています。本当なら、騎士らしく貴女を一生守ると言いたい。もちろん、マリベル様を一生守るつもりです。だけど、マリベル様はそんな言葉は喜ばないと思いました。先程のメアリー様との会話を聞いて確信しました。マリベル様は、守ってもらいたい方ではない。共に切磋琢磨するパートナーを求めておいでだと」

「そうです。けど、わたくしは女性です」

「性別なんて、関係ありません。確かにこの国は男性が優位ですが、ガンツ様は変えようとなさっています。内乱が落ち着けばリリア様が爵位を継がれます。マリベル様も、選びたい道を選んで下さい。俺と結婚しても、リリア様の跡を継ぐ事が出来ます」

「わたくしがお母様の跡を継げば、フィリップ様を支える事は出来ません」

「俺は一代限りの子爵で良いんです。領民の為、出来る事はなんでもします。でも、跡取りなんて要らない。お互いの領地は近いのですから、マリベル様と離れて暮らしても良い。でも、貴女が他の男と夫婦になるのだけは嫌なんです。身勝手な言葉だと思いますが、俺の本心です。マリベル様の事が……好きなんです」

「……わたくしが、フィリップ様について行きたいと言ったら?」

「もちろん大歓迎です」

「全部、わたくしが決めて良いのですか?」

「いいえ。俺と話し合って、お互い納得する方法を見つけましょう」

……前世では、理想的な夫婦像として存在した価値観。この世界では、決して受け入れられないと思っていた。

だけど、フィリップ様は……。

「わたくし……フィリップ様が好きです。どうか、わたくしと結婚して下さいまし」

女性からのプロポーズは前代未聞。
だけど、フィリップ様なら受け入れてくれる。

「喜んで。俺をマリベル様の一番大事な男にして下さい」

フィリップ様となら、わたくし……いえ……私らしく生きていける。
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