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「はぁ……はぁ……お前は俺の言う通りやってれば良いんだ。マリベルに余計な事を言うなよ。あいつはお人好しだから、お前が泣きつけば助けてくれると思ってるんだろうが……お前の父親はもう死んだんだ。あのジジイだってマリベルとしか血が繋がってない。いいか! 俺に捨てられたらお前は生きていけない。だから……」

マシュー様は振り返ると、言葉を失った。

「ママママ……マリベル?!」

腕は強く掴まれ跡が残っている。以前は怖くて仕方なかったけど、今は大丈夫。

「ご自分の妻くらい判別して下さい。あのジジイとは、うちの祖父の事でよろしいのでしょうか?」

「い、いや。違う! 違うぞ!」

「そうですか」

「……あの男は居ないな。いいか、余計な事は言うなよ! お前だって、余計な事を言われたら困るだろう!」

「余計な事とは?」

「お前は俺の婚約者だったんだ! それなりの関係だったと匂わせれば婚約なんておじゃんだぞ!」

「実際は何もなかったでしょう? そもそもマシュー様はわたくしを虐げるばかりで愛情なんてありませんでしたわよね? 口付けすらしておりませんわよ」

多分、恋人同士がやるような愛情表現をしたんだと匂わせるつもりなんだろうけど、この男はわたくしを虐げるだけでキスすらしてません。

「そんなもん、やったと思わせれば良いんだ! なんなら今からやってやろうか!」

「お断りします!」

「そうだ! そうだよ! 俺がマリベルの純潔を奪えば……」

話を聞いてくれない。しかも、目が据わってる。

「わたくしに手を出せばお祖父様が黙っておりませんわよ」

「子どもが出来ればいいんだろう。お前の父親みたいに……」

良くないわよ! ふざけんな!
どんな思考回路してるのよ。

ジリジリと近付いて来るマシュー様。怖いけど……きっと大丈夫。

「マリベル様!」

やっぱり、すぐフィリップ様が来て下さった。

「ひぃ! 出た!」

「マリベル様に触れないで下さい」

「ひ、ひいぃい!!!」

逃げようとしたマシュー様は、駆けつけたお祖父様に捕まった。しかも、国王陛下まで居る。お祖父様を見た瞬間、マシュー様は気絶した。お祖父様が、物凄い殺気を放っていたせいだ。

さすが、戦場で殺気だけで敵を退けたという伝説をお持ちのお祖父様だわ。

「コレは揉め事になるのか?」

「私をなんだと思ってるんだ。いくらなんでも一方的に乱暴を働こうとした男を取り押さえた程度で揉め事認定はせん」

「むう、残念じゃの。ゆっくり出来ると思ったのだが」

「隠居させてたまるか。大体、ガンツは気絶した男を支えているだけではないか」

「そんなに怖いかのぅ……」

「ふん! あんな殺気を当てられたら常人なら怯えるし、根性無しなら気絶するに決まっておろう。ケロリとしている其方の孫は鍛えられておるな」

「マリベルに武術は教えておらん。勝手な事を言うな! どこぞの為政者のせいで戦にばかり駆り出されておったから孫との時間が取れなかったんじゃ!」

「人を見る目がないジジイが余計な同盟を組んだからだろ!」

「お前が勧めてきた縁談だろうが! あんな男とは思わなんだ!」

「国王陛下、ガンツ様」

「む、すまんフィリップ。マリベル、大丈夫だったか?」

「はい。大丈夫でしたわ。あの、メアリーは……?」

「ミアが捕まえておる。話は聞こえておった。この男はもう終わりじゃ」

「揉め事厳禁なのに、よりによってガンツの孫を襲おうとするなんてね。安心して、親共々取り潰すから」

国王陛下が、にこやかに宣言する。

「マリベルがあの娘と話したがっていたとは聞いておる。すまんが、フィリップを連れて行ってくれ。でないと話すなと言ってしまいそうになる」

「分かりました。ありがとうございます。お祖父様」

わたくしは、フィリップ様と一緒にメアリーの元へ向かった。
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