上 下
25 / 38

25

しおりを挟む
パーティー会場に入ると、注目が集まってしまった。婚約が無くなったってヒソヒソ言うの、聞こえてるから。成人して初めてのパーティーだから、緊張してるのに。

「マリベル! 久しぶりね」

見兼ねて声をかけてくれたのは、公爵令嬢であるエリザベスだ。ちょっとキツイ性格だけど、はっきりものを言うエリザベスとは気が合い、家族ぐるみで子どもの頃から親しくしている。戦が増えてからは手紙のやりとりをしていただけだけど、変わらない様子で話しかけてくれて嬉しい。

「婚約者を妹に取られたって聞いてたけど、どうなってるのよ。ってか、いつ婚約して婚約解消したのよ! 全然知らなかったんだけど!」

エリザベスは、わざと大きな声で聞いてくれる。周りの人達が、聞き耳を立てているのが分かる。

「正式には婚約してないんだけどね。お祖父様がお認めにならなかったから」

「やっぱりね! じゃあ、マリベルは誰とも婚約してなかったって事よね?」

「うーん……そうなるのかしら?」

「そうなるのよ! ガンツ様がお認めになってらっしゃらないんだから、マリベルは婚約なんてしてなかったのよ!」

そう言って、エリザベスはわたくしにウィンクをする。急激に周りの空気が優しくなっていくのを感じる。

「ありがとう。エリザベス」

「なんのこと? それより、そちらの素敵な男性をご紹介してちょうだい」

「こちら、フィリップ・デュ・レヴィル様よ。お祖父様の養子になられたの。フィリップ様、友人のエリザベスですわ」

エリザベスは、楽しそうにフィリップ様とお話しを始めた。そういえば、エリザベスは騎士様が好きだったわね。

エリザベスが一方的に喋ってる気がするけど、2人が話してるのは絵になるわ。……なんだろう。ちょっとだけ、モヤモヤする。

「ガンツ様がお認めになったという事でしょう」

会話の間に聞こえたエリザベスの言葉に、胸がチクリとする。そうだ。お祖父様はエリザベスのお家でも一目置かれている。

そんなお祖父様が、養子にしたフィリップ様。

彼はたびたびご自分を卑下なさるけど、フィリップ様は注目されてる。さっきの視線だって、わたくしを馬鹿にしたものや伺うものだけじゃなくて、フィリップ様を見定めようとする目もあったんだ。

楽しそうに笑ってるエリザベスは、フィリップ様にモーションをかけているように見える。元々エリザベスは肉食系だ。男尊女卑な考えの人が多いこの世界でも、公爵令嬢という高い身分のあるエリザベスなら男性をお誘いする事は出来る。

フィリップ様はお祖父様の養子になったと言っても身分は男爵家。我が家に入った訳ではない。

エリザベスとは、圧倒的な身分差がある。けど、エリザベスは以前から貴族なら誰でも良いし、強い人と結婚したいって言ってた。エリザベスのご両親も、エリザベスの意志を尊重するって言ってたわ。

なら、フィリップ様はエリザベスにとっても理想の男性なのではないかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

義妹に婚約者を寝取られた病弱令嬢、幼馴染の公爵様に溺愛される

つくも
恋愛
病弱な令嬢アリスは伯爵家の子息カルロスと婚約していた。 しかし、アリスが病弱な事を理由ににカルロスに婚約破棄され、義妹アリシアに寝取られてしまう。 途方に暮れていたアリスを救ったのは幼馴染である公爵様だった。二人は婚約する事に。 一方その頃、カルロスは義妹アリシアの我儘っぷりに辟易するようになっていた。 頭を抱えるカルロスはアリスの方がマシだったと嘆き、復縁を迫るが……。 これは病弱な令嬢アリスが幼馴染の公爵様と婚約し、幸せになるお話です。

妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。 両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。 ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。 代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。 そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...