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「なっ……! そんな……! そんな事はありません!」

あら。真っ赤になってしまわれたわ。もしかして、褒められる事に慣れてらっしゃないのかしら?

なんだか可愛いわ。

まずい。母性本能が疼く。フィリップ様みたいに強そうな方が照れてるお姿はとっても可愛らしい。

「あの、是非お菓子をお召し上がり下さいませ!」

餌付けしたくなる。フィリップ様がお菓子を食べて微笑むお姿が見たい。

「……しかし」

「もう! ならわたくしが食べますわ!」

「是非! 是非そうして下さい! マリベル様が全てお召し上がり下さい」

「残念ですけど、わたくし1人ではこんなに食べられませんわ。だから、半分フィリップ様がお召し上がり下さいませ。わたくしを助けると思って、お願い致します」

最初からこうすれば良かったわ。わたくしが食べる姿勢を見せれば、フィリップ様は賛成する。食べきれないと言えば、助けて貰える。

「……承知しました……」

なんでそんなに緊張なさってるのかしら。確かに甘味は貴族の間でも貴重だけど、そんな覚悟を決めたような顔をなさらなくても……。まさか、本当は甘いものが苦手?

いや、でもそしたら苦手って言う方が簡単よね。わざわざ大好物だって仰るくらいだから、好き……なのよね?

「どうぞ、お召し上がり下さい」

「……では、有り難く……」

焼き菓子を口に入れたフィリップ様は、満面の笑みを浮かべて美味しそうに咀嚼なさっている。さっきまでの厳しいお顔はなく、幸せそうだ。

「美味い……!」

「良かった。もっとお召し上がり下さいませ。お茶のおかわりはいかがですか?」

「頂きます」

黙々と、幸せそうに焼き菓子を召し上がるフィリップ様を眺めていると、わたくしまで幸せな気持ちになる。

どんどん勧めていると、あっという間に焼き菓子は全てフィリップ様のお腹に収まった。

「はっ……! 申し訳ありません! 美味過ぎてつい手が止まらなくなってしまって……! 貴重な、伯爵家の菓子を……!」

「ふふっ。良いのです。この焼き菓子はわたくしの物です。家の物ではありませんから、気にしないで下さいまし」

「しかし、貴重な甘味を……」

「食べ物ですから、いずれは食べないといけませんもの。これは、わたくしが作った物なんです。お口に合って良かったですわ。日持ちはしますけど、そろそろ食べないといけなかったんです。だから、食べて頂けて良かったですわ」

「マリベル様の……手作り……ですか?」

「ええ。こんな世の中ですし、日持ちする保存食を開発しようと思いまして。少し甘ければ気も休まると思って作ったんですけど、コストがかかり過ぎたので試作した段階でやめてしまった物なんです。わたくしの私財で開発しましたから伯爵家の予算は使っておりませんのでご安心下さいませ」
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