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30.言えなかった気持ち

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「ジーナ、大きな音がしたけど大丈夫……? って、ライアン?! デュークまで! 何してるの?!」

「あー……すいません、すぐ帰りますんで……」

「ライアン?! なんで泣いてるの? ジーナ、これどういう状況?!」

「申し訳ありません。分かりません……」

「失礼しました!」

デュークはライアンを連れて部屋を出ようとしたが、ライアンのことを心配したケネスに引き留められた。

「待って! ライアンを僕の部屋に連れて行って。そこで落ち着かせよう。僕はともかく、ライアンがこんな姿で外に出たら何を言われるか分からない。ジーナと僕の部屋は繋がってるから、誰の目にも触れずに移動できる。良いよね?」

「は、はい。ありがとうございます」

「ジーナは、お湯とタオルを用意して」

「かしこまりました」

ライアンは、すぐにケネスの寝室に連れて行かれた。ジーナがお湯やタオルを用意するが、ライアンはなかなか落ち着かない。心配したケネスが医者を呼ぼうとしたが、デュークが止めた。

「ライアン殿下は少し感情的になられただけですから、落ち着けば大丈夫です」

「本当? さっき、僕のせいでって言ってたけど、どういう事?」

「兄様が馬鹿にされるのは……僕が……僕のせいだから……」

「ライアンのせいって……なんで?」

「ライアン殿下は、例の乳母の愚行は自分のせいだとずっと悩まれていたんです」

「なんで?! ライアンは無関係だよね?!」

「僕が母上を独占しなければ……」

「はぁー……ライアン、それは違うよ。あの人が色々やったのは事実だし、父上や母上が忙しくて気が付かなかったのは本当。けど、ライアンのせいじゃない」

「だって……兄様は優しいから……どんなに失礼な使用人でも許してしまう……僕だっていっぱい兄様を傷つけてて……」

「ライアンに傷つけられたことなんて1回もないよ!」

「嘘です! 兄様は優しいからそうやって庇ってくれるけど、僕のせいで兄様は貴族達に舐められているんだ! 何をやっても……うまくいかない。もっと兄様の役に立ちたいのに、出来ない。それなのに、ジーナはたった1日で……」

「ど、どういうこと? なんでジーナの話になるの?」

無言を貫くライアンに痺れを切らしたデュークが助け舟を出す。

「ライアン殿下、私からご説明しましょうか?」

「やだ! だめ! 言うな! もう平気です! 帰りますから!」

逃げようとするライアンを止めたのは、デュークだった。

「……いい加減にしろ。ちゃんと説明しねぇなら、俺が全部言うぞ」

「なんで……」

「暴走したら止めろとご命令したのはどなたでしたっけ?」

「……僕だな。悪い、面倒かけた。確かに、今更取り繕っても仕方ない。兄様、ジーナ、ごめんなさい。僕は、ジーナに嫉妬したんです。簡単に兄様に信頼されたジーナが妬ましかった。今までの使用人は兄様の部屋にある使用人部屋を使わせて貰えなかったのに、ジーナはあっさり部屋を与えて貰えた。今まで出歩かなった兄様が、急に出歩くようになった。使用人達も、少しずつ態度が変わってる。全部、ジーナのおかげですよね。分かってます。僕じゃ、駄目だった。僕が兄様の為にと付けたメイドは、全員兄様の信頼を得られなかった。それどころか、兄様の世話をロクにしなかった。いつも兄上に解雇されてしまう。それが悔しかったんです。兄様の役に立ちたかった。でも、僕は何も出来ない」

「ぼくが部屋に引きこもっていたのはライアンのせいじゃない。僕自身の責任だ! それに、ライアンは僕の大事な弟だ。昨日だって助けてくれた!」

「そうでしょうか。僕がもっと元気なら、病弱じゃなければ……父上はともかく母上は乳母の愚行に気が付いたはずです」

「違う! あれはどうしようもなかった!!! 誰も悪くない!」

「僕が悪いんです!」

「僕がみんなに訴えれば良かったんだ! けど、怖くて……だから、僕が悪いんだよ!!!」

お互いを悪いと言い泣き始めた兄弟に、ジーナは追加のタオルを差し出した。デュークとジーナは、自らの主人の世話を甲斐甲斐しく行う。

先に落ち着いたのは、ケネスだった。心配そうに世話をするジーナにみっともない姿を見せたくないと思ったからだ。
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