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29.ライアンの心

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ライアンは、ジーナの部屋をノックしたが全く返事がなかった。

「いないのかな?」

「彼女には監視が付いています。部屋を出たとの報告はありません」

「……ならなんで返事しないの?」

「分かりません」

「ああもう! 早くしないと兄様の授業が終わっちゃう! ジーナ! 居る?! ねえってば!」

「あまり大声を出すとケネス殿下に気付かれますよ」

「もう……あれ? 鍵開いてる……」

「いくら王子でも、女性の部屋に無断侵入するのはどうかと思います」

「ちょっとだけ! ほら、倒れてたりするかもしれないし!」

「言い訳するくらいなら堂々と入られてはいかがですか? 王子である自分が呼んでるのに来ないとは何事だ! とか言えばジーナ様なら謝罪すると思いますよ。純真な令嬢を弄ぶ、さすがライアン殿下です」

「……さっきから僕への当たりがキツくない?」

「最初に八つ当たりしたのはライアン殿下でしょう。もう開けてしまったのですから、さっさと入りましょう」

「分かったよ。なんか納得できないけど、時間もないし入ろう」

ライアンが部屋に入ると、部屋の隅でジーナは本を読み耽っていた。

「ジーナ! ジーナ!」

呼びかけても、集中しているジーナは全く返事をしない。仕方なく、ライアンはジーナの顎に手をかけ無理矢理顔を上げさせた。

「ジーナ・オブ・ケニオン、返事をしろ」

「きゃ! え……そのお声はライアン殿下?! し、失礼致しました!」

慌てて本を閉じて、ジーナは起立した。

「何度も呼んだが、返事がないので入らせてもらった」

「申し訳ありません! 本に夢中で、全く気が付いていませんでした!」

「ふん、いい身分だな。何を読んでいたんだ?」

「ケネス殿下に薦めて頂いた本なのですが、どれも興味深くて……」

「詳細は良い。お前に話がある。手短に言うぞ、何を企んでいる?」

「何を……? と申しますと?」

全く分かっていない様子のジーナにイライラしたライアンは、大声で怒鳴りつけた。

「なんで兄様に近づいたんだよ! 兄様も、ジーナだけは信用してる。どんな手を使った!」

「……ちょっと落ち着きましょうか。初めまして、ジーナ様。ライアン殿下の侍従をしております、デューク・グラハム・コーと申します」

「もしかして、コー伯爵のご子息ですか?」

「はい。ライアン殿下とは乳兄弟です。現在は侍従としてお仕えしております」

「そうでしたか。はじめまして、ジーナ・オブ・ケニオンと申します。妹からお話は伺っておりますわ」

「ニコラ様とは、何度か夜会で踊らせて頂きましたからね。お噂通り、お優しい天使のような方でしたよ」

「妹をお褒め頂き、嬉しいですわ。ありがとうございます」

「おい、聞いてないぞ」

「今は情報が要らないと仰ったのは、ライアン殿下でしたよね?」

「……ちっ」

「おやおや、王子ともあろうお方が令嬢の前で舌打ちですか。みっともないですねぇ」

「うるさい!」

「あ……あの……」

「ああ、失礼しました。ほら、ちゃんと冷静に話して下さいよ。ライアン殿下は、だーい好きなケネス殿下の信頼をあっさり得たジーナ様が妬ましくてしょうがないんです」

「そんな事はっ……」

「あるでしょう? いつもの冷静さは何処へ行ってしまわれたのですか。いつものライアン殿下なら、ちゃんと私の話を最後まで聞いて下さいますよね?」

「う……それは……」

「ジーナ様が本当にケネス殿下に忠誠を誓っているのか不安なのは分かりますけどね、薦められた本をこれだけ夢中で読んでるんですから信じましょうよ。ってか、本当はとっくに分かってましたよね? 認めたくないだけで」

「……だって……僕のせいで……」

「あーもう! 帰るぞ! ジーナ様、失礼します。本日のお詫びはまた後日伺いますので、今日来た事はケネス殿下に内緒にして頂けませんか?」

「それがケネス殿下の為なら構いませんが、そうでないのなら全てご報告します。きちんと理由を述べて下さい」

「……厳しいっすねー……。おい、ライアン、しっかりしてくれよ」

「……だって……僕が……」

明らかにおかしな様子のライアンに、どう声をかけて良いか分からないジーナは、唯一理解出来た事を問うた。

「あ、あの、ライアン殿下は、とてもケネス殿下の事を大事に思われていらっしゃるのですよね?」

ジーナの質問は、ライアンの急所を突いた。ライアンはジーナの胸ぐらを掴み、叫ぶ。

「そうだよ! お前なんかよりずーと前から、僕は兄様が大好きなんだ!!!」

「やめろ、馬鹿」

デュークがライアンを引き剥がすと、騒ぎを聞きつけたケネスが部屋に飛び込んで来た。
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