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27.優しい噂
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「はぁ……、やっぱりキツい……」
「お疲れ様でした。入浴の準備をしますので、ゆっくりお休み下さいませ」
「ありがとう」
『ジーナは、僕の事情けないって思わなかったかな。あれだけ離れてれば、僕の姿は見えてないよね。騎士達と同じような格好をしたし、大丈夫だよね?! 一緒に居たいからって連れて来なきゃ良かったかな……。でも、公式に出歩くなら侍女は付けなきゃいけないし……。もう! 王子って面倒臭い! こっそり訓練に混ぜてもらおうとしたら、ちゃんと手続きを踏まないと駄目って言われるし、周りの目はやっぱり怖いし……。けど……』
「騎士団の訓練はやっぱり厳しいですね。わざわざ訓練に参加して己を鍛えようとなさるなんて、さすがケネス殿下ですわ!」
『相変わらず僕を肯定してくれんだね。今日は、ジーナが一緒だったから怖くなかった。見えないだろうに、必死で僕の姿を探してくれてるのが可愛かった。そんなジーナを見てたら、周りの悪口が聞こえなくなるんだから不思議だ。ジーナを守る為に鍛えようと思ってたけど、結局僕がジーナに助けられてるな』
「全然、ついていけてなかったけどね」
自虐的に笑うケネスに、ジーナは優しい声で笑いかけた。
「最初はうまくいかなくて当然ですわ。兄だって何度も騎士の試験に落ちましたもの。それなのに……あんな事を言うなんて……」
「どうしたの? そういえば、騎士達と話してたね。やっぱり騎士達と仲良くする方が良い?」
訓練の最中、ジーナが笑いながら騎士と話しているのを見たケネスは内心ショックを受けていた。それからは見ないように訓練に集中していたが、今までのようにどこか諦めた気持ちになっていた。
しかし、ケネスの心に落とされていた黒いシミは、ジーナの言葉であっさりと漂白されていく。
「あんな人達、仲良くなる訳ないじゃありませんか! 顔が分からなかったのが残念ですが、呼び合っていた名前と声、隊服の紋章の色は覚えましたから、後で調べて、王太子殿下にご報告しますわ!」
「えっと、何があったの?!」
「それは……」
「もしかして、僕の悪口でも言ってた?」
涙目になったジーナは、小さく頷いた。
「気にしないで。よくある事だから。わざわざ兄上に報告しなくて良いよ。そんな事したらキリがないし、兄上だって暇じゃないんだから」
「なぜですの?! あのような態度、不敬ですわ! 兄からは大人しくする事がケネス殿下の為になると言われたから我慢しましたけど、でなければその場でひっ叩いてやるところでしたわ!!!」
「お、落ち着いて! 僕は気にしてないから! 騎士達だって、いきなり僕が訓練に混ざったら邪魔だよ。入れてくれただけ、ありがたいんだからさ」
「……殿下がそう仰るなら、我慢しますわ」
頬を膨らませるジーナに、思わず顔が赤くなるケネス。
「可愛い」
「申し訳ありません。聞こえませんでした。やはりあの騎士達を屠って来ますか?」
「なんでもない! 屠らなくて良いから! ジーナ、さっきから発言が過激だよっ!」
「申し訳ありません……」
『ああもう! しゅんとしてるのも可愛いなぁ! じゃなくて、さっき怒ったジーナはめちゃくちゃ怖かったんだけど! 一体、何を言われたの?!』
騎士達はジーナに、あんな出来損ないの侍女なんて大変だなと笑いかけた。怒ったジーナは、ニコニコと笑いながら殺気を放ち、名前と所属を訪ねた。
ジーナの怒りを察知した騎士達は、慌てて逃げ出したというのが真相だ。ジーナは、なんとか怒りを抑えたつもりだが、全く抑えられていなかった。
「とにかく、僕が公式に出歩いたのは久しぶりなんだ。だから悪口が聞こえてくるのは仕方ないんだよ。今までは怖かったけど、もう大丈夫。ジーナは、僕の事嫌ったり馬鹿にしたりしないよね?」
「もちろんですわ。ところでケネス殿下、そのような事を言う無礼な者達の名前や所属はご存知ですか? 全員、わたくしが……」
「屠らないでね? いちいちそんな事してたら使用人が足りなくなるから。それに、馬鹿にされたまま放置した僕にも責任があるんだからさ」
「そんな! ケネス殿下は悪くありませんわ! どうしてケネス殿下の魅力が伝わらないのか、全く分かりません!」
「しー! ここは誰も居ないけど、あんまりジーナが僕を慕ってくれてるってバレない方が良いでしょ。部屋に戻ったら話を聞くから、今は静かに僕について来て」
「承知しました。やっぱりケネス殿下は素晴らしい方ですわ……」
『嬉しい、嬉しいけどっ! どうしてここまで慕ってくれてるのに上手くいかないんだろう……』
ジーナを振り向かせる事しか考えてなかったケネスは気が付かなかったが、堂々と出歩く第二王子を見て、使用人達は噂をした。見る事すらなく、出来損ないだと言われていた第二王子だが、侍女を引き連れ堂々と歩いている。侍女も、ずいぶん王子を慕っている様子だ。
もしかして、第二王子は出来損ないなんかじゃないんじゃないか? 騎士団の訓練も、投げ出さず行ったそうではないか。
いつもならすぐにケネスの侍女やメイドが否定する優しい噂は、静かに広がっていった。事ある事にケネスを賞賛するジーナの存在が大きかったのだが、当の本人はケネスに仕える事に夢中で、全く気が付いていなかった。
「お疲れ様でした。入浴の準備をしますので、ゆっくりお休み下さいませ」
「ありがとう」
『ジーナは、僕の事情けないって思わなかったかな。あれだけ離れてれば、僕の姿は見えてないよね。騎士達と同じような格好をしたし、大丈夫だよね?! 一緒に居たいからって連れて来なきゃ良かったかな……。でも、公式に出歩くなら侍女は付けなきゃいけないし……。もう! 王子って面倒臭い! こっそり訓練に混ぜてもらおうとしたら、ちゃんと手続きを踏まないと駄目って言われるし、周りの目はやっぱり怖いし……。けど……』
「騎士団の訓練はやっぱり厳しいですね。わざわざ訓練に参加して己を鍛えようとなさるなんて、さすがケネス殿下ですわ!」
『相変わらず僕を肯定してくれんだね。今日は、ジーナが一緒だったから怖くなかった。見えないだろうに、必死で僕の姿を探してくれてるのが可愛かった。そんなジーナを見てたら、周りの悪口が聞こえなくなるんだから不思議だ。ジーナを守る為に鍛えようと思ってたけど、結局僕がジーナに助けられてるな』
「全然、ついていけてなかったけどね」
自虐的に笑うケネスに、ジーナは優しい声で笑いかけた。
「最初はうまくいかなくて当然ですわ。兄だって何度も騎士の試験に落ちましたもの。それなのに……あんな事を言うなんて……」
「どうしたの? そういえば、騎士達と話してたね。やっぱり騎士達と仲良くする方が良い?」
訓練の最中、ジーナが笑いながら騎士と話しているのを見たケネスは内心ショックを受けていた。それからは見ないように訓練に集中していたが、今までのようにどこか諦めた気持ちになっていた。
しかし、ケネスの心に落とされていた黒いシミは、ジーナの言葉であっさりと漂白されていく。
「あんな人達、仲良くなる訳ないじゃありませんか! 顔が分からなかったのが残念ですが、呼び合っていた名前と声、隊服の紋章の色は覚えましたから、後で調べて、王太子殿下にご報告しますわ!」
「えっと、何があったの?!」
「それは……」
「もしかして、僕の悪口でも言ってた?」
涙目になったジーナは、小さく頷いた。
「気にしないで。よくある事だから。わざわざ兄上に報告しなくて良いよ。そんな事したらキリがないし、兄上だって暇じゃないんだから」
「なぜですの?! あのような態度、不敬ですわ! 兄からは大人しくする事がケネス殿下の為になると言われたから我慢しましたけど、でなければその場でひっ叩いてやるところでしたわ!!!」
「お、落ち着いて! 僕は気にしてないから! 騎士達だって、いきなり僕が訓練に混ざったら邪魔だよ。入れてくれただけ、ありがたいんだからさ」
「……殿下がそう仰るなら、我慢しますわ」
頬を膨らませるジーナに、思わず顔が赤くなるケネス。
「可愛い」
「申し訳ありません。聞こえませんでした。やはりあの騎士達を屠って来ますか?」
「なんでもない! 屠らなくて良いから! ジーナ、さっきから発言が過激だよっ!」
「申し訳ありません……」
『ああもう! しゅんとしてるのも可愛いなぁ! じゃなくて、さっき怒ったジーナはめちゃくちゃ怖かったんだけど! 一体、何を言われたの?!』
騎士達はジーナに、あんな出来損ないの侍女なんて大変だなと笑いかけた。怒ったジーナは、ニコニコと笑いながら殺気を放ち、名前と所属を訪ねた。
ジーナの怒りを察知した騎士達は、慌てて逃げ出したというのが真相だ。ジーナは、なんとか怒りを抑えたつもりだが、全く抑えられていなかった。
「とにかく、僕が公式に出歩いたのは久しぶりなんだ。だから悪口が聞こえてくるのは仕方ないんだよ。今までは怖かったけど、もう大丈夫。ジーナは、僕の事嫌ったり馬鹿にしたりしないよね?」
「もちろんですわ。ところでケネス殿下、そのような事を言う無礼な者達の名前や所属はご存知ですか? 全員、わたくしが……」
「屠らないでね? いちいちそんな事してたら使用人が足りなくなるから。それに、馬鹿にされたまま放置した僕にも責任があるんだからさ」
「そんな! ケネス殿下は悪くありませんわ! どうしてケネス殿下の魅力が伝わらないのか、全く分かりません!」
「しー! ここは誰も居ないけど、あんまりジーナが僕を慕ってくれてるってバレない方が良いでしょ。部屋に戻ったら話を聞くから、今は静かに僕について来て」
「承知しました。やっぱりケネス殿下は素晴らしい方ですわ……」
『嬉しい、嬉しいけどっ! どうしてここまで慕ってくれてるのに上手くいかないんだろう……』
ジーナを振り向かせる事しか考えてなかったケネスは気が付かなかったが、堂々と出歩く第二王子を見て、使用人達は噂をした。見る事すらなく、出来損ないだと言われていた第二王子だが、侍女を引き連れ堂々と歩いている。侍女も、ずいぶん王子を慕っている様子だ。
もしかして、第二王子は出来損ないなんかじゃないんじゃないか? 騎士団の訓練も、投げ出さず行ったそうではないか。
いつもならすぐにケネスの侍女やメイドが否定する優しい噂は、静かに広がっていった。事ある事にケネスを賞賛するジーナの存在が大きかったのだが、当の本人はケネスに仕える事に夢中で、全く気が付いていなかった。
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