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7.お仕えさせて下さいませ

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王太子は、出来るだけケネスの側に付いているように指示をしてジーナをメイドとして正式に雇用し、ケネスの部屋のすぐ近くにジーナの使用人部屋を用意して出て行った。

ケネスは、淡々と兄の指示に従うジーナを見て、涙が止まらなかった。

「ごめん……ごめん……」

「問題ありませんわ。半年もお時間を頂けるなんて、王太子殿下もお優しい方なのですね。それより、ケネス殿下に侍女は付いておりますか?」

「なんでそんなに平気な顔してるの?! 死ぬかもしれないんだよ!」

「仕方ありませんわ。わたくしはそれだけの事をしたのですから。家族は助かりますし、生きるチャンスがあるだけありがたいです。気にしないで下さいませ」

「気にするに決まってるでしょ! なんで兄上に余計な事を言ったの?! 何もしてないって言えば良かったじゃない!」

「王太子殿下に嘘をつく事など出来ません」

「今までは、みんな自分が助かる為に嘘をついたり黙ったりしたのに……兄上だって、証拠がなければ罰を与えたりしないんだから……なんでジーナだけ……」

「ケネス殿下は、お優しい方なのですね。わたくしの為に、涙を流して下さるなんて」

ハンカチを差し出すジーナは、優しそうに笑っていた。

『なんで……こんなにいい子が死なないといけないんだ……。いや……僕が変われば……ジーナは助かる……』

「ジーナ、兄上の条件、理解してる?」

「はい、先程のメイドのように失礼な者達が城には多数いらっしゃるのですね」

「……うん。僕に優しくしてくれる人はごく一部だ。家族と……あとはフィリップを含めた一部の騎士くらいかな」

「ケネス殿下のお世話をする使用人は、先程のメイドのような態度が当たり前なのですか?」

「あの子は結構酷い方だったかな。兄上に何度もクビを言い渡されそうになっていたし、処刑するって言われた事もある。けど、処刑するには証拠か証言が要るから……」

『こんなに素晴らしい方に仕えておきながら、処刑されそうになるなんて、何をしたのよ。わたくしなら、誠心誠意お仕えするのに』

「ケネス殿下が、あのメイドを庇っておられたのですね」

「……うん。僕は処刑なんて嫌なんだ」

「お優しいのですね。クビになったメイドは論外として、ケネス殿下の使用人は何名おられるのですか?」

「僕はあんまり使用人が居るのが嫌なんだ。だから、我儘を言って侍女とさっきのメイドが1人ずつ居るだけだよ。侍女の名前は、エレノア・オブ・ベケット。けど、あんまり来ないようにって言ってるから……態度はかなり冷たいけど、さっきのメイドよりは良いかな。ジーナも何も言わなければ良かったんだよ。そしたら証拠はないんだから、助かったのに……」

「……ケネス殿下」

ジーナの悲しげな声に、ケネスはビクリと身体を震わせた。ジーナは、真っ直ぐケネスのを目を見つめている。

「なななっ……なにっ……」

「わたくしは、父から王家への忠誠心を叩き込まれて育ちました。兄も、妹も同じです」

「……それは、ジーナやフィリップを見ていれば分かるよ。フィリップも、僕の悪口を言った騎士を扱いたって聞いた。フィリップのおかげで、少しだけ騎士達が僕に優しくしてくれるようになった」

「それは、当然なのです。王族の方々は、我々の代表。わたくし達が飢えずに、命の危険もなく暮らしていけるのは王族の方々が国家を運営し、外交を行い危険を排除して下さるおかげです。我が国はとても平和ですが、他国では小競り合いが起きるだけでもたくさんの人が死ぬと聞きます。数年前の飢饉では課税を免除して下さり、備蓄を放出して下さいました。おかげで、うちの領地は餓死者が出ませんでした」

「あれか。備蓄を放出するように言ったのは僕なんだ。役に立ったんだね。本当に良かった」

「やはりそうだったのですね。心から感謝致します」

「やはりって……なんで……? 僕は兄上に提案しただけで動いたのは兄上だ。みんなも兄上がやったと思ってるのに……」

「本棚を拝見しました。あちこちに貼られているメモも。それらから推察したまでです。本棚を拝見する許可は頂きましたので……もしかして、内密だったのでしょうか?」

「そんな事はないよ。ただ、表向きは兄上が提案した事になってるから黙っておいて。今更だしね。僕が提案しても誰も聞いてくれないから兄上に頼んだんだ。あの時は急いで対処しないと人が死んでしまう緊急事態だったから、兄上も渋々許してくれた。いつもなら、僕が提案しろって言われるんだけどね」

「承知しました。わたくしの胸に留めておきます。誰にも言いませんわ」

「あ、フィリップは知ってるから言っても良いよ。兄上とフィリップは、仲が良いんだ。いずれフィリップは兄上の近衛騎士になりたいんだって。あ、コレも内緒ね」

「……そうだったんですね。知りませんでした」

「家族にも内緒にしてたんだ」

「兄が仕える人を見つけたと聞いていましたが、誰かは教えて貰えませんでした。王太子殿下に仕える事にしたのですね」

「確かにフィリップは兄上を尊敬してるって言ってたけど、仕えるってどういう事?」

「うちは騎士の家系ですから、自分が認めた主人に仕える事が至上の喜びなのです。兄は数年前に見つけたと言っておりました。その方の隣に堂々と居られるようになったら教えると言って、誰かは教えてくれませんでしたわ」

「そうなの? もしかして、ジーナにもそんな人が居るの?」

「わたくしは居ませんでした。ですが、先程見つけましたわ。もちろん、仕えるご許可が頂ければですが……」

「兄上かな? 聞いてみる?」

「いいえ」

ジーナは跪き、ケネスの手に口付けを落とした。

「わたくしがお仕えしたいのは、ケネス殿下です」

「……え、え、えええ?!」

「ケネス・ジェームス・ファラー殿下、貴方様の優しさを知りました。本棚から推察される思慮深さも知りました。わたくしは、ケネス殿下を心から尊敬しております。あと半年の命かもしれませんが、どうかわたくしをお側に置いて頂けないでしょうか。ケネス殿下に、お仕えしたいのです」

「なんで僕にっ……!」

「貴方様を尊敬しております。心から」

「兄上じゃなくて……?」

「王太子殿下も素晴らしいお方だと思います。ですが、わたくしが尊敬し、仕えたいのはケネス殿下です。どうか……お願いします。貴方様にお仕えさせて下さい」

ジーナから潤む目で頼まれたケネスは、思わずコクリと頷いた。

ジーナが嬉しそうに微笑むと、ケネスの頬は真っ赤に染まる。

『か、可愛い……。なんなのこの子、表面だけ取り繕う貴族達と違う、本気の目だ。こんな目をした女性、見た事ない……。これ、本気だよね。フィリップが兄上に忠誠を誓った時と同じ目……。ど、どうしよう。なんだかすごくドキドキするっ……!』
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